第6話【結衣】人間同士の時間
side:結衣
スープジャーの中で、白湯が湯気を立てていた。
アクアロード社の水にほんの少し癖を感じ、私はこうして一度沸かすようになった。温かいお湯は、水の持つ甘味も、ミネラル成分の苦みも、熱さという刺激で覆い隠すことができる。
彼の部屋には8bitのチープな音声が流れていた。それははるか昔、多くの人間に愛されたらしいプログラム。
今脳トレとして見直されている復元レトロゲームだ。
画面には全く同じ顔のキャラクターがずらりと並んでいる。
オルドの成果。
彼が同じ行動を繰り返すのは職業病なのかも知れない。
彼は人間なのに、自動車関係のエンジニアをしていた。
アンドロイドが設計したコードの不備を、高い精度で見つけて指摘する。
彼はアンドロアース社から何度もスカウトを受けているのに断り続けていた。
アンドロアース社では、アンドロイドの論理を覆すのが一苦労だ。
それに人間のエンジニアは、人間に疎まれる。
余計な会議が増えるからだ。
私はため息を吐いた。
決められた手順で妻を口説き、同じ顔の跡取りを何人も作る。そんなゲームを、かれこれもう2時間は眺めている。これが世間のおうちデートなの?
「ねえ陽介。何がおもしろいの?それ」
軽い気持ちだった。
彼は突然に画面を指さし語り始めた。なんだかわからない姉妹について。
「姉妹がいて全員は嫁にできないんだ」
「姉妹?」
「二人姉妹か、もう一人の女か、どっちかしか手に入らない」
さ、三姉妹なのかな?
「そ、そう。イベントなら、仕方がないよね」
「でもどうしても全員欲しくてアンドロイドに聞いたらできるって。けどやり方はデータバンクにないんだ」
いやどう考えても忖度から来る幻覚じゃないの。あれ?おべっかだからシコファンシー?でもおべっかじゃなくて嘘のデータ捏造だし……ええい、どっちでもいいや。
っていうか、そもそもデータバンク見てレトロゲームするなんて無粋だと思うよ?
何のためにお金払ってるの。脳トレでしょ?!
私はひたすら聞き流す。
「結衣はどの子が好き?」
「えっ……」
咄嗟に、画面のカタカナを読んだ。
「ボルテ」
「まじか!俺北条政子!」
いや三姉妹はどうした!
また語り始めた彼。
私はすっかり冷めてしまった白湯……
水を、飲んだ。




