カルディアの少女 ★
「やーっと着いたぁぁ!」
イオナが両腕を上にあげながら、嬉しそうに叫ぶ。
ギルドの依頼で長期遠征に出ていた俺たち『白銀の翼』は、依頼を達成して無事王都に帰還した。依頼内容は、王都から馬車で片道2ヶ月かかるところにある集落の防衛任務だった。その集落は王国の保護下にある小さな村で、年に二回冒険者が派遣されることになっているらしい。今年はそれの一回目だ。
ギルドでも数少ないSランク冒険者で結成されたこのパーティーのメンバーは、剣士の俺、武闘派のイオナ、魔法士のエルハンだ。イオナとは冒険者登録時に案内される冒険者研修で一緒になり、エルハンは昔から知っている幼なじみだ。天才級に強い二人とともに行動したことによって、ランクはすごい勢いで上昇していった。そして二年前、全員がSランクに昇格したのだ。普通なら有り得ないと、ギルマスが驚嘆していた。
「ねぇ、せっかく帰ってきたんだし、ラ・クーラに寄って行こうよ!」
「その前に、ギルドへの帰還報告が先ですよ。イオナ」
「ちぇっ。はぁい」
イオナの言うラ・クーラとは、俺たちが駆け出し冒険者だった頃からお世話になっている飲食店だ。三人でご飯と言えば、必ずそこに訪れている。一時期『王宮の方がご馳走じゃない?』とイオナに問われたことがあったが、俺は冒険者になってからほとんど王宮には出入りしていない。家を買って三人で暮らしているのだ。その方が何かと都合がいいから。
けれど、王族としての仕事もちゃんと行っている。
一番上の兄上が次期国王候補と言われていて、その腕は言わずもがな。普段はチャラくて軽いところがあるけれど、仕事はしっかりと完璧にこなし、民と距離が近い分信頼も厚い。けれど、王宮にいるとどうしても目の届かないところがある。だからこうして冒険者としていろんな場所を巡っては、民の悩みや問題を報告したりしているのだ。
もちろん、俺で解決できることがあれば解決したりすることもある。元々冒険者というのはエルハンと約束していたことでもあり、その結果兄上の役に立っているという一石二鳥の職業だ。だから決して、家族仲が悪いとかで王宮に帰らないというわけではない。俺は、俺のできることをするというだけ。
「たっだいまーー!」
ギルドの扉を勢いよく開けるイオナ。この光景を見るのも久しぶりだ。
「白銀の翼だ!」
「おかえりー!」
温かい声で迎えてくれる冒険者達に軽く手を挙げていると、受付嬢のセラさんが歩いてきた。
「おかえりなさい、白銀の翼の皆さん」
「ただいま!セラ!」
この人も俺たちが駆け出し冒険者の頃からお世話になっている人で、イオナはすっかりセラさんに懐いている。まるで、本当の姉妹の様に見える時がある。
「帰還早々申し訳ないのですが、ギルドマスターがお呼びです」
「ギルマスが?」
反応するエルハンを見て、再びセラさんに視線を戻す。
「皆さんがギルドに来たら、部屋へ呼ぶようにと言付かっております。……イオナ、もう少し頑張って」
「えぇー……お腹空いたぁー!」
エルハンと顔を見合せて、セラさんに抱きついてるイオナを無理やり剥がしてギルマスの部屋へと向かう。
階段を上って廊下と少し歩くとギルマスの部屋の扉があり、ノックすると中から声が「どうぞ」という声が聞こえてくる。
「長期遠征ご苦労さん。帰還早々に悪いんだが話があってな。とりあえずかけてくれ」
促されるまま、椅子に腰を落とす。
「早速本題だ。魔物の森・カルディアに調査に向かって欲しい」
「調査?」
「ああ。お前らが遠征中にカルディアに向かった冒険者の話によると、フェンリルらしき声と人影を見たと。お前らが遠征中だったんで、この話は公表はしていない」
(たしかに、フェンリルが現れたと知られ討伐依頼が出たら、金目当てで普段依頼を受けない輩とかも出てくるだろうからな)
二つ返事で引き受けた俺たちは、早速カルディアへ向かった。出発前に偶然にもロビーでカルディアに向かったという冒険者達がいたので話を聞くと、確かにフェンリルらしき声を聞いたらしい。人影も見えたけど、ギルドへの報告を優先したがために、人影は気のせいかもしれないと言っていた。
カルディアは冒険者しか訪れない場所だが、その冒険者も訪れる回数は少ない。そのような場所に人がいるとは信じたくないが……。
カルディアは王国の北側に位置する森で、面積もそこそこある。距離的に馬に乗れば片道二時間、徒歩で半日といったところだ。その二時間を馬で走り続け、カルディアについてすぐ、俺、イオナとエルハンの二手に分かれて調査を始めた。
ギルマスの部屋を出る際に、カルディアが静かすぎるとは聞いていたが、ここまで静かだと少し気味が悪い。フェンリルらしき声が聞こえたというのは、あながち嘘では無いのかもしれない。
警戒しながら森の奥へ入ると、俺は息を飲まざるを得なかった。なぜなら、目の前に白い毛並みを輝かせたフェンリルが座っているからだ。その近くにはフォレストウルフもいる。だが、フォレストウルフから感じる魔力の力がどうも弱い気がする。
(というか、フェンリルがフォレストウルフを守っている……?)
調査と頼まれているけれど、フェンリルがいるせいで魔物たちが大人しいのだとすれば、フェンリルを倒せば魔物たちは暴れ出すかもしれない。だが、会ったからには弱っていようが討伐しないわけにはいかない。
「ま、待ってください!!」
剣に手をかけてゆっくりと歩み寄っていると、後ろから女の子の声が聞こえてきた。両手で箱を抱えている少女は、フェンリルを庇うように俺の前に立ちはだかった。




