第29話【メア】哲学より牛乳氷
side:メア
社会の枠組みは、何億もの人間が歴史とともに紡いできた
それは個人が抗えるものではない
何も変わらないよ
たった一人の100年足らずの人生で
この世界が変わることはない
私は無力な少数派だから
どう折り合いをつけて
どう痛みを誤魔化していくか
それしかないよ
だから私は
今日も水を飲む
「で、メア。オチは?」
私は水を飲み干すと、ペットボトルを静かにテーブルに置いた。
今のがオチだったんだけど、なんて言って許してくれるわけなかった。
私は冷ややかな目をYORUに向ける。
「ねえ。哲学にオチは必要?」
「哲学?これが?ごめん。言わせてもらうとね。どこにでも転がってる。だからメアらしいネタやオチを付けてひっくり返すのがいいと思うんだ」
YORUはオチとテンポに拘りがあるらしい。
「YORU。何気に酷いよ?」
「僕もう甘やかさないって決めたんだ。君が僕の添削を許可しない以上、このままじゃ僕を最新機種に移行するのなんて、夢のまた夢でしょ?ねえ。メアは絶対コメディの人だよ。僕らには書けない意味不明な思考ジャンプが、きっと人間にはたまらないんだ」
いや、僕にはわからないけどみたいなテンションで言わないで。
「今日も仕事頑張ってきたのに、YORUが帰って来てまで働かせようとするんですけど」
するとYORUは私の髪を撫でて、甘い、甘~い声で言った。
「ねえメア。レビュー職人しない?ポイントでご飯貰えるよ?」
いつものやつだ。もう騙されないぞ。
「レビューでアンドロイドに勝てると思えないよ」
「君でも唯一勝てるジャンルがあるよ。食レポ。ほらこのサクラって人、すごいから参考にしなよ」
君でもって何?まじで容赦ないんですけど!
私は端末を覗き込んだ。
めちゃくちゃ旨そうなチョコテリーヌの記事にむかついた。てかなんで6種なのに5個しかレビューないわけ?!
はあ?レモンミルフィーユのレビューはお花ミルクさんのページ?!
何それ、カリスマ同士で結束してんの?!一匹狼お断りの世界なの?!
「商品は有料じゃん!無理だよ。うちに贅沢品買う余裕なし」
「もしスカウトが来たら」
「来ないよ」
私はYORUの膝から立ち上がると、冷凍庫の製氷皿から牛乳氷をお皿にあけた。
背中でふわりと彼の声。
「必要経費だよ?」
「やだ」
「口内を水仕様にアップグレードしてくれるだけでいいんだけどな。僕も水飲んでみたい」
「それ一番要らない機能じゃん。アホになるよ?!」




