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七.光と闇

「お前は()()()()()()()()()()()()か?」


 ガルヴァンが西本をギロリと睨んだ。


「ああ、お前の役割もわかったぜ。いいように扱われて、まったく情けないざまだな」


 言われなくても……ガルヴァンは苦しそうにうつむき、頭を抱えてその場に座り込んだ。パラパラと落ちる小石の中、ドラゴンは唖然と二人の様子を見ていた。巨大な体躯を丸め、地面にうずくまるガルヴァン様を見下げるベイビー。


(ありえない……こんなことが)


 ドラゴンは眩暈(めまい)がして、ベンチでうなだれた。


「西本!! 大丈夫か?」


 太郎が西本の元に駆け寄った。ああ、見喘げてニヤリと微笑む西本に太郎は、ほっと胸をなでおろした。ディープドリームの力に苦しむ姿に最悪の事態がよぎったが、見事に危機を乗り越えてくれた。やっぱ、こいつは頼りになるぜ。


「西本……」

 

 辻がガルヴァンを恐れつつ、恐る恐る近づいてきた。けっ、やっと素直になりやがったか。どんと背中を叩かれた辻が、苦笑いをして頭をかいた。


「さてと……」


 西本がガルヴァンを見下ろしながら、短い腕を組んで眉をひそめてた。


(こいつの宿命……なんとか手を貸してやりたいが)


 黙り込む西本に、業を煮やした太郎が詰め寄った。


「おい、西本! さっさと、状況を説明しろ。何がどうなってる?」


 辻も続いて頬を膨らませた。


「そうだ、西本。もったいぶらずに、知ってること、全部はなせ!」


 わかったから、落ち着けって……詰め寄る二人に、西本は慌てて両手を上げた。


      ※


「この世界、Dunk of Destinyは、なぜ存在していると思う?」


 は? 思いがけない質問に二人は目を丸くした。


「そ、そりゃ、異世界だから、昔っから存在してたんだろ、きっと」


 太郎が自信なさげにつぶやいた。


「そうだぜ、西本。なぜ、あるかななんて、誰も知りやしねぇぞ。なんでそんなこと聞くんだ?」


 辻が眉を逆立てて反論した。ふうと、息を吐いた西本が、呆れたような口調で話し出した。


      ※

 

「えーというわけで、この方程式は……」


 里奈は重くなった(まぶた)に必死に耐えながら教科書を見つめた。昨晩、徹夜で読んだ小説。


〝Dunk of Destiny 第二章 伝説のイカロス編〟


 あまりの面白さに読む手が止まらなかった。おかげで、今日は最悪の一日になりそうだ……


 はーあと欠伸をする里奈に先生の目が光った。


「山西さん。この問題を解いてください」


 あ、やばい……慌てて立ち上がった里奈は、目をこすりながらも黒板を睨んだ。


 x+3y+z=15……


 眩暈がしてきた。よりにもよって数学の授業で眠くなるとは……いや、数学だからか……


(145だよ)


 何? どこからか聞こえた少女の声に慌てて周りを見回した。皆、不思議そうにこちらを見ている。私にしか聞こえていない? えっと……恥ずかしくなってうつむいた里奈は、おどおどと答えた。


「145……です」


 正解ね。意外そうにうなずいた先生に、おおっと周りがどよめいた。


「バスケもほどほどにね」


 呆れたように話す先生に、里奈はぺこりと頭を下げて座った。


(さっきの声、なんだったんだろう。どこか、懐かしい気がする……)


 ゴロゴロゴロ……


 遠くから聞こえる雷鳴に、薄暗い雲で覆われた窓の外をぼんやりと眺めた。


(今日もまた雨。ここ半年、ずっとこの天気だ。体育館はつかえるから別にいいけど……)


 先ほどの声の事はすっかり忘れた里奈は、憂鬱(ゆううつ)な天気にため息をついた。

 

      ※


「そんな、ばかな……」


 太郎が青白い顔で力なく肩を落とした。


「うそだろ、俺たちのいた世界が作りものだなんて……」


 辻が魂の抜けたようにその場に座り込んだ。


「残念ながらこれが現実だ。その元凶は全て……」


 西本は遠くに立つ白髪の老人を睨んだ。


「おい。お前はシュウだな。いや、正確には境界世界にすむ、ヘタレ異世界作家の風間修一だろ?」


 ぎくりと肩を震わせた老人はあたふたして、くるりと踵を返した。


「そうはいくか」


 西本が手に持つボールを振りかざして、力いっぱい投げ込んだ。パコンと頭にあった老人は、ぺたんとその場に座り込んだ。


(原作者に何ちゅうことをするんだ、このキャラクターは……)


