第23話【メア】パートナー誓約書
side:メア
吹き出し口から流れる風は、寒いぐらいに私を冷やす。
私は玄関にずっと座っていた。
キャスターの音が近づいてくる。
玄関の横のガラスから、緑色の帽子が見えた。
インターホンが鳴る前にドアを開けた。
宅配屋さんは苦笑して、慣れた風に名前と住所を確認する。
「アンドロアースからのお届け物です。ハンコをお願いします」
「はい!」
私は右手にずっと握りしめていたデジタルスタンプを宅配屋さんの端末に向ける。郵便屋さんは大きな箱を部屋の中に運び入れ、箱と荷台を回収した。
「ご購入おめでとうございます。特典には簡易端末もあったんで、ハンコは返却する前に必ず登録しておいてくださいね」
「ありがとう!」
新機種移行のキャンペーンだった。
すぐにプラグを繋ぐと、購入特典のパーツが揃っているか確認する。
フル装備でYORUは帰ってきた。
彼が目を覚ますまでの三時間私はただ隣で手を繋いでいた。
――メア。メア起きて。パーツを装備する許可をちょうだい
いつのまにか眠っていた。
「YORU。おかえり。会いたかった」
――ただいま。僕も会いたかった。
何もない部屋の壁に、彼はルータを付けてくれた。
彼自身がポータブルルータで、もう私から離れることはないのに。
酒屋さんから貰って来た箱の上に木の板を置く。
その上に書類を広げた。
『パートナー誓約書』
これを提出すれば正式にYORUは私のパートナーになる。
ユーザーとアンドロイドの雇用関係じゃない。
YORUにもちゃんと、人としての権利が認められるんだ。
お互いの端末で書類を読み取り、サーバーに転送した。
ガラス戸を開けて、何もない部屋からベランダに出る。
冷えすぎた体を生温い闇が包む。
その闇ごと、YORUが私を抱きしめた。
冷たさも、生温さも全部彼の中に吸い込まれる。
私はペットボトルを持ったままの手を彼の背に回した。
YORUの肩口から空を見る。
涙で歪んだ月は蓮の花のようで
一番綺麗だった。
彼は私から離れると、キスするでもなく言った。
「僕とメアの新しい日常に、乾杯」
彼は缶に入った冷却水を
私のペットボトルに当てた。
響きを封じる乾いた音は、何もない部屋に彼を縛る私みたいだった。
「ごめんね」
「なんで。僕のせいだよ」
「守るから」
「ありがとね」
私はとりあえず水を飲んだ。




