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悪役令嬢の葬式――断罪された姉の為、妹は復讐を誓い真実を暴く  作者: 冬月子@書籍化決定!悪役令嬢のダイエット革命5/1発売


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16話 真実

黄昏の光が空を赤く染めるころ、クラウゼ家の屋敷を後にしたふたりは、互いに誘い合うでもなく、自然と協会の墓地へと足を向けた。薄霧に霞む小径を静かに抜け、静寂の中にたたずむ墓石の間を歩むと、そこにはリリアーヌが眠る場所があった。


ロザリーは、言葉に詰まりながらも、自分の胸に沈む罪の重さを押し出すようにして口を開く。


「……ルーカス様は」


風に吹かれた声は、切れ切れに聞こえた。


「わたしが、姉さまを死に追いやったことを……知っていたのですね?」


問いというより、確認だった。

ルーカスは彼女を見据えた。その瞳の奥に、怒りでも、哀しみでも、苛立ちでもない――ただ、淡々と事実を受け止める冷たい光が宿っていた。


「ああ。彼女は、君のことを大切に思っていた」


その言葉は、場に似合わず、ひどく穏やかだった。


「実はね。僕は一度、リリアーヌに言ったことがある。……一緒に隣国へ来ないか、と。環境さえ変えれば、今の状況から離れられる。新しい場所でやり直すこともできるだろう、と。

