プロローグ
「お疲れ様でしたー」
「「お疲れ様でしたー」」
それぞれの終業時間が近づいてきて、職員の挨拶に残っている職員がバラバラに返事をする。私も退勤時間になり、支度して職場を出る。
幼い頃から動物が好きだった私は、高校卒業後に獣医師免許を取るために進学し、無事、今の職場に就職が決まった。
仕事は忙しいけど、毎日が楽しくてやりがいのある仕事に就けたと思っている。まぁ、仕事が充実しすぎていて、恋愛面は面白い話がないのだけど。
二十九歳にもなって、未だ彼氏いない歴=年齢ということに呆れていた日もあるし、両親にもそろそろ結婚とか言われてきたけど、今ではもう開き直っている。いずれは結婚したいとは思ってるし孫の一人や二人、抱っこさせてあげたい気持ちもちゃんとある。ただ、出会いがないだけだ。
「私を見つけてくれる王子様はいないもんかねぇ」
コンビニで買った缶ビールを片手に小さく呟いた声は、街の喧騒に溶け込んでいく。
月は見えるが、どこもかしこも灯りが付いていて、夜だと言うのに星が見えないというのが都会の夜。場所的には見えるところもあるだろうけど、私のいるところから星は見えない。
「いつか、星がよく見える場所で缶ビール飲みたいなぁ」
「………危ない!」
夜空を見上げていると、後ろから大きな声が聞こえてきた。振り返ると、犬の散歩をしている子どもが横断歩道を渡っていて、そこに一台の大型トラックが向かってくる。その高さなら気づくだろうに、運転手はちょうど前を見ていない。
(都会は人も飼い犬も多いんだから、視線外さないでよッ……!)
周りの人達はトラックが来てることに気づいているから、助けたいけど出られないという感じだ。最近運動不足だったから解消にはちょうどいいけど、間に合うかわからない。子どもはトラックを見たまま動かない。なんという、漫画の典型的なワンシーンだろう。
(お願い、間に合って……!)
子どもの前に回り込んで、歩道の方へ、申し訳ないけど少し強めに突き飛ばす。するとトラックもようやく気づいたのか、クラクションと共に急ブレーキを踏んでくれた。が、間に合わず、ドンッという鈍い音が響く。
「きゃーーーーーっ!」
「誰か!救急車!早く!!」
うっすら目を開けると、強引にハンドルを切ったであろうトラックが電柱にぶつかっていて、私のすぐ側では真っ白なラインが血に染まっていっていた。
さっき願望を呟いたばかりだというのに、この有様。これだけ血が流れていたら助からないだろう。
(せめて、両親に孫の顔を見せてあげたかったな、)
こうして、私浅霧千夏は、齢二十九にして生涯を終えたのだった───




