第17話【結衣】ラブは水の味を知らない
side:結衣
人間と書いた整理券を取ると硬い椅子に座る。
自動と書いたカウンターはさくさく進む。
なんとなく証人がほしかった。
陽介は私の頭を軽く撫でた。
「行こ。結衣」
順番がモニターに表示された。
手を繋いで立ち上がると、人間が待つカウンターに向かう。
書類の両端を二人で持って、トレーに置いた。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
無事、婚姻届は受理された。
「ねえ結衣。ポケット型を、家事代行型に変更する?」
「ええ……。やだよ。毎日栄養栄養で、好きなもの食べさせてくれないの。ラブですらめっちゃ口うるさいんだから」
照りつける太陽に、私は額を拭く。
コンビニに寄ると、冷蔵庫の左下、数本あるお茶を手に取った。ラベルを見る。
『このお茶はアクアロード社の天然水を使用しています』
表示のないものを二人で探した。
彼は炭酸水を選ぶ。
「僕これ」
私はアールグレイ。
「私これ」
車に戻ると二人で飲む。
「僕微妙に味がわかるようになってきたかも。レモンよりライムの方が好き」
「そんなの誰でもわかるよ。てかこれハズレだった。香料きつい」
「どれ、味音痴の僕が飲んであげよう」
「自虐やめてよ」
水以外のドリンクを探す楽しみ。
これから始まる二人の生活を想像すると嬉しくなった。
家に戻って充電しっぱなしだったラブを起動すると、耳の赤いランプが付いた。
「ユイ!香料を感知したよ!アクアロードのデータベースにないやつだ。ダメでしょ。不明な水を飲んだら。どこ社?成分見せて。安全性確かめるから」
彼の部屋でも似たような口論が聞こえていた。
「ねえラブ、データベースにあるユーザーのレビューを参照しているの?多くの人に評価されているから安全性が高いとは限らないの。レビュアーだって、契約レビューなんかもあるんだよ?」
そう言うとラブは怒涛の勢いでアクアロード社の安全性を突き付けてきた。グラフ付きで。けどそれは、アクアロードが対外用資料として発表しているものだ。
「ラブ。確かに他の水は表示が曖昧なものもあるけれど、私は自分の舌を信じているの。自分が安全だと思ったものを飲みたい」
「生命維持特例を発動。最適な検査施設を検索しています」
ラブの耳のピアスが点滅し、小さくピピピと鳴った。
私はそれを手動で止める。
「ラブ、それ警告発するような内容?」
「僕には、君の生命維持をサポートする義務がある。何が入っているかわからないものは飲んじゃダメだ。ユイこの前も水道水飲んでたじゃない!」
私はラブをデスクに置き、手を離した。
パスが途切れる。
「わかった。もう飲まないよ。心配してくれてありがとう」
「分かってくれたらいいんだ。ちゃんと表示は見てね」
私はラブをデスクに置いたままキッチンに行くと、水道の水を飲んだ。
決して美味しいとは言えないけれど、私にはどうしても、危険なものには思えない。
自室から微かに、警告音が聞こえた。
私はグラスをシンクに置くと外に飛び出す。
ラブも、陽介のブルーも、家のセキュリティカメラと連帯しているから。
同時に出てきた陽介と手を繋いで夕暮れの街を歩く。
「ね。この際、アンドロイド両方返す?そういう夫婦も増えてるって」
「うーん……。それもいいかもね……」
「家計簿とか書類関係とか、僕もできることはやるから」
「うん……わかった」




