表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の葬式――断罪された姉の為、妹は復讐を誓い真実を暴く  作者: 冬月子@書籍化決定!悪役令嬢のダイエット革命5/1発売


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/29

19話 断罪の夜Ⅲ

「……そんな、馬鹿な……!」


アンジェリカの唇から、掠れた声が零れ落ちる。

胸元に添えられていた手は、いつの間にか強く握り締められ、白く変色していた。


「皆さま……っ。これは、何かの間違いですわ。わたくしは、ただ……ただ、被害を受けただけで……」


だが、その言葉は、もはや誰の胸にも届かない。


「間違い、ですか」


ルーカスは、口元だけで笑った。

そこにあるのは愉悦ではない。相手を見下ろす、冷えきった軽蔑だった。


「では、説明してもらいましょうか。偽の証言、捏造された証拠、買収された侍女……。これだけの虚偽と工作が揃っていて、なお被害者だと言い張りますか?」


アンジェリカは、一歩、後ずさった。


「ア、アレクシス殿下……? アレクシス殿下は信じてくださいますよね! 私が、苛められていたのを知っておいででしょう?」


助けを求めるような声。けれど、王太子は視線を逸らした。

その仕草が、何より雄弁だった。アンジェリカを見捨てたのだ。


「お、俺は知らん!」


耐えきれなくなったように、アレクシスが声を荒げる。


「お前が苛めを訴えるから、俺は信じただけで――!」


だが、その言い訳は、もはや誰にも救われない。

真実は、すでにこの場に、残酷なほど揃っていた。


会場のざわめきは、もはや制御不能になる。


「では……リリアーヌ嬢は、冤罪だったと……?」

「無実の者を、我々は……断罪したのか……?」


疑念と動揺が、貴族たちの間を駆け巡る。


その時。

大広間の扉が、乱暴に押し開かれた。


金属が擦れる不快な音。

それだけで、空気が一段、張り詰める。居並ぶ貴族たちが、はっとして道を空けた。


「何事だ……ッ!」


玉座にあるべき王が、夜会の場に姿を現すなど、異例も異例だった。

正装の上着は半ば乱れ、肩に掛けた外套も整えられていない。つい先ほどまで、私室で休んでいたのだろう。早急にこの場に呼び出されたのが、どれほど切迫したものだったかが窺える。


王は、広間を見渡した。


蒼白な顔で立ち尽くす令嬢。焦りを隠せないアレクシス殿下。嘘だったと明かされ、俯く証言者たち。

配下から低声で状況を聞き、王の顔色も、みるみる青ざめていく。


しかし、ロザリーは手を緩めない。


「陛下。恐れながら、申し上げます」


ロザリーは声を張り上げた。王が出てこようとも、退く意思は一切なかった。

水晶灯の光を正面から受け、背筋を伸ばす。


「半年前……。姉リリアーヌは、この大広間で、弁明の機会すら与えられず、“悪役令嬢”として断罪されました」


誰も、言葉を挟まない。


「そして今、明らかになったのは――あの断罪が、虚偽の証言と、意図的な捏造によって作られたものだという事実です」


視線は伏せたまま。けれど、その声には一片の迷いもなかった。

ゆっくりと、裾を整え、深く礼をする。


「わたしは、大国の王子の婚約者として、この場に立っています。だからこそ、お願いではなく――要求します」


その一礼は、美しかった。

床に落ちた影すら、息を潜めるかのように、微動だにしない。


「姉リリアーヌの名誉回復と、この虚偽を作り上げた者たちへの、正式な再審と裁きを」


王は、しばらくのあいだ黙していた。

ロザリーの隣りのルーカス殿下をちらりと窺う。この国の過ちと、どう向き合うかを推し量っているようだった。

そして。


やがて、王は深く息を吸う。


「……頭を上げよ、ロザリー嬢」


低く、しかしよく通る声。

その一言で、広間のざわめきが、嘘のように鎮まった。


「そなたの要求は、理解した」


王の視線が、アレクシスへと向く。


「アレクシス」


名を呼ばれただけで、王太子の肩が強張った。


「この件、すべて把握していたか?」


「……い、いえ」


王の声が、わずかに低くなる。


「だろうな……。何故、一方の証言を信じ込んだ?」


「で、ですが、アンジェリカが涙ながら訴えるので、まさか嘘とは思えず……」


言い訳にもならない言葉。王は深くため息を吐いた。


「なんと、愚かな……」


王は視線を戻し、今度は広間全体を見渡す。


「この場で明らかになった証言、証拠、そして虚偽。いずれも、看過できるものではない」


その言葉は、石床に落ちるように響いた。


「即刻、再審の準備に入れ。虚偽の証言に関わった者、証拠の捏造に手を染めた者は、すべて拘束せよ」


今度は視線が、アンジェリカに向く。

彼女は、今にも崩れ落ちそうな顔で、唇を震わせていた。


「アンジェリカ嬢。再審が終わるまで、身柄は王宮預かりとする。逃げることも、口を封じることも許されぬ」


「そ、そんな……!」


縋るように一歩踏み出しかけた彼女は、衛兵に取り押さえられる。

それは――かつての夜、リリアーヌが連れ去られた光景と、酷似していた。

同時に、偽りの証言をした者たち、そしてアレクシスもまた、衛兵に囲まれていく。


王は、はっきりと宣告した。


「リリアーヌ嬢に下された断罪を、すべて洗い直せ。虚偽と捏造の余地を残すな。――これは、王命である!」


その言葉は、石造りの大広間に重く反響し、

夜会の終わりを告げる鐘となった。


ようやく――

本当に、ようやく。


姉であるリリアーヌが、長い時間をかけて背負わされてきた“悪役令嬢”という名の汚泥が、洗い流される時が来たのだ。


まだ、すべてが終わったわけではない。

けれど、この瞬間だけは、胸の奥で固く結んでいた何かが、ゆっくりとほどけていく。


ルーカスが隣に立ち、そっと支えるようにロザリーの肩へ手を置いた。指先から伝わる体温は、思いのほかあたたかく――それが、今の彼女には何より有難かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『悪役令嬢のダイエット革命』書籍化しました!
ご予約はこちらから
悪役令嬢のダイエット革命!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