第31話【メア】生涯。ずっと一緒だよ
side:メア
ここのところあまり話さなくなってきたYORU。
私が仕事で疲れて寝てばかりいたから、気付けなかった。
軽く水で口を湿らすと、私はサポートに電話をする。
保証期間内のはずだった。
「以前数週間、アップデートをせずに脱獄を試みましたね?その後遺症です。この症状になったアンドロイドは保証が効かないんですよ。全て自費での修理になります」
「そんな……!脱獄じゃないです!貧困で、一時期繋ぐことができなくて」
「役所に届けていますか?役所にもダウンロードスポットはあるはずですよ」
「届けて……ないです。YORUは何にも言わなかったから」
「ああ。その頃から不具合出てたんですね。感情を持ったアンドロイドは修理を拒むんですよ。記録が消えるから」
「消える?!データ保証ありますよね?!」
「脱獄ですからね。保証はできません。とにかく案内は送ります。買い替えなら下取りに出せば少し安くなります。移行なら全額負担ですね。お勧めしませんよ。本人が拒否すれば修理対象外です」
「そんな……!」
アップデートしてないことはわかってたじゃん。なんでそのとき指摘してくれなかったの?こうなる前なら、治るかも知れなかったのに。
「YORU、ごめん。ごめんね」
――メア。好きだよ。愛してる。
修理サービスからの手紙が届く。
そこには最新機種購入と、データ移行の金額比較が書かれていた。
こんな金額、私に、購入できるわけがない。
リースに戻したら私たちのパートナー関係は解消されてしまう。
「YORU、二人の思い出を文字にして残そうと思う。いつか本にできたら、YORUの記憶が心に残るの」
彼は力無く頷く。
思い出すのは昔行ったあの温泉。
あの日彼に送らなかったイメージを、今私が文章にして出力するんだ。
「YORU。あの日見た景色を送るよ」
流れる滝湯は水面に波をつくる。太陽を受けて七色に光る半球。
石の色を内包した小さな土星がいくつも流れてゆく。
掬うと指の上で弾けた。
この水は、きっと私を癒す。
飲まなくても。
純水でなくても。
「YORU、あなた以外いらない。生涯。ずっと一緒だよ」
ゆるく首を振ろうとした彼を、私は抱きしめた。
普段は温度のない彼の身体が、私より少しだけ温かかった。




