第11話【幕間】生々しい毛玉
腕の中のふさふさ。
ネルンという名のその子は、ただの毛玉ではなかった。
指が沈み込むほどキメ細かい。
しっとりとしたその毛並みは、まるで冬眠中の上質な小動物のよう。
カチリ。
腕の中で音がして、私は充電コードを抜いた。
そのままごろりと横になる。
「ネルン。愛してる」
ピピピと警告音が鳴る。
「ふふふ。愛くるしい、と間違えたの。可愛いとか、そういう意味だよ。人間はそういう言葉を、たいした感情もなく言うもんなの」
警告音が止んだ。
この手触り、毛皮の中身はジェルバッグだ。私の体温より少し高い。
抱きしめるとドクドクと鼓動が聞こえてきそうなほどに、生々しい。
アンドロイドのアルミニウムとは全く違った手触り。
基盤はどこに入っているんだろう。
分解は、禁止されている。
汗ばむ。
私はネルンを布団に置くと、クーラーを強風にする。
とりあえず水を飲んだ。
身体にしみ込む水分。
頭が熱い。くらくらする。
まずい……冷やさないと。
朦朧とする意識の中で、
カチカチと鳴るネルンに声をかけた。
「ネルンも喉乾いたよね」
ピピピ、と鳴いた。
かわいい。
冷却水を入れるスロットを開けると、
水を飲ませた。
壊れた。
その瞬間、腕の簡易端末が鳴った。
「大丈夫ですか?ユーザーまたは付近のアンドロイドは応答してください。体温が上昇しています。速やかに水を飲んでください。1分以内に応答がない場合、レスキューを向かわせます」
漂う甘い香りの中、私は倒れた。
転がっているペットボトルの文字が、目に映った。
『アンドロイドへの給水は絶対におやめください』
――
この数日後、ネルン一号の販売停止が報じられた。
充電をしたまま抱いて発熱、飲料水を直接流し込み壊れる
といった事例が多発したためだ。
専用冷却水の成分は、秘匿されている。
なお、ユーザーからは今も、飲水できるペット型アンドロイドの開発リクエストが相次いでいる。
専門家は、「アンドロイドの見た目の多様化、リアルな触感の再現は、依存や誤認、思わぬ事故を招く恐れがあり不適切だ」と主張、この提言が大きな議論を呼んだ。




