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悪役令嬢の葬式――断罪された姉の為、妹は復讐を誓い真実を暴く  作者: 冬月子@書籍化決定!悪役令嬢のダイエット革命5/1発売


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15話 姉と過ごした最後の夜

そして、あの夜がやってきた。


リリアーヌが悪役令嬢として断罪され――

王太子によって婚約破棄が宣言された、その広間でのことだった。


リリアーヌが連れていかれた後も、ざわめきはまだ収まっていなかった。

貴族たちは互いに顔を寄せ合い、ひそひそと囁き合う。


「あの完璧な令嬢であるリリアーヌが悪役令嬢だなんて……」

「まさか、王太子殿下が婚約破棄をなされるとは……」

「あの名門のホワイト家が……」


誰もが、今しがた起きた劇的な出来事に湧きだっている。

その時だった。


「……少し、良いだろうか」


静かな声が、広間の端で上がった。

振り向いた先にいたのは、カイルだった。先ほどまでロザリーの隣に立っていた、婚約者。


「な、なに。カイル……」


「このような騒動の最中で大変恐縮だが」


カイルは淡々と続けた。


「今回のリリアーヌ令嬢の一連の事態を鑑み、我が家としても一つ、決断を下さねばならなくなった」


胸の奥が、ひやりと冷える。嫌な予感がした。

その予感は、あまりにも早く現実になった。


「君との婚約を――ここで白紙にさせてもらう」


あまりにもあっさりとした声音だった。

広間が、再びざわめく。つい先ほどまでリリアーヌに向けられていた視線が、今度は一斉にロザリーへと集まった。


「……え」


思わず声が漏れる。

あまりにも、唐突だった。


「今回の件で、ホワイト侯爵家の立場は大きく揺らぐだろう。残念だが……このまま婚約を維持するのは難しい」


ロザリーの指先が、冷たく震えた。


「えっ、待って!」


踵を返しかけたカイルに、ロザリーは追いすがる。

ドレスの裾が石床を擦り、乾いた音が広間に響いた。


「どういうこと……? わたしたち――愛し合ってたじゃない……」


カイルは振り返る。

その表情には、困ったような笑みすら浮かんでいた。


「愛?」


わずかに肩をすくめる。


「もともと政略結婚だろう。利がなければ、結婚なんて成立しないさ」


胸の奥で、何かが音を立てて崩れた。


「……後ほど、改めて正式に連絡する」


それだけ告げると、彼は颯爽と歩き去った。振り返ることもなく。


つい先ほど、姉が同じ広間で切り捨てられたばかりだというのに。その余波が冷める間もなく。

ロザリー自身もまた――同じ場所で、同じように婚約を破棄されたのだった。


まるで、リリアーヌの罪が連鎖するように、ロザリーの人生にまで影を落としたかのようだった。

これまでも、そうだった。そして――きっと、これからも。

姉の存在ひとつで、進むはずだった道が歪められ、積み上げてきたものが、音を立てて崩れていく。


(この先もずっと、姉の影に振り回されながら生きていくしかないの……?)


そんな考えが脳裏をよぎり、背筋が冷えた。

立ち尽くす暇すら与えられないまま――ロザリーは、すぐさま姉のもとへ向かうことになった。


夜会の最中の断罪という異例の事態の直後だ。

関係者の貴族たちはそれぞれ控えの間へ通され、王宮の指示があるまで待機するよう命じられていた。

ロザリーもまた、その一人だった。


長椅子に腰掛けたまま、ぼんやりと床を見つめる。これから先のことなど、考えようとしても、うまく思考がまとまらなかった。

そのとき、控えの間の扉が叩かれる。入ってきたのは、王宮の侍従だった。


「ロザリー様。少々よろしいでしょうか」


名を呼ばれ、ロザリーは顔を上げる。


「……何でしょう」


侍従は一礼し、静かに告げた。


「拘束されているリリアーヌ様が、面会を希望されております」


「……面会?」


「はい。妹君に会わせてほしいと」


「……どうして」


「まだ正式な処分は決まっておりません。王宮としても、家族との面会を完全に禁じる理由がございませんので」


「……分かりました」


(……顔なんて、見たくないのに)


