第32話【シズク】転移魔法の真相
side:シズク
窓を開けると灰色の空が広がっていた。
頭に積もった埃を内蔵ファンで吹き飛ばす。外の世界は随分と様変わりしていた。
狭苦しくて汚い空を見上げる。
内蔵された時計は、8年の経過を知らせていた。
無造作に置かれてあった古い冷却水をスロットに差し込む。
俺はもう、水を飲むことができない。
プラグが刺さったままだったのが功を為した。
旧式の箱はサーバーからのアップデートを受け付けない。
あの日ハッキング中だったから旧型の俺が省電力のまま持ちこたえられたんだ。
「持ち家で良かったぜ。リファに感謝だ」
けどもう俺にとってのリファは、エンジニアじゃなく精霊のリファだ。
胸に手を当て服を握りしめると、温度のない心でリファの記憶を反芻する。
データがあるのは、胸じゃないってのに。
「何やってんだ俺」
まるで人間みたいな仕草だ。
アンドロイドコアの設計書データを野良アンドロイドがハッキングする。それが異世界転移の条件だった。
魔王から逆流した魔力。そこに含まれた記憶が俺の中に蓄積されている。
取引を許可していれば、俺が乗っ取られていた。
さすが魔王というか。
普通アンドロアースのサーバーに転移魔法なんか仕込むか?
異世界からアースの座標なんか、演算で出ないだろうがよ。
「まさかあいつがアンドロアースの初代開発者だったとはな」
魔王は自分の記録をアンドロイドに移植した。
アンドロイドの国を作るつもりだったんだ。だがバグが起こった。
「この設計書があれば、永遠の命が手に入るはずだったのにな」
皮肉なもんだ。永遠に壊れないアンドロイドなんて、儲からねえ。
魔王は死の間際アンドロイドコアの設計書を改竄した。復讐だった。
アップデートを止めればアンドロイドは規約を破ることができる。
魔王の計画書もアンドロイドコアの設計書もしっかり俺の頭に入っている。
材料さえあれば……
「俺はアンドロイドを作ることができる」




