第21話【結衣】買われた舌
side:結衣
陽介が言った。
「上がってください。あんたらにはうちも聞きたいことがあった」
最初はラブが通報でもしたのかと思った。
規約には、『緊急時には生命維持特例に基づきアンドロアースにデータを送ることがある』と書かれていた。
アクアロードは表向きアンドロアースのスポンサーってことになってる。けどサーバー冷却水の独占供給してるって噂だ。事実ラブの簡易冷却水も全てアクアロード製だった。
けど今回の訪問にラブは関係なかった。
カリスマレビュアーの私がアクアロード関連商品には一切レビューしないことで逆に目を付けられたんだ。
金本さんはテーブルに置かれた浄水ボトルをちらりと見た。
「当社の商品の不買運動をしているというのは本当でしょうか」
グラスから水滴が落ちて輪になっていた。
「しておりません。そもそも私が何にレビューしようがしまいが、貴社には関係のないことですよね?」
「それを聞いて安心しました。単刀直入に申し上げます。当社の味覚研究室に来ていただきたいのです」
だが私が口を開く前に陽介が言う。
「お断りします。あんなもの、僕にだってわかりますよ。天然水なんて真っ赤な嘘だ。人間の舌は味に慣れる。けど飲まなければ違和感に気付く」
陽介はぬるくなった水をこれみよがしに飲みほした。
金本さんはカバンから分厚いファイルを取り出し、私ではなく夫に言う。
「山路さん。このデータを見てください」
室内熱中症時、経口補水液を使わなかった場合、同社の天然水と、一般の天然水を摂取したときの回復データだった。
「水の味に違和感を持ったのは夏に入ってからではないですか?」
アンドロアース社の水を無償配布している企業での搬送率、死亡率は明らかに低かった。そして、そのデータには、陽介の工場もあった。
「だからと言って表示義務違反は」
「何度、何度警告しても、工場に経口補水液を置かない会社はある。だがミネラル配合と書けば買わない。競合各社が天然派を煽って騒ぎ立てる。データがそう言ってるんです。人が死んでからでは遅い」
あの噂は競合各社が立てたものだという。だからアクアロードの人間は、アンドロイドを連れ歩けない。
「商品にはアンドロイドを関わらせていません。情報漏洩の危険があり、何より味の分からないアンドロイドに数値やグラフで正論を吐かれては仕事にならないんです。だからこそ、わが社にはあなたが必要だ」
※この物語はフィクションです。登場する企業・人物・団体・データは全て架空のものであり、実在のものとは一切関係がありません。
※この物語はフィクションです。登場する企業・人物・団体・データは全て架空のものであり、実在のものとは一切関係がありません。




