王都、そして再会
《我も手伝おうか?》
「ううん、大丈夫!じゃあ、フェルン留守番お願いね」
《心得た》
森の出会いから一週間後。やっと補充分も含む量の薬を作り終えたので、今日はグレッタさんのお店に卸しに行く日。
あの後、フェンリルにはフェルンと、アイスサーペントにはハクと名前をつけた。ハクに関してはテイムしたわけではないけど、お風呂やトイレ以外の時は基本私の体のどこかに絡みついている。私としても熱中症対策にはなるし、凄くありがたい。そして何よりも、可愛いのだ。図鑑にはオスと書いてあったけれど、落ち着いているし、基本寝ている。ハクは思ったよりもマイペースらしい。
フェルンが言っていた"力"というのは、私のエキストラスキル:魔物共鳴のことだった。なんでも、魔物たちの敵意を鎮め、心を共鳴させる歌なんだとか。魔物共鳴が漏れているという感覚がないから、抑えるというすべを知らない。この七年間ずっと独りだったから、鼻歌を歌いながら薬草採取をしていたことはあるけど……。
(にしても、フェルンはほんと物知りだよねぇ)
あの山小屋から王都までは徒歩半日はかかるから、朝早くに出て昼頃に着くように出ないと、少しでも遅くなれば日を跨いでの帰りになってしまう。
木箱をお手製荷車に乗せて、ハクはフェルンの話だと討伐対象らしく、人の姿が見えたら教えるから服の中へ隠れるように伝えてある。それまでは今まで通りで、首に巻きついている。
「そろそろ鞄買わないとかなぁ」
服の中に毎度入られるのもくすぐったいというか、門で引っかかったりすると厄介だ。まあ、鞄を買ったところでハクが大人しく入ってくれるかといえば、正直分からない。でも鞄があれば、ポケットに巾着に入れたお金を入れずに済むし、何かと薬も入れて起きやすい。
「値段はするだろうけど、収納が無限な鞄がいいなぁ。ねぇ?ハク」
シュル。
フェルンの話だと、念話は魔力が高い魔物しか使えないらしい。ハクも高い魔力を持っているが、魔力が高くても使えないものは使えないらしい。フェルンの他だと、竜や霊鳥辺りが使えると聞いたけど、カルディアにいないなら出会うことはそうそうないだろう。
でも、こちらが話すことは伝わるらしく、こうして舌を出したり頭を下げたりして反応をくれる。
木箱は全部で七箱。六箱は仕切り付きの箱でポーションが六×六×二段、一箱は試験販売用の塗り薬で五×五×五段。長い下り坂を進んでいくと、途中から国の門までは平坦な道が続く。念の為に護衛の魔物を付けておくのがいいんだろうけど、魔物がいては人々が驚いてしまうし、私も捕まりかねない。
遠くに人の姿が見えてからは、ハクは服の中に隠れて大人しく眠っている。
(ほんと、寝るの好きだよねぇ)
「身分証を」
門番たちにギルドカードを見せる。
六年前、グレッタさんの店に初めて行った時に、売るなら商業ギルドに登録した方がいいよと言われ、その帰りに商業ギルドに登録したのだ。そうすると、通過料を払わなくていいと言われたから。
登録用紙にある職業欄で職業を書いた時は、周りから白い目を向けられたこともあったっけ。
「チッ……。魔物テイマーごときが」
「おい。……失礼しました。お通り下さい」
(まあ、この反応が普通だよねぇ)
グレッタさんのお店は、門からもう少し歩いた先にある。
この国の通りは広くてすごく助かっている。荷車にしては細く作ったつもりだけど、荷物が乗っている分重たいし、歩くスピードも早くないから狭い通りだとかなり迷惑をかけていただろう。今も邪魔になっているとは思うけど。
「グレッタさん、こんにちはー」
「リーファちゃん、いらっしゃい」
「早速荷物入れてもいいですか?」
「ぜひお願いするわ。あ、看板ひっくり返してもらってもいいかい?」
まだお客さんいるのにいいのかなとお問いながらも、ドアに掛かっているOPENと書かれた板をCLOSEにひっくり返す。これもグレッタさんが提案してくれたことの一つだ。魔物テイマーが薬を作っていると知られたら、せっかく作ってくれた薬が売れなくなるし、私も嫌な思いをするからと、卸しに来た時はCLOSEにしてもらっている。
「リーファちゃんの薬、冒険者さんの間で大人気でねぇ。おかげさまで店も潤ってるよ!あっはっはっ!」
「良かったです。今日は、試験販売して欲しいものがありまして」
私は、印をつけている一箱をグレッタさんに渡した。
「これは?」
「塗り薬です。ポーションは付いたばかりの傷に有効ですが、時間が経ってしまった傷などはポーションでは完全には治りきらずに痕が残る可能性があるので、そういう時にこのクリーム状の薬を使って欲しいのです。これを傷に塗って、包帯で巻いて触らないようにすれば、数日で治ると思います」
「おや、これは嬉しいねぇ。早速売ってみるよ!」
本当はもっと薬の研究をしたい。前世には火傷に効く塗り薬や手荒れに効く塗り薬もあるから、そういった類の薬は、世の中のお母様方にとても人気なのである。
って、魔物テイマーなのに薬の研究にハマってる変な奴に思われないだろうか。まあ、専門は怪我や病気をを見ることだし、薬作りがこんなにも楽しいなんてことを知ったのは、カルディアに住むようになってからだから、これからもっと増やしていこう。
(魔物の力も借りられたらいいんだけどな)
すべて運び終わった私は、グレッタさんの計算が終わるまで店内で待たせてもらうことにした。辺りを見ると、いろんな薬が売っている。色も何色かあるけど、全てポーションだ。色によって効能が違うのだろうか。私のは透明だし、ケースもとりあえず自分で作るようにはしている。今は数も少ないし魔力も持つから。というのは建前で、本当は魔物テイマーだからと追い返されるのが、少し怖いのかもしれない。
「あ、この棚だけ在庫切れ」
「そこは、先程グレッタ殿が言っていた人気のある薬の棚だ」
「えっ?」
ぼそっと呟いただけなのに後ろから声が聞こえたから振り返ると、一週間前に森に来て私たちを見逃してくれた男性が立っていた。確か、レグルスとか呼ばれていた気がする。
まさか、再会するとは思ってもみなかった。




