契約と森の魔物たち
現状を理解するまでに、そう時間はかからなかった。異世界だし、フェンリルだからと納得できてしまう自分をどうかと思いもするけど、それ以前に、この森にいる人間は私以外にいないし、口は動いていないけれどフェンリルの目が、会話する目そのものだから。
「人間よ、手を出すのだ」
「手?」
両手で抱えていた救急箱を左脇で抱えて右手を出すと、「手の甲だ」と言われたから、素直に従う。すると、フェンリルは何やら詠唱を始めた。
「我、汝を主と認め、いついかなる時も隣で守り抜くことをここに誓う」
フェンリルが詠唱を終えると共に自身の鼻を私の手の甲に近づけると、浮かび上がった紋章の白い光が私たちを包み込む。動物だと思っていても、前世とは異なることは当たり前。ここにいる生き物たちは、魔力があり攻撃もできる。けれど、それを利用して使役することは、私にはできない。
「これで契約完了だ。よろしく頼む、我が主」
(そういえば……)
「ねぇ、フェンリル。さっきから気になってたんだけど、フェンリルの声は頭に響くけど、私は普通に話してる。これって……」
正直なところ、私は自分の魔法やスキル以外のことはほとんど知らない。念話を使えることには驚いたけど、使えると言ってもフェンリルの声が聞こえるだけで、私は普通に答えてしまっているのだ。
「うむ。見たところ主は、念話に慣れていないようだな。声に出さず、頭の中で返事をしてみろ」
《こ、こうですか?》
《そうだ。これが念話だ。だが、普段は声に出して話してくれて構わぬ。念話というのは、戦いの時とか敵地に侵入する時とかに使われるものだからな》
「はーい」
《では、主との契約も終えたことで》
「ウオォォォォォォォン!!!」
何をするのかということを考える暇もなく、フェンリルは大きな声で森全体に響くように雄叫びを上げた。初めは嬉しくて叫んだのかと思ったのだけれど、どうも違ったらしい。フェンリルが叫んだ数秒、数分後に草木がガサガサっと揺れると、魔物たちが四方八方から顔を覗かせている。
フェンリルは私と契約したことで、私が魔物の敵じゃないと認めて、仲間?を呼んだみたいだ。
【アクアスライム:水属性 性別なし】
【アクアスライム:水属性 性別なし】
【アクアスライム:水属性 性別なし】
【アクアスライム:水属性 性別なし】
【ロックスライム:土属性 性別なし】
【フレイムスライム:火属性 性別なし】
【フレイムスライム:火属性 性別なし】
【コーンラビット:土属性 性別︎︎ ♂】
【コーンラビット:土属性 性別︎︎ ♀】
【コーンラビット:土属性 性別︎︎ ♀】
【ホーンディア:土属性 性別♂】
【ホーンディア:土属性 性別♂】
【フェアリーバード:風属性 性別♂】
【フェアリーバード:風属性 性別︎︎ ♀】
(待って待って。魔物いきなり大量発生しすぎじゃない!?)
図鑑のページが次々と捲られていき、急いで目を通す。みんな、フェンリルという存在が怖くて今まで隠れていたのだと思うと、なんだか可哀想になってくる。そのフェンリルが認めた人間ということで興味を持って顔を出してくれた?のは嬉しいけれど、さすがに一気に顔を出しすぎだ。
でも、敵意がないのが何となく分かるから、私はその場に立ち尽くしているだけで、何もしない。
すると、後ろの方から小さな音が聞こえてそちらに足を向ける。音がする場所の前でしゃがむと、下の方から白蛇が顔を出した。
「かっ……!」
(かわいいっ……!)
【アイスサーペント:氷属性 性別♂】
[寒冷地や魔力の濃い地域に生息する希少な蛇型魔物。高い魔力を持つため討伐対象に指定されているが、本来は非常に臆病で、人間の前に姿を現すことはほとんどない]
手を差し出すと、口先で指に数回触れたあと、するするっと腕に巻き付くように登ってきて、私の首を絞めないようにゆるーく巻きついてそのまま眠ってしまった。
アイスサーペントの見た目は雪みたいに白く、目が青色で舌が水色というのが、冬を象徴しているように思える。触ってみるとすごくひんやりとしていて、初夏の香りがするこの時期に出会えたのは偶然というかなんというか。
でも、図鑑には本来臆病な性格で人間の前に姿は現すことがほとんどないって書いてあるけれど、このアイスサーペントは、普通に私の首元で休んでいる。蛇は前世でも割と好きな方だったし、怖いとかではないのだけれど、不思議な気持ちだ。
《ねぇ、フェンリル。アイスサーペントって、人間に懐くの?》
《いや、それはまずありえない。アイスサーペントは本来臆病な性格だが、住居を荒らされたとあれば別だ。辺り一帯を氷漬けにしてしまうほどの力がある。その住居を荒らすのがほとんど人間なために、人間を警戒して姿を現さないのがほとんどなのだが……。どうやら、主から漏れている力が原因だろうな》
《力?》
フェンリルも詳しくは分からないらしい。私自身力が漏れている感覚は感じられず、スキルを確認しても、特にそう言った類は書かれていない。
はずだった。




