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悪役令嬢の葬式――断罪された姉の為、妹は復讐を誓い真実を暴く  作者: 冬月子@書籍化決定!悪役令嬢のダイエット革命5/1発売


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13話 語られるあの夜

ゆっくりと、覚悟を決めるように、彼は顔を上げる。その眼差しには、逃げ場を失った人間の、剥き出しの感情が宿っていた。


「お話ししましょう。オレは……許されないことだと分かっていながら、王太子の婚約者であるリリアーヌ嬢のことを、お慕いしていました」


その告白は、重く、ひそやかに、部屋に落ちた。


「この気持ちを、口にするつもりはありませんでしたよ」


自嘲するように、彼は微かに口元を歪める。


「騎士として、殿下に仕える者として、決して抱いてはならない感情だと分かっていましたから。だから、胸の奥に閉じ込めて、見ないふりをして……ただ、護衛として、彼女の安全だけを願っていた」


けれど。


「彼女が、“悪役令嬢”だという噂が流れはじめたとき……」


その瞬間、彼の目に、暗い光が宿る。


「オレは……思いました。これは、チャンスなのではないか、と。婚約が破棄されれば……王太子妃の座から、彼女が引きずり下ろされれば……その時は、俺にも、機会があるのではないかと愚かにも思ってしまった……」


沈黙が、落ちる。

その沈黙は、彼自身の罪を何よりも雄弁に語っていた。


「な、なんて……自分勝手なの……!」


震える声が、ロザリーの喉からこぼれ落ちた。


「そ、そんな……そんな一方的な想いで、姉さまの悪評を、放置するなんて……!」


心臓が、ぎりぎりと軋む。怒りなのか、悲しみなのか、自分でも分からない感情が、ぐちゃぐちゃに絡まり合っていた。


「大切な人が、追い詰められていく姿を見て……」


言葉が、途切れる。

唇を噛みしめ、滲みそうになる視界を必死で堪えながら、ロザリーは叫ぶように続けた。


「苦しんでいるのを、見ていて……何も、思わなかったの? 胸が、痛まなかった? 助けたいと……守りたいって、思わなかったの……っ?」


感情が、制御できない。

それまでに姉さまを想っていたのなら。どうして、その想いを理由に、姉さまを孤独へ追い込んだりしたのーー。

その矛盾が、どうしても許せなかった。


「否定しません」


カヴェインは、ロザリーを見る。


「オレは、噂を止めなかった。……止められたはずなのに。心のどこかで、彼女が追い詰められていくことを、利用しようとしていた」


拳が、強く握られる。


「それでも……それでも、死んでほしいなどとは、思っていなかった」


声が、低く、掠れる。

その言葉は、言い訳であり、懺悔であり、そして――取り返しのつかない後悔だった。


ロザリーは、胸の奥が、冷たく、重く沈んでいくのを感じながら、はっきりと理解してしまう。

カヴェインの後悔は、本物だ。

そして――彼は、姉さまの死を望んではいなかった。


つまり。

カヴェインは、犯人ではない……?


「……カヴェイン様」


ロザリーは、感情を押し殺し、静かに問うた。


「あなたは、本当に、姉さまに死んでほしくなかったと言うのですね?」


「……はい」


即答だった。迷いのない、痛みを孕んだ声。

とても演技とは思えない。ロザリーはカヴェインを信じざるを得なかった。


「それなら……あなたが知っていることを、すべて、教えてください。姉さまの最期の夜に、何があったのかを」


カヴェインは、じっとロザリーを見つめてから、ゆっくりと口を開いた。

護衛騎士としての仮面を被り直すように、低く、断言する。


「……あの夜、リリアーヌ様はひとりで居ました」


「嘘よ!」


思わず、声が鋭くなる。


「誰かが、姉を殺したはずよ。姉は……自ら命を絶つような人じゃない……って。――それは、あなたも、ご存じでしょう?」


震える問いに、カヴェインは目を伏せ、短く息を吐いた。


「……ええ。リリアーヌ様は、気高く、尊いお方でした」


一瞬の沈黙。

それから、彼は現実を突きつけるように、続ける。


「ですが……。もし、窓から何者かが侵入していたとすれば、必ず物音がしたはずです。あの部屋は高所にあり、足場も不安定で……音も立てずに侵入するのは不可能に近い」


「……それじゃあ」


喉が、ひりつく。


「やっぱり、姉は……自殺したとでも言うの?」


言葉にした瞬間、胸が、痛いほどに締めつけられる。


「どうして……どうして、姉さまは、自殺したの……」


そのときだった。


カヴェインの視線が、ゆっくりと――だが確かに、ロザリーを射抜いた。

昏い、底の見えない眼差し。


「それは……」


低く、ざらついた声が落ちる。


「あなたが、ご存じなのではありませんか? 最後に、リリアーヌ様とお会いになったのは――

ロザリー嬢。貴方なのですから。」


息が、止まる。


「ち、ちが……」


喉から零れた声は、あまりにも頼りなく、自分の耳にすら届かない。


――違う。

――わたしは、……して、なんかいない。


必死に否定しているはずなのに、言葉は形を成さず、喉の奥で砕け散っていく。


「わたし、じゃ……ない……」


その瞬間、あの夜の光景が、否応なく、脳裏を侵食する。


灯りに照らされた、姉さまの横顔。どこまでも静かな声で紡がれた、最後の言葉。

忘れたふりをしてきたはずの記憶が、まるで罪を暴くように、鮮明さを増していく。


カヴェインの言葉は、告発ではない。

責めるためのものでも、断罪でもなく、ただ事実を口にしただけだ。

だからこそ、残酷だった。


「殺したのは……、わたしじゃ、ない……っ!」


わたしは。わたしは、どうして……知らないふりをしてきたのだろうか。

姉さまが、誰にも見せずに、ひとりで壊れていった、その瞬間を。


そして――

もしも。


(もしも、あの夜、姉さまの背中を押したものがあるとしたら。)


それは、“誰の手”だったのだろうか。


わたし自身の、無知や、甘さや、

――取り返しのつかない、ひとつの言葉だったのではないか。


「ロザリー……」


低く、感情を削ぎ落とした声。


それまで、カヴェインとのやりとりを黙って見守っていたルーカスが、

冷たいまなざしで、ロザリーを見下ろしていた。


まるで、逃げ道など、最初から存在しないと告げるように。


「さあ、ここまで付き合ったんだ。話してくれるね? 彼女の最期を――」

いよいよ次話から真相を明かしていきます。


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