カルディアでの暮らし
村を追放されてから七年が経とうとしていた。
この世界では十五歳で成人するらしいけど、私は追放された身だから、もちろんこちらの成人式というものには参加していない。まぁ、中身はとっくに成人を迎えた三十路の女だけど。
職業鑑定を行った時に、フル無視していたけど周りの視線がある中で、私はスキルなどに目を通していた。皆は無視していたけれど、何故か私は魔力が結構あるらしい。四属性の魔法と生活魔法も使えると書いてあった。そして、ユニークスキルというものがあり、オール図鑑と書いてあって、追放された翌日から使い始めているけど、これが何かと便利なのだ。
追放されたあの日、村人がここまで送ってくれた。去り際に「ごめん」という声が聞こえたが、あえて聞こえないフリをした。
この約七年間、何もしていなかったわけではない。魔物にはまだ出会っていないけれど、オール図鑑のおかげで薬草採取が上手くいって、薬を作ったりしていた。領主が嘘をついていることは分かっていたので、王都に出向いて、薬を卸させてくれる場所を探し回った。その結果、王都の中心部にある薬局が契約してくれることなった。気前のいい女性店主のおかげで、しばらく稼いでいけそうだ。それ以外のところは全て、魔物テイマーというだけで断られてしまった。
(本当に嫌われ職なんだなぁ)
追放されたあの日に思ったことがひとつある。あの領主、私と一度会っていたのに、『魔物テイマーのリーファ・カシアラだな?』と確認するように話しかけたのだ。普段から領主の仕事をきちんとしていれば、少しは記憶力も身についていたかもしれないのにと。
今となってはどうでもいいことだし、私が領主を心配する義理がない。そんなことより私は、薬を作るのに必要な薬草採取を始めないと、魔物に出会わない限り暇を持て余して仕方がない。
魔物の森って聞いていたから、もっとこう連日現れては戦うことになることを想定していたのだけれど、びっくりするぐらいこの森は静かだ。
「いい加減出てきてもいいんですよー」
小さく呟いた声は、木々の葉を撫でる音にかき消された。すごく既視感のある光景に、一人フッと口元を緩める。
前回採取した場所とは違う場所に入り、少し奥へ進むと、これまた見たことの無い薬草がたくさん生えていた。でも、オール図鑑様様で、薬草の名前や効能が事細かに書いてある。前世で言うAI機能そのものだ。
「うん?」
薬草採取していると、森のさらに奥から小さな呻き声のようなものが聞こえて、足を向かわせる。するとそこには、綺麗な白が綺麗に輝いている大きな魔物がボロボロで中くらいの魔物を守るように座っていた。
【フェンリル:♂ 森の神魔獣】
【フォレストウルフ:♂ 森の狼】
見間違いかと思い、数回瞬きをした後、目を擦って再び図鑑を確認するも、確かにそこにはフェンリルと書かれていた。フェンリルといえば、魔物の中でも頂点中の頂点。
(そんな魔物がどうして此処に……)
よくよく見ると、フォレストウルフの左足に切られたような傷跡がある。おそらく、切られた後も走ったけど、動けなくなったというところだろう。今すぐ手当てをしてあげたいけど、フェンリルのあの姿勢からして、周囲を警戒しているはず。というか、フェンリルのような上位魔物がフォレストウルフのような魔物を守るのだろうか?いや、守っているから、あの姿勢なんだろうけど……。
(警戒されてもいいから、とりあえず傷を診てあげないと)
「大丈夫だよ。大丈夫、大丈夫だからね」
薬草を入れているカゴを置いて、ゆっくり一歩ずつフォレストウルフに近づく。フェンリルにだいぶ警戒されているけど、フォレストウルフの傷が人につけられたものなら、警戒する理由は十分にある。
前まで行くとゆっくりとしゃがみ、安全だということを示す。意思が伝わったのか、フェンリルは何もしてこない。だから、フォレストウルフの傷を見ることができた。
(傷は浅いけど、生き物にとってはかなりの痛手ね……。血は止まってるみたいだけれど、)
「手当て箱持ってくるから、少し待っててね」
伝わったのかは分からないけど、そう声をかけた私は山小屋に戻って、必要な薬と手作り手袋が入った箱を抱えて急いで二匹?二頭?がいた場所に戻る。
すると、白銀の長髪をひとつに束ねた男性が剣に手をかけ歩み寄っていた。
「ま、待ってください!!」
この身体に転生して始めて出した大きな声に、木々に止まっていた鳥たちが一斉に羽ばたく。鳥たちだけでなく、白銀の男性も動きを止め、後ろを振り返った。
私は箱を抱える手に力を込めて、フェンリルたちと男性の間に割って入る。
これが、私の人生に影響を与えることになる出会いとは知らずに────。




