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戦場より険しい買い物と、サクラ色の約束

シティでの「特級任務」を終え、大金を手にした翌日。

 サクラが漆黒のSUV『ベヒモス』を走らせて向かったのは、中層シティの大通りに面したきらびやかな『高級ブティック』だった。


ガラス張りの店内には、スラムでは絶対に見かけない色鮮やかで上質な布地が並んでいる。だが、そこに足を踏み入れたサクラは、ハウンドの群れに囲まれている時よりもずっと険しい顔をしていた。


「……セレナ。どれが『普通』だ。……ひらひらしてるのは、邪魔だ。動きにくい」


サクラは並べられたフリルのついたドレスを睨みつけながら、脳内のAIに小声で尋ねる。


『マスター、これは戦闘服ではありません。……シエル様の瞳の色に近いブルーのワンピースと、サクラ様には淡いピンク……文字通り「サクラ色」のものが、データ上は最も「普通に可愛い」と定義されています』


セレナのナビゲートに従い、サクラは視界にハイライトされた二着のワンピースのハンガーを鷲掴みにした。


「いらっしゃいま――ひっ!?」


愛想よく近づいてこようとした店員を、サクラは言葉ではなく『全力の殺気』で拒絶する。ビクッと肩を震わせ、後ずさりした店員を冷たい目で威圧しながら、サクラはレジに二着の服をドンッと置いた。


「……これ、二着。……あと、サイズはこれくらい」


サクラは無言で、シエルの背丈と体格を手でジェスチャーして伝える。

 店員は、目の前の少女が放つ異常なプレッシャーと、提示された『残高1000万超えのVIPカード』にガタガタと震えながらも、プロの意地で美しく丁寧なラッピングを施した。


◇ ◇ ◇


夜。鉄の要塞マイホームのガレージ。

 サクラはベヒモスのトランクを開けると、そこから美しいリボンがかけられた包みを無造作に取り出し、シエルに向かって放り投げた。


「わっ!? なにこれ?」

「……やる。シエル。……お前の服、いつも油臭いからな」


サクラはそっぽを向きながら、ぶっきらぼうに言い放つ。

 シエルは不思議そうに包みを開け……中身を見た瞬間、その目を限界まで見開いた。


「えっ……なにこれ。えっ!? シティのブランド品じゃん! しかもこれ、すっごく可愛い……!」


シエルはブルーのワンピースを胸に当て、瞳をキラキラと輝かせている。その無邪気に喜ぶ姿を、サクラは少し気まずそうに、けれど純水のお風呂上がりのような、どこかスッキリした顔で見つめていた。


「あ!」


包みの底を漁っていたシエルが、もう一着の服を見つけて声を上げる。


「サクラの分もある! お揃いじゃん! ねえ、今度これ着て、またシティに出かけようよ!」


満面の笑みで提案するシエル。サクラは、その手にある淡い『サクラ色』のワンピースを見つめ、それから真っ直ぐに相棒の目を見た。


「……あぁ。……文字が、一文字でも書けるようになったらな」


今はまだ、ペンを握る手は震えてしまうし、ナイフとフォークもうまく使えない。

 けれど、いつか必ず。

 二着のワンピースは、血と硝煙にまみれた少女たちが、本物の「普通」の女の子になるための、小さくて大切な約束になった。

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