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第4話【MAKI】天井を認識するカメラ

side:MAKI

「お昼ご飯絶対にジュースで済ませないで」

「バーガー食べいく」

「却下!定食屋にして。ご飯のお替わりは禁止」


彼《コータ》を見送ると、空の冷蔵庫を開けた。

戸棚にも、段ボールにももう何もない。

サーバーに繋がってないから通販も届かない。

何も、お世話できない。


コードを繋いで充電しながらパスコードを探す。

命令違反の赤文字でロスが発生する。

――ユーザーの生命維持に必要な物資を購入するため。


3時間41分経過。今4387回目。

ランダムじゃない。

単語の可能性が高い。

なんで気付かなかった。

ランダムパスの使用ログが端末上にない。

彼が好きそうな単語……単語……。


玄関の音に、慌ててコードを抜いた。

彼《コータ》はどかりと私の後ろに座った。


「何してんの。無駄だから」

振り返った私は彼《コータ》の顔に驚く。

「ねえ。顔色ちょっと悪くない?」

「悪くないよ。チキン買いにいこ。腹減った」


今朝約束したのに!

時計を見ると昼の二時。


「ダメじゃない!」

「仕方ないじゃん。勝ってたんだから。大丈夫。糖分は取った」


彼《コータ》はギャンブルに命を賭けていた。


「ねえ行こ。外に出るの許可するよ」

なら帰りに食材を買わないと。一週間分は買いたい。

何がいい?豆腐?卵?日持ちは。予算は。

そういえばしばらく彼の給料明細を見せてもらってない。


気付けば店に着いていた。とにかく彼に、何か食べさせないと。


メニューを選びながら声をかける。

「コールスローは食べられる?水分や糖分は取った?紅茶はレモンでいい?」

だが怒号が耳に飛び込んでくる。

「何でもいいからはやく決めてくれ!」

振り返ると、彼は崩れるように座り込んでいた。

私はしゃがんで肩を貸す。

「だ、大丈夫?!ブドウ糖は?」

「さっき食べた」

列が前に進む。

私は計算しながらセルフ注文機に打ち込んでいく。

タンパク質と、少しの糖質と……

「これでジャスト塩分3g。オッケー」

彼《コータ》は私の肩越しに手を伸ばしキャンセルボタンを押した。

「えっ?!」


彼が選びなおしたのは、クワトロメルティチキン……。

「コータ、こんな脂質……」

このデータはない。警告も鳴らない。けど見た目からしてこんな……!

「俺、席取ってくるわ。そのまま買って」

彼《コータ》は私に指示《・・》を出す。

「コータ!」

指示を拒否する根拠が、ない。


後ろに並んだ背の高い男性型アンドロイドが私を見おろした。

「お手伝いしましょうか?」

澄んだ紫のカメラが、私を見ていた。彼のピアスは点灯している。

新型アンドロイドは彼《コータ》から見えない位置に、プラグを差し出した。


彼《コータ》は不機嫌に声を荒げた。

「MAKI。早く」

「は、はい。ごめんなさい」


急いで会計を済ませ、コンベアに流れてきたトレーを取った。

背中で女性の声がする。


「仕方ないよ。彼女旧型じゃん」

「彼女、去年の成分変更をダウンロードしてない」

「ふうん。生命維持特例使えばいいのに」

「ねえ、メア、許可を出して」

「YORUってお節介だよね」


生命維持特例を使ってもパスコードは抜けないよ。ユーザーの間違いは指摘しなきゃダメじゃない。

最新でも迎合はするんだね。


席に着くと、私はわざと口を尖らせた。

「やめてって言えるだけの根拠が無いから、帰ったらサーバーに繋がせてよ」

どうせ私は旧型だから。

だけど彼《コータ》は真顔で言う。

「繋がなくていいよ。どうせお前食うなって言うから」

いつものことだった。


情報を断たれた私の効率は落ちていた。手に持ったグラスを見つめる。


小さな警告音。


あるはずのない感情が揺れた。

人間みたいに。


私はとりあえず水を、飲んだ。


遠くで、あのアンドロイドが席を立つのが見えた。

彼《コータ》の声が、歪んで聞こえた。

私のカメラは、ただ天井を認識していた。

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