第20話【結衣】人間が一人でやってきた
side:結衣
物心ついた時からアンドロイドみたいだと言われ続けてきた。
だけど、今はそんなこと言われない。私が細かいことに違和感を持つのは、口うるさいからじゃない。
生きてるってことなんだ。
陽介には感謝してる。あなたが私を認めてくれたから。だから私は、小さな幸せを1つずつ感じる事ができるんだと思ってる。
「あっ。もうこんな時間」
腕から外したままの簡易端末が光っていることに気付かなかった。
『15時:洗濯物を入れる』
『17時:ご飯を作る』
壁の紙に大きく書かれたアナログの文字。
時計は既に19時を指していた。
簡易端末もラブも頼らない人間らしい生活を目指す私の挑戦は、早くも躓いていた。
ラブがいないから、スケジュール管理もメニュー管理もうまくいかない。
居間にいくと、陽介が夜露に濡れた洗濯物を家干ししていた。
「帰ってたなら声かけてほしかった」
「忙しそうだったからさ。お弁当買ってきた。食べよ」
ラベルを確認し、写真を撮ると右横にメモ帳を置いた。もう感覚記録機は売り払ってしまったから。一口食べては走り書きする。
家事も満足にできない私に、陽介が言った。
「お揃いのお弁当だね。隣で同じお弁当を食べてくれてありがとう」
「陽介」
私は幸せの感じ方を、この人に学んだ。
いつか私も、不幸よりも幸せをお裾分けできるような人になりたい。
私はペンを置き、メモ帳を閉じた。
「いいの?」
「うん。いいの。食べよう」
……とりあえず水を飲みたい。めちゃくちゃ味が濃いよ。
「最近なんか。前にも増して外で買う商品の味が濃く感じるよ」
「だね。なんか僕まで味に敏感になってきた」
浄水ポットの水をとりあえず飲んだ。
水道水に炭を入れただけの、古代の浄水器。
そのとき、インターホンが鳴った。
「アクアロード商品開発本部の金本です」
私はアクアロードが来たことより、人間が単独で来たことに衝撃を受けた。
この人は、私のアンドロイド嫌いを知っている。
「企業の案件は全て断っております」
「案件ではありません。我々はあなたの舌の秘密が知りたいのです」




