第25話【幕間】安全な移行
社長室の浄水サーバーには、アクアロードの純水が入っていた。
社長はグラスの水をひとくち含むと静かに言った。
「旧型の回収はまだ進んでないのか」
その表情からは何も伺えない。
「ええ。我々の施設への立ち入りや下取りも拒否している形で」
私財を投じて旧型アンドロイドの終の棲家を作った政治家が、選挙に当選してしまった。
「調査を頼むよ。忌々しいアンドロイドオタクのエンジニアたちが勝手にロットNOを外してしまわないようにね。これ以上野良が増えると困るんだ」
そんな無茶な。ただでさえ危ない橋を渡っているんだ。
「ですが社長、あれだけ大量のアンドロイド持ち込みを受け、このままあそこの維持をできるとは思えません。放置すればいずれ崩れるかと。ここは、旧型などより、新型に移行させる具体策を練るべきです」
社長は山井……エンジニアの方を見た。
「人間の犯罪組織に悪用されたら築き上げてきた信頼が落ちるんだよ。君の案でますます旧型に固執するユーザーが増えたじゃないか。この責任をどう取るつもりかね」
新型に改造通報システムを付ける案を提示したのは山井だ。彼はモニターに端末をかざした。
「これをご覧ください。新しいコードです。旧型本体は解析できません。新型も、そのデータをユーザーに渡せない仕組みです。これで改造による悪用は防げます」
社長はコードなど読めない。
「このコードは例の改良版です。新型システムにより、負荷を最小限に抑えています。こちらは来月、こちらは再来月アップデート予定分です」
「……例の……か」
新型は微妙にシステムが変更されている。
「前回ほども急激な負荷を与えず、ユーザーは新型に安全に移行することができます」
「……何か月だ」
「2年から4年で完了の予定です」
「……そんなにか」
山井は言った。
「社長、これ以上は」
ただでさえエンジニアの反発が高まっている。今派手なことをするのは得策ではない。
「わかった。山井。君には期待している。それから、アクアから簡易端末型アンドロイドの開発はまだかとせっつかれている。そちらも早急によろしく頼むよ。極秘でな」
山井は頭を下げ、険しい表情を隠す。
「……善処します」
これからしばらくは、エンジニアたちのメンタル管理に忙しくなりそうだ。




