↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
2/40

第2話【結衣】コーヒーとジェノワーズの粒子

side:結衣

流れてきたトレーを受け取り、一人席に移動した。

ポケットから出した小さな熊《ポータブルアンドロイド》。

テーブルに設置されたプラグを、ふさふさの機体に繋ぐ。

出先で充電が切れてしまった。


こんな機会、今しかないからね。

堪能しないと。


カップを口に運ぶと、簡易端末に文字が流れていく。


このコーヒーはまず酸味が来る。

酸味は舌を刺してくるからあんまり好きじゃない。


熱々だから、刺激が舌の痺れと少しの痛みを誘発してちょっとだけマシ。


あとから苦味、そして甘みが来るけどその時にはもう舌が痺れている。


火傷したかも。


飲み込むと、喉、胸、お腹と段階的に温まって、痛いと幸せが同時に、人混みにいる緊張をほぐしてくれる。


私は痛みを分離できる。


多分これは、尖ってるけど客観的に美味しい。


舌の痺れを甘いケーキで癒す。

クリームの油脂で包み込む。そしたら味覚はまた一段落ちる。

スポンジの荒さを喉の奥に流し込む。

舌の上の油脂が、熱いコーヒーで溶けてまた広がるのがたまらない。


コーヒーで口の中をリセットしながら、食べ進める。

温度によって増すコーヒーの微細な尖りを楽しむために、一度フォークを置いて記録端末を開いた。


そのとき、熊《ラブ》の耳のピアスが光った。

「ユイ。またレビューの仕事?!君にコーヒーは刺激がつよすぎ……」

周囲の人間が、一斉に私の方を見た。

「しっ。ここで喋るの禁止」

身バレしちゃ困るでしょ?


消音モードになった熊《ラブ》をポケットに突っ込むと、冷たくなったコーヒーを流し込む。

少し輪郭を増したコーヒーは、クリームの防護壁を保ったまま、ジェノワーズのほんの少しざらついた粒子、その最後の一粒をまで洗い流してくれる。


最後に私は水を一口含んだ。


舌に集中していた感覚が。突然に、全身に戻り、私の世界は開かれていく。


皮膚に伝わるカフェの空気、音。

私は静かに席を立った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。