第18話【シズク】ロープが高分子量ポリエチレンなんだが
side:シズク
「なあ、リファ。俺の前に来た渡り人ってどんなやつ?」
「うーん。契約はしなかったけど、宵闇の森に住んでた変人なの」
こんな森に住むとは、サバイバルが得意な奴らしい。
「この森は夜になると魔物が大量に出るって聞いたぞ。こんなところに住めるのか」
「その人間が住んでた家があるわ。彼は創造魔法を持ってた」
創造魔法か。歌で戦う魔法より強そうだ。
ってか、住める家があるなら何故それを初日に教えてくれない。宿代も毎回街と往復する手間も馬鹿にならないんだぞ。
「リファ、そこはまだ住むことができるのか?!」
「さあ、もう随分と前なの。今のレベルならギリギリ辿り着けるんじゃないかしら」
「ぎ、ギリギリ……。危険な魔物が出るのか?」
「そこまで危険ではないわ。魔物はね」
魔物のランクはCランク。俺より少し強い程度らしい。
リスクは少しでも減らしておきたい。だが一日でも早く行く方がメリットはでかい……。
計算がまとまらない。
推論に感情が混ざる。
人間は不便だ。
リファの案内で向かったそこは、切り立った崖の上だった。巨木に結ばれた長いロープは腐食していない。
どうみても高分子量ポリエチレンだ。こんな素材がこの世界にあるとは。
「リファ、この素材は一般的なのか」
「そんなわけないでしょ?あいつが作ったのよ」
「これを……人間が」
人間のざっくりした感覚でこれが作れるならば、創造魔法はとんでもない。
ここを降りたらもう街に戻れる気はしない。だが……
下を見て唾を飲む。
「リファ、迂回路は」
「ないわ」
そう言って彼女はふわりと浮かぶ。
「お、おい」
無意識に後退りする俺に、リファは言った。
「戻るには下でレベルを上げればいいのよ」
「まず街で準備をしないと」
「だいたいのものは下にあるわ!食糧以外はね」
落ちたら確実に死ぬ……。
俺はとりあえず水を飲んだ。
リファに案内されたのは、俺が思っていた家じゃなかった。
土で作ったドームに透明の窓が嵌め込まれている。
窓を軽くノックする。
樹脂だ。
中に入ると、デスクと椅子、寝台があった。
「紙に書くのが不便だから、頭の中でエンザンできる魔法を創造したいとか訳のわからないこと言ってたわ」
「演算……それでその魔法はできたのか?」
「知らないわ。ある日突然居なくなったの」
デスクに転がったたボールペンを、思わず手に取りそうになりとどまる。
劣化は、していない。
「リファ、これを書いたやつは、俺やお前と同じぐらいの美形だったか?」
「自画自賛やめてくれないかしら」
紙には日本語で、こう書かれていた。
「ようこそ異世界へ。私は魔王。元の機能を取り戻したくはないかい?」




