第15話【幕間】完全食ラーメンの罠
キャンペーンに応募すべく、増えるラーメンの各味を二種類ずつ買い揃えた。
カップに圧縮キューブと水を入れてスイッチを押すとあたたかいラーメンになる。謳い文句は完全食品。栄養素もバッチリだ。
私は赤、彼は青のカップにアクアロード天然水を注ぐ。
「安くて美味しくて最高」
「俺もう一個食べていい?」
「だめだよ。奇数個になっちゃう」
「ケチ!」
最初は家事が減ると喜んだ。けどそれも長くは続かなかった。
私たちは馬鹿だ。
どうして最初に定番の味を全て食べつくしてしまったのか。
ノルマのように麺を啜る日々。
手に持ったカップの感触はいつもの味を期待させた。
だけど香りはトムヤムクン。
毎回違う味は苦痛でしかなかった。
酸辣湯麺、トマトチリに梅しそ。どうして酸味だけこんなに種類豊富なのか。
シンクにスープを流そうとした私に彼は言った。
「おい。スープ飲めよ。でないと栄養分が勿体ない」
「ええ……?でも」
「完全食品の意味がねえ」
私はシンクの前に立ったままスープを飲み下す。辛みと酸味が私を襲う。こんなの舌への暴力だ。
すぐに冷蔵庫から冷えた水を取ると、キャップを開けて口に含む。
ごく、ごくと、喉が動くたびに冷水が体に染みわたる。
次は多めに水を入れてみよう。
次の機会、ゆずラーメンには氷を大量に入れた。冷やしラーメンも良い感じ。
毎日水を飲んだ。
溜まった塩分と、頭にこびりついた酸味を洗い流すために。
酸味には少しずつ慣れた。けどパクチーの香りだけはどうしても慣れない。それでも食べるしかなかった。私たちはもう、あとには引けない。
部屋の片隅には、購買意欲をそそる、古代宝箱をかたどった期間限定ボックスが鎮座していた。
やっとキャンペーンが終了し、当たらなかった悔しさを噛み締めながら焼き肉屋さん『純粋』に入る。
「いらっしゃい。ご無沙汰です」
「久しぶり。夢にまで見たよ」
彼は箸に付けたたれをぺろりと舐めた。
「あれ……?大将。タレの味、変わった?」
「いや。変えてないですよ。うちは創業からずっとこの味です。素材の水分のみ、一切の水を使わず継ぎ足して作っております」
「素材の水分のみ……」
「継ぎ足し……」
衛生面は、大丈夫なのだろうか。
入口にはアンドロイド入店お断りの文字。
帰ったらうちの子に聞いてみよう。
「今日はとにかく食べよう」
「そうだね。せっかくのノルマ明けだ」
とりあえずビール飲んだ。
久しぶりのビールは苦みものど越しもあまり感じなかった。
ホップの爽やかな香りだけが、鼻に突き抜けていった。




