第12話【メア】花火とロマンスと生温い風
side:メア
──君と見る初めての花火大会。
空いっぱいの万華鏡が一瞬で散る。
残像だけが
まだ合わない焦点の奥で震えていた。
瑞々しい唇の振動が、アルミニウムの唇に伝わる。
36.5度。
彼女の温度を求めるように──
買ったばかりの記録端末にYORUが触れた。
「また書いてるの?」
「うん。添削しちゃダメだからね」
「なんで僕目線?リースのうちは、そういうのダメなんだよ。それ公開しないで。実話だと思われたら困る」
「YORUじゃないよ。創作だもん」
「創作でもだめ。僕をモチーフにしないで。規約。わかってるでしょ?離れ離れになるよ?」
「やだ!」
破裂音が空を彩る。
書こうとした続きが、散って消えた。
「もう!忘れちゃったじゃん!」
「今見なきゃ。現実の花火をしっかり全部見て。家で書いてよ。散る花火の向きとか、光の瞬きとか、観察して事実をね。画家だってそうするよ?」
「データはYORUの中に保存されるでしょ?」
「メア、来年連れてこないよ?」
「アンドロイドにそんな権限ない」
それに、どうせもうここには来られないよ。
「ねえメア。僕に保存された映像じゃなくて、肉眼で音の振動と光を、この生温い風ごと感じてほしい。僕と一緒に、花火を見て欲しい」
「YORU……」
彼は私の後ろに立つと、自分の右手を私の右手にそっと重ねた。
パスが繋がる。
「ね。一緒に見よ。メア。僕との今は、君にしか感じることができないんだよ」
私しか……。そっか。
私はスマホをバッグに仕舞うと言った。
「わかった。保存を許可する。添削は禁止」
彼は右手を繋いだまま、ストローの刺さったペットボトルを左手でそっと差し出す。
「ん。水分補給」
こういうのダメじゃなかったっけ?
そう思って見上げると、彼のピアスは……やっぱり点滅していた。
顔が熱い。私はとりあえず水を飲んだ。
「ね。メア。帰ったら仕事探そう。もうそろそろ、諦めよう」
「やだ」
台無し。




