第1話【メア】僕は乾いた笑みを浮かべた
本作は視点が入れ替わりながら進みます。どの章からでも読めるよう、キャラクターの名前はタイトルに書いてあります。お気軽にお付き合いください。
side:メア
調整された最適なはずの空調。私は手近にあった上着を羽織った。
簡易端末から浮かぶホログラムを目で追う。
隣のYORUと肩がぶつかった。
「ねえメア、見づらいよ。直接データを読ませてよ」
「だめ。だってYORU、読む作品にまで口出すじゃん」
ってかプロローグがこれじゃ短すぎない?
だけどホログラムを覗き込んだYORUは言った。
「なるほど。この三行でジャンルと世界観と主人公の性格を提示したつもりなわけか」
え?そうなの?
──君の風魔法が暴発して
全員の答案用紙が教室に舞い上がる。
僕は乾いた笑みを浮かべた──
最初は違和感なんかなかった。
異変を感じたのは、3ページ目だ。
──夕暮れの訓練場。
君が拗ねたように口を尖らせた。
わざとらしいしぐさが可愛くて
僕は乾いた笑みを浮かべた──
「ん?!」
次の章へとスクロールする。
主人公は一話に一度乾いた笑いを浮かべた。
──君が僕の制服の裾を摘む。
「好き」
振り返ると、君の顔は真っ赤で。
僕はたまらなくなって
乾いた笑みを浮かべた──
「待って。お腹痛い」
エモでも、爆笑でも、泣き笑いでも、毎回。
「シュールすぎる……!」
「……メア。その作品はやめとこうよ。こっちを読みな」
ほら、やっぱりYORUは口うるさい。
私はYORUが送ってきたURLをしぶしぶ開いた。
──その言い草があまりに滑稽で
僕は乾いた笑みを浮かべた──
「ぶふっ……」
何も間違えてない。
間違えてないのに。
もう、その文字を見るだけで腹筋が壊れそうになる。
ついに私は、
乾いた笑みを浮かべた。
「もう無理」
ひっくり返って足をばたつかせた。
そうすれば、きっとYORUが抱き起してくれるんだ。
だってユーザーのメンタル管理は、アンドロイドの義務だから。
そんな期待を知ってか知らずか、
彼は青いラベルのペットボトルを差し出した。
触れた指先から、パスが繋がる。
彼の、紫色の瞳が揺れた。
声じゃなくて、彼の心が、私の中に染みこんでくる。
――ほら、メア。女の子なんだからはしたない恰好しちゃダメだよ。さ、水を飲んで落ち着いて。
と僕は乾いた笑みを浮かべた――
「やめて!」
また笑いがこみ上げてきて
慌ててボトルを受け取ると
とりあえず、私は水を飲んだ。
作者より。
本作はあえて説明を削いだ軽快なトーンに挑戦しています。
物語の余白を楽しんでいただけたら嬉しいです。
設定資料は最終話後に公開予定です。




