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『子供を助けたら、そこは異世界でした。~王子達に不当な扱いをされたので、この世界でも自立を目指します~  作者: 柘榴の雫


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11/11

異世界の書庫は、宝の山でした

朝食を終えた栞奈は、ほっと小さく息を吐いた。


 ――ようやく一息つける。


今日は目を覚ましてからというもの、何もかもが慌ただしかった。


湯浴みをするにも侍女に手伝われ。


着替えるにも、見慣れない服に戸惑いながら手を借り。


湯浴みでは何度も「自分でできます」と主張したものの、


「お任せくださいませ」


と、にこやかに押し切られた。


結局、栞奈が一人でできたことの方が少ない。


正直なところ――かなり疲れた。


元の世界では、一人で何でもできた。


それが当たり前だった。

なのに、この世界では身の回りのこと一つするにも誰かの手を借りなければならない。


それが、思っていた以上に落ち着かなかった。


ようやく朝食まで終えたところで、栞奈は改めて考える。


「……まずは、知るところからかな」


この王宮で、自分がどこまで自由に動いていいのか。


この国には何があるのか。


 そして――。


自分がこれから、どうすればいいのか。


知らなければ、何も始まらない。


「……王宮の中を案内してもらうことってできますか?」


栞奈が侍女に尋ねると、すぐに頷きが返ってきた。


「もちろんでございます」


「よかった」


こうして栞奈は、王宮内を案内してもらうことになった。


長い廊下。


いくつもの扉。


王族が使用する区域。


来客用の応接室。


食堂。


庭園。


使用人たちが働く区域。


それぞれの場所について簡単な説明を受けながら、栞奈は周囲を見渡していく。


「広い……」


何度歩いても迷いそうだ。


「一人で歩けるようになるまで、しばらくかかりそうですね」


「最初のうちは、ご案内いたしますのでご安心くださいませ」


「ありがとうございます」


そんなやり取りをしながら歩いていると。


「こちらが書庫でございます」


「……書庫?」


その言葉を聞いた瞬間。


栞奈の足が止まった。


侍女が扉を開く。


その先に広がっていた光景を見て――。


「…………」


栞奈は固まった。


壁一面に並ぶ本棚。

その一つ一つに、ぎっしりと本が収められている。


さらに奥にも本棚。


二階部分にも本棚が並び、そこへ続く階段まである。


「…………すごい」


思わず声が漏れた。


昨日まで、自分が異世界にいるという事実すら、どこか現実味がなかった。


 ――けれど。


見たことのない装丁。


この世界で書かれた、数え切れないほどの本。


それらを目にすると。


ここが自分の知らない世界なのだと、改めて実感する。


「こちらの書庫は、カンナ様にもご利用いただけます」


「……私も?」


「はい。ただし――」


侍女が少しだけ声を落とした。


「奥にある禁書庫だけは、お入りにならないようお願いいたします」


「分かりました」


「それ以外の書物でしたら、お読みいただいて構いません」


「…………本当に?」


「はい」


栞奈の目が輝いた。


「全部?」


「……はい」


「…………」


栞奈は、ゆっくりと本棚を見上げる。


「……最高」


小さく呟いた。


侍女は、そんな栞奈を見て微笑んだ。


「何か必要なものはございますか?」


「紙とペンをお願いできますか?」


「紙とペン、ですか?」


「はい。気になった本とか、覚えておきたいことをメモしたいので」


「承知いたしました」


しばらくして、紙とペンが届けられた。


栞奈は机に向かい、まず紙に文字を書いてみる。


「…………」


すらすらと。


異世界の文字が問題なく書けた。


「……書くのも大丈夫なんだ」


こちらの言葉は、召喚された時から自然に理解できた。


話すこともできる。


ヴァンキッシュとのやり取りで渡された書面も読むことができた。


だから、薄々そうなのではないかと思っていた。

けれど、実際に自分で文字を書いてみるまでは確信が持てなかった。


「よし」


栞奈は紙を机の端へ置いた。


「まずは簡単な本から読んでみようかな」


いきなり難しい専門書を読んでも、この世界の常識を知らなければ理解できないだろう。


 ――それなら。


児童書。


昔話。


簡単な歴史書。


生活に関する本。


この世界の常識を知ることができそうなものから、少しずつ。


「これにしよう」


一冊の本を手に取る。


椅子に座り。


ページを開いた。


 そして――。


「…………」


読み始めた。


⸻


しばらくして。


「…………」


ページをめくる。

紙に気になったことを書き留める。

またページをめくる。


「…………」


次の本を手に取る。

そしてまた読む。


栞奈は完全に本の世界へ入り込んでいた。

周囲の音など、ほとんど聞こえていない。


「カンナ様、お昼のお食事を――」


「……はい」


返事だけ。


ページをめくる。


「カンナ様?」


「……あと少しだけ」


「…………」


侍女は困ったように栞奈を見つめた。


 ――しかし。


その「あと少し」が終わる頃には、昼食の時間はとっくに過ぎていた。


そして夕方。


「カンナ様。そろそろ夕食のお時間でございます」


「…………」


「カンナ様?」


「…………あ」


ようやく栞奈が顔を上げた。


「……もう夕方?」


「はい」


窓の外を見る。


昼間は明るかったはずの空が、すでに夕焼けに染まっている。


「……そんなに時間経ってた?」


「はい。昼食のお時間も過ぎております」


「…………」


栞奈は手元の本を見る。


「……面白くて」


「存じております」


侍女は苦笑した。


「ですが、お食事は召し上がっていただきませんと」


「はい……」


栞奈は名残惜しそうに本を閉じた。

こうして、この日の読書は一旦終了となった。


⸻


 ――その夜。


再び湯浴みの時間がやってきた。


「…………」


湯船を前に、栞奈は遠い目をする。


「……お手伝いは…いらな…」


「ダメです」


「…………ですよね」


朝ほど抵抗する気力も残っていなかった。

それでも、やっぱり少しだけ恥ずかしい。


「なるべく自分でできるところは自分でしますから」


「もちろんでございます」


そんなやり取りをしながら湯浴みを済ませる。


寝間着は白いレースのあしらわれた、足元まで届くゆったりとしたものだったが…


「こちらの紐を――」


「えっと……こう?」


「はい。ですが、その上からこちらを――」


と、やはり侍女の手を借りることになった。


 (…せめて、寝間着だけでも手伝ってもらうことなく一人で着替えられるようになろう…)


そんな小さな目標を胸に、栞奈はベッドへ入った。


「……今日は、いっぱい分かったな」


この国のこと。


知らない植物。


知らない動物。


魔法のこと。


まだほんの少ししか知らない。


 ――それでも。


昨日まで何も分からなかった世界が、ほんの少しだけ身近になった気がした。


「……明日は、何を読もうかな」


そんなことを考えているうちに。

栞奈の意識は、ゆっくりと眠りへ落ちていった。


異世界での二日目。


栞奈は少しずつ、この世界を知り始めていた。

主人公がこの世界を知ろうと手探りで探しているところですね。陛下たち早く帰ってきて!!

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