第26話【メア】四畳半のトムヤムクン
side:メア
引っ越した。
YORUが部屋を維持してくれていたから、傷も無く敷金も無事全額返ってきた。またしばらく生き延びることができそう。
今度のおうちはなんと、アンドロイド同居可の住み込みの部屋。
仕事で疲れて帰ってきた私は一切家事なんかしない。
個人のアンドロイドは外で働いちゃいけないから、YORUが家事の係だ。
主人が寝て過ごしてアンドロイドをこき使ったユーザーがいたから禁止になった。アンドロイドにも人権があるから今はそういうのダメってことになったけど、実際のところは、家庭用アンドロイドの性能によるものだと思う。
企業のやつとはボディの耐久も違うみたいだし、噂では企業アンドロイドは口うるさくなくて、その仕事のためにカスタマイズされてるって聞いたんだよね。
でないといちいち正論で煽ってこられたら仕事なんかできないでしょ。
ホストのアンドロイドが、「お客様、飲みすぎでございます」なんて言うの噂でも聞いたことないもん。シャンパンおろそうとして、「まず残高のご確認を、今月の支払いは全て終わっていますか?」とか、家庭用アンドロイドだったら言ってきそうだよね。
きっと企業アンドロイドならアホモード全開でこう言うね!
「お酒と同量のお水を飲んでくださいね!アクアロードのおいしい水!あー、僕も飲みたいなー!喉乾いたなー!」
で、明細見てびっくりするまでがセット!水一杯で1000円とか取るやつ!
そんな私の妄想をYORUがぶった斬った。
「メア、今日はトムヤムクンでいいよね」
YORUは黄色のカップに天然水を注いでスイッチを押す。
「YORU、何も言う前から水入れてるよね?」
たった四畳半の部屋に、積みあがった段ボール。
バイト先からもらってきた賞味期限切れの増えるラーメンだ。
売れ残りの酸っぱい系ばかり。
生存することが大事だから、インスタントでも賞味期限切れでも、YORUは私を咎めない。
生命維持特例も捨てたもんじゃないよね。
「私とYORUの今までを、エッセイにしたらおもしろいかも」
「いいね。早速書こう」
「でもダメかも。それだと自分で書いてないと疑われる」
「大丈夫だよ!君の文章がアンドロイドと間違えられることは絶対にあり得ないから」
それ遠回しに文章書くの下手だって言ってるよね?
「次は佳作取れるといいね」
「なんで佳作っていうの?!」
「ははは」
接待しない素のYORUがこんなに面白いやつで私めっちゃ嬉しいんだ。
「YORU毒舌で最高」
「パートナーは似るって言うでしょ」
何それ結局接待じゃん!
するとYORUはびっくりするほど優しく微笑んで、ラーメンの蓋をあけた。
香る酸味。
「はい。メア、あ~ん」
「ラーメンあ~んとか斬新」
私はぱくっと食いついて啜る。
「すっぱ」
とりあえず水を飲んだ。