姉が面会を望む理由は分からない。

だが――ただ、一言。言ってやらなければ、気が済まなかった。胸の奥に渦巻く怒りも、惨めさも、裏切られたという思いも。

すべて、誰かに……姉さまにぶつけてやらなければ。そうでもしなければ、自分が自分でいられない気がした。


侍従の後に続き、ロザリーは王宮の回廊を歩いた。

夜も更けた城内は静まり返っている。磨き上げられた石床に、靴音だけが乾いた響きを落としていた。いくつもの廊下を曲がり、人気のない一角へと案内される。やがて侍従が立ち止まり、重厚な扉の前で一礼した。


「リリアーヌ様はこちらに」


部屋の前に立つ護衛の男に許可を求め、扉が開かれる。

その男がカヴェインであることに、ロザリーは気づかなかった。それほどまでに、感情は荒れ狂っていた。


「……ロザリー?」


扉の向こうに立っていたリリアーヌは、ロザリーの姿を見て、驚いたように目を瞬かせた。

けれど、その表情はすぐに、ぎこちなく歪み、無理に形作られた笑みへと変わる。


「ロザリー……!」


その笑顔は、あまりにも痛々しかった。


「来てくれたのね。……心配してくれたの? 嬉しいわ」


(……心配?)


違う。そんなわけがない。

ここに来たくなどなかった。顔を見るのも、声を聞くのも、嫌だった。


「……用は、なんなの?」


吐き出すように言うと、リリアーヌは少し驚いたように瞬いた。


「え?」


「面会を望んだって聞いたの。だから来ただけよ」


次の瞬間、胸の奥に溜まっていたものが、堰を切ったように溢れ出す。


「なんてことをしてくれたの!」


思いもよらぬほど大きな声が、狭い部屋に反響した。


「嫉妬に駆られて、王太子と仲良くしている令嬢に加害を加えるなんて……ありえないわ。そんな人だなんて、思わなかった!」


言葉は、刃となって次々と飛び出す。

止める術もなく、ロザリー自身の胸さえ切り裂きながら。


「ロ、ロザリー……違うの。聞いて。わたくしは、決してアンジェリカを虐めなんてしてないわ。すべて誤解なの……。信じて、ロザリー」


縋るように伸ばされた声に、ロザリーの瞳はほんの一瞬だけ揺れた。


幼い頃、転んで泣いたとき。夜、怖い夢を見たとき。

いつもそうやって、姉は自分の名前を呼んだ。

あの時と、同じ声だった。


――けれど。


「今も、そんなことを言ってるの?」


涙が滲み、視界が歪む。


「あれだけ証拠も証言も揃えられて、断罪されて……婚約まで破棄されて……それでも、自分は悪くないって言うの?」


ロザリーの声は震えていた。

そこにあるのは、怒りだけではない。恐れも、絶望も、縋りたい気持ちも。すべてが絡み合って、息苦しいほどだった。


「姉さまのせいで……わたしまで、婚約破棄されたのよ……」


「……そんな……」


言葉を探すように開きかけて、けれど何も紡げないまま、音だけが零れ落ちる。

それでも――ロザリーは、止まれなかった。


「姉さまのせいで、わたしの人生は、めちゃくちゃよっ!」


胸の奥で、何かが弾ける。

それは、決して言ってはいけない言葉だった。


「――悪役令嬢の姉さまなんて……」


喉が、ひくりと鳴る。

一度こぼれ落ちた言葉は、もはや引き返せない。


「……はじめから、いなければ、よかった!」


その瞬間。

リリアーヌの表情から、血の気が引き、まるで色彩そのものが、音もなく剥がれ落ちていく。

驚きも、戸惑いも、悲しみさえも――すべてが凍りついたように消え失せ、そこに残ったのは、感情を失ったかのような凍てついた表情だった。


「あっ……」


リリアーヌの喉から、ひきつった声がわずかに漏れた。


「ごめんなさい……」


リリアーヌの謝罪に、ロザリーが返したのは冷たいまなざしだけだった。

そのまま踵を返し、部屋を立ち去る。


姉に投げつけた、たった一言の言葉の重さを、ロザリーは、まだ理解していなかった。


その言葉はすでに崖の縁に立たされていたリリアーヌの背を、ほんのわずかに押すには十分すぎた。そのことを、ロザリーは知らなかった。

彼女が部屋を立ち去ったあと、静まり返った深夜。リリアーヌはテラスから飛び降り、命を絶った。



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どうぞよろしくお願いいたします。

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