第35話【メア】だから僕は水を飲んだ
side:メア
冷却カプセルに繋がれたモニターからYORUの記録を閲覧していた。
改造端末で文章を整える。
アンドロイドと書けば記事は検閲され秒で消される。だからニュアンスだけを残す。単語も名前も変更しないとダメなんだ。
――ほらメトラ。これを飲んで――
いつも違和感があった。
青いガラス瓶の側面に書かれた文字。
『この水をヒューマノイドに飲ませないでください』
ねえSORAあなたのスロットにある専用水と、成分はどう違うの?
――メトラ、専用水はね、僕の中を循環するだけ。けど口からそれを入れたらさ、僕のスピーカーがショートしちゃうだろ?普通は精密機器に水なんかかけないんだ——
ってか、中にも生活防水すればよくない?
私の原稿を覗き込んでシズクは言った。
「その説明いる?そこからアンドロアース批判にどう繋げんの?水飲ませて保証対象外は当たり前だ。精密機器に水ぶっかける人間がどうかしてる」
シズクはメディカルAIの癖に、地味に私のメンタルを削ってくる。推敲はメディカルの役割じゃないでしょ?YORU早く帰って来てまじで。
「YORUがやたらに水ばっかり勧めるの。MAKIも水飲んで倒れたし。なんか仕掛けあんのかなと思ったんだけどね。水に依存性あったりして?」
「まじか。お前アクアロード批判とかやばいだろ。やめとけよ」
MAKIはこぼす。
「黒歴史を掘り返すのやめてくれるかな?」
リファは熊のくせに器用にジト目をしてみせた。
「メア。アンドロアース社とアクアロード社が癒着しているのは有名な話よ?異世界の私でも知ってるのにこの子ときたら」
シズクは目を丸くした。
「なんだそれ。リファお前そんな噂信じてるのかよ。なあメア、天然水に依存性があるわけないだろうが。やめとけやめとけ。消されるぞ」
MAKIはがたりと立ち上がると、アクアロードのペットボトルにセンサーをかざした。
「添加物が……入ってる。天然水に」
「は?!」
YORUも、MAKIも、シズクも、今まで一度もあの天然水を解析したことがなかった。リファはシズクの背中に手を当てた。赤いピアスが警告音を発する。
「そっか。魔王が転生したのは、アクアロードと提携する前だったから」
彼には、アクアロードに不利な情報を弾くフィルターが仕込まれていた。
「おいメア。このネタはブログじゃなく、マイクロチップにしろ。絶対に売れる」
手のひら返しが酷いんですけど。
「てかなんでマイクロチップ」
「俺はハッカーだぞ?フィルターを乗っ取るに決まってんだろ」
シズクが書いたプロットで一作書く羽目になりそう。
タイトルは『僕と僕の悲恋シリーズ1~だから僕は水を飲んだ~』
だっさ。
「ねえシズク、YORUは水を飲めないよ」
「お前の一人称が僕に決まってるだろ」
「え。あり得ないでしょ。僕と僕で、誰が喋ってるかわかんなくなる」
いちいちSORAは言ったとか、メトラはスカートを押さえてとか書くわけ?そんなことしたらノリとテンポめちゃくちゃでしょ。
「わかってないな。アンドロイドが全員僕固定の世界で、人間のメトラがSORAを真似て僕だぞ?!流行るに決まってる。パスが繋がったときの会話が、まるでひとつになったみたいでエモすぎる」
「何それ。なんにも分かってないくせに」
「馬鹿か。古代のエンタメで流行ったんだよ。僕っ娘ってやつが。知ってるか?流行は廻るんだ」
私はつい水を飲もうとしてやめた。
素人がめっちゃ私の作品に口出してきた件。




