楽しい思い出を
2回目の更新です。
「…悠斗」
「なに?」
バスケ部のグループから離れてすぐ、明希に呼ばれた。
「…ごめん」
歩きながら後ろに顔を向けると、明希が俯いたまま歩いている。
「謝る相手が違うよ」
俺はそもそも怒っても迷惑に思ってもいない。
それに、自分が明希と同じ立場になった時にハッキリと断れたかと聞かれたら、わからない。
だから、謝るなら槙野にだけでいいと思っている。
「明希は変に責任を感じなくていいからさ」
本当に気にしていないということを伝えるために笑顔で言ったが、明希は俯いている。
「水族館でさ、俺に言ってくれたこと覚えてる?」
俺が倖楓との関係に今よりも消極的に悩んでいた頃。
明希が言った言葉は俺に力をくれた。1人じゃないんだと教えてくれた。
人を信じることの難しさを知っている俺に、信じられる人の大切さを実感させてくれた。
「俺も明希のこと、信頼してる。だから、多少負担をかけたっていいんだよ。お互い様なんだから」
「…ありがとう」
ようやく顔を上げる明希。
「あと、槙野に悪いと思うなら、伝えること伝えなよ」
「わかってる。今度は失敗しない」
その顔は、覚悟を決めたようだった。
少し急ぎ足で人混みの中を進むと、ようやく倖楓と槙野が待っている場所の近くまでやってきた。
遠目から2人の姿が見えたが、楽しそうに話しているようだ。
ついこの間、プールでのナンパもあったのでそれが心配で急いでいたが大丈夫そうで安心した。
俺は明希にわかるように指をさす。
「ほら、あそこ」
「あぁ…」
槙野が目に入った途端、明希の歩くペースがガクッと落ちた。
しかし、明希は目を閉じて深呼吸をしてから自分の頬を叩き、
「よし!」
と、気合の入った声を出す。
励ますべきかと思ったが、杞憂だったらしい。
その勢いのまま、俺と明希は2人の傍まで向かう。
「お待たせ」
俺が声をかけると、2人は振り返る。
「ゆーくん、おかえり!」
「………」
倖楓が元気に返事をしたのに対して、槙野は気まずそうな顔をしている。
もちろん、さっき気合いを入れたばかりの明希も…。
「………」
この通り動けなくなっている。
どうしたものか、と倖楓を見ると苦笑いで返されてしまった。
たぶん、このまま俺と倖楓が一緒にいても逆に気まずいままだろう。
明希の当初の目的のためにも、早めに退散した方が良さそうだ。
「よし。サチ、俺達は行こうか」
「「え!?」」
明希と槙野が同時に驚いて俺を見る。
「うん、そうだね」
「「え!?」」
倖楓が同意すると、今度は倖楓の方を見る。
倖楓が立ち上がると、明希と槙野からここに残ることを懇願するような目で見られる。
2人の情けない姿に、俺は苦笑してしまう。
「最初から別々の予定だったんだから、元に戻るだけだよ」
「そうだよ!それに香菜ちゃん?さっきはあんなに―――」
「あー!倖楓ちゃんストップ!わかった!わかりました!」
槙野が急に慌て始めた。一体、さっきまで何をしてたのやら…。
「…俺もわかった」
慌てている槙野を見て逆に冷静になったのか、明希も別行動を受け入れた。
もう大丈夫そうだ。
「じゃあ、また学校で」
「またね、香菜ちゃん、久木君」
「うん。またね2人とも」
「本当にありがとう。またな」
俺達は夏休み最後の挨拶を交わして別れた。
これでようやく元通りだ。
明希と槙野と別れてすぐ、俺は倖楓に謝った。
「ごめん、また1から場所見つけないとだ」
しかも、花火が打ちあがるまでそれほど時間は残っていない。
申し訳なくなっている俺に対して、倖楓は笑いだした。
「水族館の時もこんな感じだったね」
たしかにあの時も明希と槙野が2人きりになれるように行動して、倖楓に我慢してもらったんだった…。
「イルカショーな…。約束もちゃんと覚えてるから、ちゃんと埋め合わせさせてもらいます」
「冬休みでもいいからね?」
これは暗に「冬休みが良い」ということだろう。
「絶対に予定は空けます。ほんと、ごめんな…」
ただ、イルカショーの時と違って花火が見れないわけではない。
なんとか良い場所を見つけよう。
そう考えていると、倖楓が首を横に振る。
「あのね、花火自体はそんなに大事に思ってないの」
「でも、花火が見たかったからあんなに来たがったんでしょ?」
俺の疑問に倖楓は少し首を傾げ、
「んー。私はゆーくんと一緒に花火大会に行きたかっただけでね、たとえ花火が綺麗に見える場所で見れなくたって、楽しい思い出になればそれでいいの」
そう言って、倖楓は楽しそうに笑う。
「それにね。ゆーくんが友達に優しいことを怒ったり、嫌に思ったりしないよ?」
「…そっか。ありがとう、サチ」
「まあ、それで私が放って置かれたりしたら、それはそれでイヤなんだけど…」
今度は拗ねたような顔をする。
コロコロと変わる表情がなんだか可笑しくて、俺はつい笑ってしまう。
「あ!全然笑いごとじゃないからね!大事なことなんだから!」
「ごめんごめん」
「もうっ、笑ったまま謝っても―――」
倖楓のお小言は、突然の大きな音とカラフルな光で遮られた。
それと同時に、周囲からは「おー」と歓声が上がる。
いつの間にか、花火の上がる時間になってしまっていたらしい。
俺と倖楓は道の端に避けてから、空を見上げる。
土手からは離れてしまったが、意外と綺麗に見えることに少し驚いた。
さっきは「綺麗に見えなくても良い」と言っていた倖楓だが、やっぱり打ち上げ花火にはテンションが上がるらしい。俺の袖を何度も引っ張ってくる。
「ゆーくん、綺麗だね!手持ち花火もいいけど、やっぱり大きい花火は良いね!」
「だなー」
2人で上を見つつ花火の感想を共有する。
『花火より、倖楓の方が綺麗だよ』
隣から無理して低い声を出したのが丸わかりな台詞が聞こえてきた。
「勝手にアテレコすんな」
「えー!せっかく気持ちを代弁してあげたのに」
「ねつ造だ!」
「じゃあ、そういうことにしておいてあげるっ」
どちらからともなく笑い合う。
たしかに、こんな風に笑い合えたなら来ただけでも意味があったと思う。
上を見ている時間と横を見ている時間。どちらが長かったのかは、あえて語らないでおくことにする。
次が本日最後の更新になります。
4.5章も同時に終わります。
21時頃の予定ですので、よろしくお願いします。




