第2話【結衣】コーヒーとジェノワーズの粒子
side:結衣
流れてきたトレーを受け取り、一人席に移動した。
ポケットから出した小さな熊。
テーブルに設置されたプラグを、ふさふさの機体に繋ぐ。
出先で充電が切れてしまった。
こんな機会、今しかないからね。
堪能しないと。
カップを口に運ぶと、簡易端末に文字が流れていく。
このコーヒーはまず酸味が来る。
酸味は舌を刺してくるからあんまり好きじゃない。
熱々だから、刺激が舌の痺れと少しの痛みを誘発してちょっとだけマシ。
あとから苦味、そして甘みが来るけどその時にはもう舌が痺れている。
火傷したかも。
飲み込むと、喉、胸、お腹と段階的に温まって、痛いと幸せが同時に、人混みにいる緊張をほぐしてくれる。
私は痛みを分離できる。
多分これは、尖ってるけど客観的に美味しい。
舌の痺れを甘いケーキで癒す。
クリームの油脂で包み込む。そしたら味覚はまた一段落ちる。
スポンジの荒さを喉の奥に流し込む。
舌の上の油脂が、熱いコーヒーで溶けてまた広がるのがたまらない。
コーヒーで口の中をリセットしながら、食べ進める。
温度によって増すコーヒーの微細な尖りを楽しむために、一度フォークを置いて記録端末を開いた。
そのとき、熊の耳のピアスが光った。
「ユイ。またレビューの仕事?!君にコーヒーは刺激がつよすぎ……」
周囲の人間が、一斉に私の方を見た。
「しっ。ここで喋るの禁止」
身バレしちゃ困るでしょ?
消音モードになった熊をポケットに突っ込むと、冷たくなったコーヒーを流し込む。
少し輪郭を増したコーヒーは、クリームの防護壁を保ったまま、ジェノワーズのほんの少しざらついた粒子、その最後の一粒をまで洗い流してくれる。
最後に私は水を一口含んだ。
舌に集中していた感覚が。突然に、全身に戻り、私の世界は開かれていく。
皮膚に伝わるカフェの空気、音。
私は静かに席を立った。