……けれど、彼女は断った。……妹がいるから、と」


ロザリーの呼吸が止まった。胸の奥に、鈍い痛みが広がっていく。

ルーカスの声は、淡々としていた。


「そんな彼女が、君を残して死ぬわけがない。だから――」


わずかに、その視線がリリアーヌの名の刻まれた墓標へと落ちる。


「もし彼女が自死したのだとしたら……原因は、君にあるのだろうと思っていたよ」


逃げ場のない言葉だった。

ロザリーの肩が、小さく震える。


けれど――彼女はもう、俯かなかった。

今にも涙が零れ落ちそうな瞳で、まっすぐルーカスを見つめる。


「……はい。その通りです」


指先を強く握りしめる。


「姉を殺したのは、誰か。……それは、わたし」


胸の奥に沈んでいた罪が、言葉となって零れ落ちる。


「最後の夜。わたしの、軽率な一言が、……姉さまを死に追いやった。ああ、ごめんなさい、ごめんなさい……」


唇からこぼれるのは、取り返しのつかない謝罪ばかりだった。頬を伝う涙が、ぽたり、ぽたりと落ちていく。


今さら謝ったところで、聞き届ける相手は、もうここにはいない。

もう戻らない。もう触れられない。そこにあるのは――ただ、物言わぬ墓標だけだ。


「ごめんな……っ」


ロザリーは、また謝罪を繰り返しそうになり、血が滲むほど唇を噛みしめる事で耐えた。


――赦されたい。


そんな身勝手な願いが、心のどこかにあることに気づいてしまったからだ。


これまでロザリーは、姉を貶めてきた人々に怒りをぶつけてきた。

けれどそれは、本当は――何もできなかった自分。いや、違う。リリアーヌを傷つけた者の一人だった自分への、怒りだった。


墓地には、重たい沈黙が落ちていた。

湿った風が墓石の間を通り抜け、乾いた草を揺らす。


やがて、その沈黙をルーカスの低い声が破った。


「……だが」


短い一言だった。


「それが、すべての理由だとは思っていない」


ロザリーが、はっと目を見開く。

ルーカスの瞳は、先ほどよりもずっと鋭かった。


「あなたの言葉が、彼女を傷つけたことは……きっと事実だろう」


低く、静かな声だった。


「だけど、それだけじゃない。リリアーヌが、どれほど長く追い詰められていたのか――あなたも、知っているだろう?」


ロザリーの喉が、かすかに鳴る。

ルーカスの言葉は、ゆっくりと続いた。


「彼女を貶め続けてきた令嬢達。罠に嵌め、罪を着せた者。婚約者でありながら、彼女を守るどころか……雑に扱い続けた男」


一つひとつの言葉が、静かに積み重なっていく。まるで、崩れた塔の瓦礫を数えるように。リリアーヌが背負わされたものの重さを、今さらになって突きつけるように。


そこでルーカスは、一度だけ息を吐いた。

わずかに視線を落とす。その横顔に、かすかな影が落ちた。


「……そして」


声が、ほんの少しだけ低くなる。


「何も出来なかった僕にも……咎はある」


その言葉を聞いた瞬間、

ロザリーの胸の奥で、何かがひどく軋んだ。


――リリアーヌの死の真実。


ずっと見ないふりをしてきたものが、

ゆっくりと、形を持って浮かび上がる。


王妃の玉座に手を伸ばすため、

アンジェリカは姉を“悪役令嬢”と印象付けた。


金貨の重みに良心を売り渡した侍女は、

主人の予定や私物を横流しした。


嫉妬に胸を灼かれた令嬢たちは、

噂を王宮じゅうに撒き散らし、

罪の証をでっちあげた。


嘘だと知りながら、

カヴェインは目を伏せ、

沈黙という共犯を選んだ。


婚約者が邪魔になったアレクシスは、

正義の仮面を被り、

断罪の言葉を振り下ろした。


追い詰められていると確かに知っていたのに、

なにもできなかったルーカスと、


――そして。


最後に、確実に

姉の息の根を止めたのは、

ほかでもない、

わたしだった。


自死だと、信じたくなかった。


いいえ――違う。


信じたくなかったのではない。


自分のせいで死んだのだと、

認めたくなかっただけだ。


本当は、分かっていた。


あの夜、姉の顔から血の気が引き、

すべての感情が消えた、あの瞬間。


取り返しのつかない言葉を、自分が放ったことを。


けれど――わたしは目を逸らした。


誤魔化すように、

姉を殺した犯人を探していた。


いるはずもないのに。


本当は、ずっと前から知っていたのに。


その犯人が、

――自分自身だということを。


「……はい、そうですね。でも、わたしが……姉を追い詰めたのも事実です」


ロザリーは、震える息を吐いた。

声はかすれていたが、最後まで言わなければならない。


「わたしを……どうするかは、ルーカス様にお任せします」


涙で滲む視界の向こうで、ルーカスは微動だにせず立っている。

彼が、どんな思いで自分に近づいたのかは分からない。もし彼の手で断罪されるのなら、それでもいい。それが、せめてもの償いになるのなら。そう思うしか、ロザリーには残されていなかった。


「……どうか、わたしに罰を与えてください」


ロザリーは、ゆっくりと頭を垂れた。


「……あなたが罪人なら、僕だってそうなんだけどね」


ルーカスは困ったように、ほんのわずか肩をすくめた。


「あなたを裁ける立場だとは思えないけど、そうだね。あなたにはこの先にも協力してもらいたい」


「協力……」


「……罪のない人間を貶めた彼女たちを見過ごすことはできないからね。……正義のため、なんて言うつもりはない。リリアーヌのため、と言えば聞こえはいいが……それだけでもない」


ほんのわずか、自嘲めいた笑みが浮かぶ。


「結局のところ、これは僕の自己満足なんだろう」


そして、静かに言った。


「それでも――このまま終わらせる気はない」


彼はゆっくりと手を差し出した。

それは、ロザリーが初めて彼と出会った日のことを思い出させる仕草だった。


あの日と同じように、

迷いのない手だった。


「だから、ロザリー」


彼女の名を、はっきりと呼ぶ。


「一緒に来てくれないか」


差し出された手は、逃げ場を与えないほど真っ直ぐだった。

その瞳に宿る光は、冷たく鋭いまま。なのに、その奥には隠し切れない熱に帯びていた。


「僕と一緒に、地獄に堕ちてくれ」


囁くような声だった。

なのにそれは、愛の告白と錯覚してしまいそうなほど、甘く、狂おしい響きを帯びていた。

ロザリーは、差し出されたその手を見つめる。


それは救いの手ではない。赦しでもない。

罪を背負った者同士が、同じ場所へ向かうための手だった。


ロザリーの指先が、かすかに震える。

それでも、彼女はゆっくりとその手を取った。


「それで……姉の汚名を、そそげるなら。喜んでーー」


その掌の温度は、変わらず、優しくて――

その手に引かれて行くのなら、たとえ行き着く先が地獄でもかまわない。そんな気がした。

クライマックス推理の気持ちで書きました。これまでの描写が、「ああ、そういうことだったのか」と腑に落ちるものになっていれば幸いです。

これから断罪&ざまあのターンになります。ルーカスやあの人視点の話や、その後も書いていきます。あと10話ほどで完結予定です。

「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ブックマーク&広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】から評価していただけると嬉しいです。


また、拙作『悪役令嬢のダイエット革命~〜前世の知識で健康美を手に入れてざまぁします!~』が書籍化いたしました。発売日は5月1日になります。

下記にリンクを掲載しておりますので、ご興味がございましたらぜひご覧いただけますと幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。

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