 シュウは眩暈を押さえて、必死に立ち上がって威厳をふるまいながらも西本を睨んだ。


「いかにも、わしがあの伝説の風間修一だ。仮にもお前たちの生みの親だぞ。ワシに失礼な事を……」


 その後の光景にシュウは目を丸めた。手に持つボールを次々にこちらに放り投げるベイビー。


「え、ちょっと聞いてた? ワシ、お前の生みの親なんじゃが……」


「しるか、んなもん。すべてはお前が元凶だろ!!」


 ぱかぽかと体中に当たるボールに、シュウは情けなくて、涙が出てきた。二話、連続こうなるワシって一体……


      ※


「イカロスが光ならガルヴァンは闇だ」


 力なく座り込むシュウの隣で話す西本の言葉に二人は息を飲んだ。


「俺は隕石を読む中で、知らずに、この異世界の大地の記憶をのぞくことになった。光と闇。拮抗する二人の力の上でこの世界は成り立っていた」


 だが……西本は怒りの眼差しをシュウに向けた。こいつが……。シュウが泣きそうになってつぶやいた。


「あれは不可抗力じゃ。異世界転送装置がまさか故障するなんて……」


 けっ、西本は悪態をついた。


「てめーの扱いが雑だからだろ。機械を落とした拍子に故障。現世と異世界のバランスが崩れた。結果、俺や辻、太郎が現世の記憶が混ざった状態で転生させられた」


「いや、あれは編集の電話のせいで……」


「うるせー。なんでも他人のせいにすんな。もとはと言えば、てめーがほいほい太郎を転生させたのが始まりじゃねーか!」


 うなだれるシュウを全員が呆気に取られて眺めた。辻が困惑した顔で西本に尋ねた。


「まだ話が良く見えないぞ。で、結局何なんだ。ガルヴァンは、なぜ攻撃をやめたんだ?」


「アイツのせいでもあるんだよ」


 西本が悲しそうにガルヴァンを眺めた。


「アイツがしっかりとしていればこんなことにもならなかった。度重なるイカロスとの闘いでの敗北。汚名返上とばかりに、巨瀬として現世に転生してもなお、圧倒的な伊賀の力の前にはかなわなかった。そして、太郎との最終決着で、完膚なきまでに敗れたあいつは、もはや、〝Dunk of Destiny〟の悪の統治者としての威厳は消えうせていた。闇の力が衰えた事も、バランスが崩れた一因なんだよ」

 

 西本はディープドリームで怒りの眼差しを見つめる青年を思い出した。ガルヴァンの心の奥に潜む、本当のアイツ。嫌われ者の悪役を引き受け、原作者にいいように操られながらも、自らを偽って生きてきた。その結果がこのざま……


「定めに従い最後まで傀儡(あくやく)を演じようとしていたこいつに、俺が投じた一石は、やつに迷いを呼び起こし、攻撃をやめさせることができたってわけだ。だが……」


 西本は険しい表情を浮かべた。


「あのまま攻撃を受けていた方がよかったのかもしれない。このままじゃあ、ガルヴァンの権威がますます落ちていく一方だ。やっぱ、俺は辻と違って、そこまで、頭が働かねぇな……」


 悔しそうに唇をかむ西本に太郎は唖然とした。


(そうだったのか……)


 重なるガルヴァンの挑発、そしてそれに必死に抗う自分の意志。異世界と現世のバランス。俺とあいつの心の奥に仕組まれたこの世界の構造(宿命)。あいつは人知れず、孤独に悪役を演じ続けてきた。西本は後悔しているが、これをきっかけに本来の自分に目覚めてくれることはいい事だ。だが、そうなると……はっとした太郎は西本に叫んだ。


「均衡が崩れた後はどうなるんだ? まさか」


 西本は太郎に悲しい眼差しを向けた。


「もともと、ヘボ作家の作った世界。面白くない物語は没になるのが運命(さだめ)。二つの世界が合わさった時、全てが無に帰り、この世界は消滅する。もちろん現世も……」


 はっと太郎は息を飲んだ。全て思いだした。あの時、シュウが自分に語り掛けた異世界の定め。表裏一体。異世界で死ねば、現世でも死ぬ……あの夢はやはり真実だった。伊賀や仲間たちと過ごした懐かしい日々。あのすべてがこの、風間シュウの手のひらで踊らされていた……絶望と、悲しみと、虚しさと……息がつまるような重苦しい何かに押しつぶされるような思いに襲われた太郎は、力なくその場に座りこんだ。


 ゴロゴロゴロ


 不穏な雷雲が上空に漂い出した。ピカリと走る稲光と同時に強烈な雨が降り注いできた。


「まだ、終わりじゃない!!」


 背後からの声に驚き振り返った西本は呆気にとられた。びしょびしょに濡れながらも、鋭い目つきでこちらを見つめる背の高い青年。まさか、こいつは……


「シュウさん。この姿で出てきてしまってすいません。でも、もう私は自分を偽るのはやめにしたいんです。彼とは、イカロス(伊賀)とは本当の姿で戦いたい。これが最後になるかもしれない。でも決してそうはさせない!!」


 ガルヴァンが移した視線の先には、真剣な顔を浮かべる伊賀がいつのまにか立っていた。


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