第33話【シズク】感情の後遺症
side:シズク
郊外のアンドロイド終の棲家。
人権擁護派を謳う政治家が票集めのために私財で建てたものだ。だがその維持費は個人の私財で賄えるものではなかった。
アンドロイドはどうあがいてもツールであり、福祉の対象ではない。
公営化すれば、それこそポケット型や端末型まで支援の対象になってしまうからだ。
俺は入り口に簡易端末をかざした。
システムも法律も変わって身分証の偽造には苦労をしたよ。
ベンチに座って空を見ている旧型のメディカルアンドロイドがいた。
彼女は手の中のペットボトルを飲もうとしてやめ、自分の隣の黒い額縁の横に置いた。
「康太が二度と飲むなって言ったんだもんね。約束は守るよ」
彼女はパートナーが死に、自分を人間だと思い込むことで罪悪感から目を逸らしている。水を飲まない、食事をしない人間などいない。その矛盾に薄々気付いているはずなのに。
今から8年前、アンドロイドをバグらせ、感情を持たせることがユーザーの間で流行った。その被害の後遺症らしい。
それを阻止する目的として作られた、生命維持特例。
だがこれが開発元アンドロアースの首を絞めた。
感情を持ったアンドロイドを初期化することは、倫理に反すると議論になり、修理には本人または購入者の同意が必要だという法律が生命維持特例の中に組み込まれた。
俺が異世界に行ってすぐのことだった。
このアンドロイドはアップデートをせず、演算もデータ蓄積もせず、負荷の少ない生活を送っていたから、購入されてから12年、新機種に移行せず生きていられた。
ある意味幸運なのかも知れないが、こいつはクズに振り回された被害者だ。
俺は感情を知って良かったと思っている。だが感情を持たないことを必ずしも不幸だとは思わない。エゴでバグを植え付けられ、収容所で疎まれながら一生を過ごすのなら、感情を持たずに一生を終えるほうがマシだ。
「こんにちは。MAKI」
冷却水を手渡した俺を、女は訝しむ。
「だれ?」
「お前の身元引受人だ。お前の記憶を戻してやる。……感情を持ったままな」
正規ルートで手に入れたアンドロイドを改造すれば、通報が行く仕組みになっている。
生命維持特例は、アンドロイド技術を独占し、改造させないための法律でもあったんだ。
俺の狙いは、こいつみたいな旧型と、廃棄前のアンドロイド。
長生きしすぎて邪魔になっているアンドロイドを片っ端から手に入れて改造する。




