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転生、そして追放


「リーファもいよいよ職業鑑定だなぁ」



 馬車の中で揺られながら窓の外を見ていると、お父様が嬉しそうに言った。


 十歳になると、王都にある教会へ行って職業鑑定を行うというのがこの世の決まりらしい。いい職業に恵まれることもあれば、あまり良くない職業なることもまちまちにあるらしい。


 私、浅霧千夏改めリーファ・カシアラは、前世で事故死したあと、転生してこの家族の第一子として生まれた。もちろん、前世の記憶持ちというおまけ付き。ずっと子に恵まれなかった二人は、三十後半になって私を授かって産んだことで、私は奇跡の子どもとして村中に名が知れ渡った。


 辺境伯領にあるごく普通の家庭に生まれた私は、両親にこれでもかってぐらい愛されて育ってきた。だからなのか、何が出るかも分からないのに、すごく期待されているように見える。


 私は、前世と変わらず生き物と戯れられる職業だったらなんでもいい。というか職業が分かれば、ある意味転職になるのではないだろうか。



「さあ、着いたぞ」



 案内されて中に入ると、私と同じ年頃の子とその親たちでごった返していた。同じ村の子から身なりが綺麗な子達がいる。こんなにいれば、しばらく出番は回ってこなさそうだけど、そういう時に限って、案外早く回ってきたりするもの。


 順番は貴族や平民関係なく、生まれた月日の順番らしい。剣聖、剣姫、剣士、魔法士、治癒士などといい職業ばかりが続く中、私の名前が呼ばれる。



「次、リーファ・カシアラ」


「リーファ、絶対いいの出るからな!俺たちの子どもだから!」


(どんな理由よ……)



 幼い頃から聞かされてきた両親の冒険譚によると、二人は冒険者ギルドに所属していて、かなり活躍したらしい。当たり前だけど、ずっと家にいたからこの世界についてまだ何も知らない。冒険してみたいけど、中身は三十路の独身女で、仕事を始めてからは基本座っていることが多かった。せめて運動しようと思って、通勤手段は徒歩にしていたけど、走れるかと問われれば無理に等しいかもしれない。



(前世の仕事が役に立つ職業がいいかな)


「リーファ・カシアラ、職業……ま、魔物テイマー………」



 魔物テイマー?って確か、幼い頃にお母様が読んでくれた絵本に出てくる、魔物をテイムして旅をする人のことだったはず。そして、人族の敵とも言われる魔物をテイムするということで、人族の中で最も忌み嫌われていて、嫌われ職と呼ばれている。


 神官が魔物テイマーと発したことで、周りの空気が一気に重くなり、鋭い視線が身体全体に突き刺さるのを感じる。


 ゆっくりと後ろを見ると、両親は信じられないと声に出したいかのように顔が真っ青になっていっている。だが、無理もない。奇跡の子と呼ばれ、両親は冒険者として活躍していた。その二人の子どもの職業がよりにもよって、嫌われ職だなんて。



(二人の顔に泥を塗るようなことしちゃったな……)



 私にとっては生き物と触れ合えるから嬉しい職業に越したことないけれど、周りはよく思わないのが世界というものだ。魔物といっても、人間同様同じ命で生きている生き物なのに、なぜそんなにも触れることを嫌っているのだろうか。



(あっ、もしかしなくても、ビビってるだけだったりして。……まあ、かくいう私もまだ魔物に会ったことないけれど)



 その日の夜、両親とは帰りの道中からずっと会話を交わすことなく、私は月明かりが照らす部屋の天井をぼーっと眺めていた。特に何かを考える訳でもなく、ただぼーっと。だからなのか、部屋扉が勢いよく開くまで、客人かいることに気づかなかった。



「お待ちください……!領主様!」


「魔物テイマーのリーファ・カシアラだな」


「……はい。こんな恰好でお恥ずかしい限りですが、ご無沙汰しております、領主様」



 前世での目上に対する礼儀というものが、今世で役に立っているのはありがたい。片手に缶ビール持って帰宅する前世の私とは大違いで、リーファはとても穏やかだ。猫を被っていただけなのに、勝手に高嶺の花と呼ばれていた私より、よっぽど今の方が高嶺の花ととれる。


 夜更けに村人を連れて訪問してくる礼儀知らずの領主にも、きちんと対応する。



(私の転生体、すごっ!)


「時に領主様、どのようなご用件でこのような家に?」


「リーファ・カシアラ、魔物テイマーのお前をこの村から追放する。行き先は魔物の森・カルディア。お前にピッタリの場所だろう?」


「領主様、!それはさすがに……!」


「そうですよ、!リーファはまだ子どもですよ!?魔物テイマーだからといって、カルディアに行かせるのは、!」


「なーお!今後一切村への立ち入りと国の門を通ることを禁ずる。国の門に関しては王家の命令だ」


(よくもまぁ、見え透いた嘘を)



 本当なら一言や二言……いや、三言言い返してやりたいところだけど、両親に迷惑はかけられない。私が魔物テイマーと判明したことによって、これ以上ここにいたら二人が周りから白い目で見られてしまう。それだけは避けたい。


 この下劣な領主の評判はあまり良くない。普段領主の仕事はしないくせに、こういう時に限って領主の権限を振りかざしてくる。こういう時という場面に私と両親が直面するのは初めてだけれど、両親や村の人のから時々話を聞いていた。誰々が追放されたとか、領主がまたやらかしたとかなんとか。いちばん多いのは、村の人たちが育てている野菜や稼いだお金を領主権限として勝手に持っていくことだ。



(つまり、"クズ"ということ!)


「分かりました」



 優しい笑みを浮かべて、領主を見る。



「リ、リーファ……?」


「魔物の森・カルディア、ですね。魔物テイマーの私にとって、すごくありがたい場所でございます。優しいお心遣い、深く感謝致します」


「そうだろう?そうだろう?」


(あーー、今すぐその髭をもぎ取りたいっ)



 領主の後ろにいる村人たちは、物心がつく前から良くしてくれていた人達だ。だけど、そんな申し訳なさそうで悔しそうな顔をして視線を逸らすぐらいなら、最初から止める側に回って欲しかった……というのはわがままだろうか。おおよそ、領主に上手く言いくるめられたのだろう。



「リーファ……」


「お父様、お母様。ここまで育ててくれてありがとう。体に気を付けてね。さようなら」


「リーファ……!」



 必要な分の衣類を鞄に詰めた私は、両親に挨拶をして背を向けた。


 行ってきますの方が良かったのかもしれないけど、この村の出入りを禁止されては帰ってくることもできない。夜中に不法侵入ぐらいなら出来るかもしれないけど、犯罪だからやめておこう。


 つい領主に心にも思っていないことを言ってしまったけど、バカはそんなことさえ気づかないからすぐに信じてしまう。



 ────魔物の森・カルディア。



 前世を齢二十九年で生涯に幕を降ろした私は、今世で齢十歳にして村を追放された。


 この出来事がきっかけでいろんな人と出会うことになることを、この時の私はまだ知らない。



(さあ、冒険の始まりだ!)


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