語られる過去
グレッタさんが言っていたのって、私の作った薬が冒険者たちに大人気ということだと思うけど、まさか専用の棚が作られてるとは誰が想像できたのだろう。その事にももちろん驚いたけれど、気になることと焦ることがひとつずつあった。
気になることは言わずもがなで、なぜこのような場所で再会したのかということ。いや、冒険者なんだからポーションを買いに来たんだろうけど、よりによって今日とは……。
決して嫌とかそういう気持ちはなくてね?ただ、顔面が強いが故に急に会ってしまうと、忘れていた乙女心を思い出してしまうのですよ。ええ。
「お待たせ。はい、これ!リーファちゃんの取り分ね」
「ありがとうございます」
「あっ、そうだ。リーファちゃん、せっかくだから追放の件相談してみたら?」
「追放?」
レグルスさんの低い声に、思わず肩がビクリと跳ねる。
冒険者に話したところで何が解決するのだろう。王族ならともかく、あの領主は平民の意見は一言も聞かない。それどころか弱みを握って、逆らえないようにするのが常套手段で、本当に探せば探すほど悪い所しか出ない領主なことだ。
「あっ、紹介していなかったわね。この方はフェルディア王国の第三王子、レグルス・フェルディア殿下。殿下、この子はリーファちゃん。殿下がお求めのポーションの製作者よ」
「でっ……!?」
(殿下!?!?!!)
いや、でも第三王子と言われればこの容姿端麗さにも納得がいく。けれど、冒険者で第三王子とあろうお方が、魔物を手当てする私を見逃してくれた……?
レグルスさん………レグルス殿下に話せば、村も両親も助けられたりするのかな。七年間一度も帰っていないし、というか帰ることができないから仕方ないんだけど。
「心配ありがとうございます、グレッタさん。けど、大丈夫です!」
「でも、職業だけで追放されたのはあまりにも理不尽すぎだよ。あっ、」
グレッタさんは、しまったという顔で口元を押さえたが、既に遅かったようだ。レグルス殿下の雰囲気が少し変わったのだ。
殿下と交互に私を見て、申し訳なさそうな目を向けてくるも、私は怒る気にはなれなかった。悪気がないということも、私のことを心配してくれているということも分かっているから。
「……えっと、レグルス殿下。この後お時間ありますでしょうか」
「ああ」
「では、カルディアまで送っていただけないでしょうか。その道中でお話します」
「分かった。グレッタ殿、イオナとエルハンが来たら、急用ができたと言っていたと伝えてくれるか」
「あ、ああ……。分かったよ」
馬を用意してくると行って先に出た殿下を待っていたら、グレッタさんが「すまないね」と謝ってくれた。気を悪くしてないし、怒ってもいないと伝えると、ホッとした顔を見せた。
さすがに荷車に殿下を乗せるわけにも、私が乗って殿下に引かせるのも違うからと言うと、馬で引くと言ってくれたのだ。
グレッタさん以外に話すのは、殿下が初めてだ。
「話してもらおうか。先程のこと。追放とはなんだ」
馬というのは想像以上に速く、あっという間に門を抜けてしまった。
目を閉じて、深く深呼吸をする。
別に、もう七年前のことだし、今ではなんとも思っていないけれど、今も村のみんなや両親があの領主にの元にいると思うと、どうしても苛立ちから魔力が高まる感じがしてままならない。
「十七年前、私は辺境伯村のごく普通の家庭で生まれました。十歳の頃、王都に職業鑑定を受けに来たとのとこです。魔物テイマーと診断された私は、その日の夜に領主であるマーゲル伯爵が家に来て、私に追放を言い渡しました。言い返すのも面倒くさくてすんなり受け入れましたが、伯爵はこう言いました。『今後、村への立ち入りと国の門を通ることを禁ずる。なお、国の門に関しては王家の命令だ』と」
「………は?それは、本当か?」
「この流れで嘘は言いませんよ。どうぞ」
さっきも言ったけど馬とは本当に速いもので、徒歩半日かかる道を数時間だけで山小屋に着いてしまった。私は、荷車から降りて殿下を山小屋へと案内する。
この山小屋に王家の人間がいる今の状況が、私にとってはイレギュラー過ぎて変な力が入ってしまう。王家の人は普段どんなものを飲んでいるのだろうか。メイドとか執事がいて、高級なものを飲んでいるのなら、私が出すお茶は粗末なものに過ぎないのではないか。森の奥で採れる、お茶にも使える葉を使っているから。
「ここに、一人で住んでいるのか?」
「最近までは。以前殿下とお会いしたあとにフェンリルと契約して、こんなに魔物が増えたので、今はひとりではないですが。まあ、七年もここにいますけど」
「な、なるほど……?」
だが、前にも言ったように全員と契約するつもりはない。自由に暮らして欲しいから。つまり!魔物たちは勝手に居座っているのだ!……だから、全員分のご飯を作るのがすごく大変。
でも、さすがは殿下……冒険者と言ったところなのか、着いたすぐは魔物の多さに豆鉄砲を食らったような顔をしていたけれど、一瞬で切り替えた。そして、私に案内されるがままに椅子に腰を下ろして、私の出したお茶を飲んでいる。
(順応性高いな、この王子)
「つまり、お前は魔物テイマーと鑑定されただけで何もしておらず、マーゲル伯爵は王家の名を騙ったという事だな」
「そういうことになりますね」
「だが、グレッタ殿の店にいただろう。あの店も王都内だぞ」
「当時から王家の命令というのが嘘だとは分かっていましたし、初めて薬を売りに行った時に何も止められませんでしたから。持ち金で通行料を払って、何店舗も回ってグレッタさんに会って、商業ギルドに入って、今。みたいな感じです」
正直、グレッタさん以外にこの事を人に話すことになるなんて思ってもいなかった。私の中では過ぎたことになっていたし、もっとも忘れたい出来事の一つだったから。
でも、その相手が王家の人というのは、何かの縁なのかもしれない。王家の名を騙ったというだけあって、今後の方針は王家に委ねられることになるだろうし、私自身そうしてもらった方がありがたい。あの村は領主がクズなだけであって、村のみんなや両親に非はない。それどころか、とってもいい人たちばかりだ。
「事情は分かった。あとはこちらに任せてもらいたい」
「ぜひ、お願いします」
「だが、ひとつだけ確認させてくれ」
「はい?」
「お前は、リーファはあの村をどうしたい?」
真っ直ぐな瞳……。どうしたいかなんて、聞かれるまでもなく決まってはいるが、追放された身の私がこれを語ってもいいのだろうか。
「……私は、村のみんなと両親が守られれば、それ以外に何も求めるものはありません」
「ふっ。そうか。……俺はこれでおいとまさせてもらうが、おそらく明日も来ることになるだろう。構わないか?」
「えっ?あ、はい。魔物沢山いますけど……」
「構わない。敵意を向けなければ、相手も向けてくることはない。だろう?」
「ふふっ。ですね」
まさかあの時の会話を覚えいたなんて、思いもしていなかった。予想できていた方が逆にすごいことなのだけれど、こんなに魔物がいて、魔物を助けた少女の話に耳を傾けてくれるなんて───。
「変わった人だね、ハク」
シュル。




