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13 おかしな二人

 

 サンジが智佳(ちか)の電話を受けたのは、月曜の午後だった。

 心配もしたし、さすがに腹も立っていた。

 しかし、二日も待たされている間に頭が冷えた。

(こいつ、そこまで計算してんじゃねえだろうな……)


「どうした、行くあてはあったのか」

「うん、女の子の友だちんとこ、いつまでも迷惑かけられないし」

「挨拶ぐらいしていけ、誰かに拉致(らち)られたと思うじゃねえか」

「へへ、サンジさんが思うほどやばい橋は渡ってないよ、大丈夫」

「だったらいいけどな」

「また美味しいご飯、食べさせてね」

「いや」

 サンジは、ひとつ深呼吸をしてから答えた。

「あんなの、卵かけご飯を温めたようなもんだ、自分で作れ」



 サンジはイチさんの店のカウンターに向かっている。

 もうなん十年もこうしているような気がする。

「あんた、うちに女いれてたでしょう」

「ん? ああ、親戚の女の子を泊めてたよ、もう帰った」

(なんで、イチさんがそんなこと知ってるんだ)

 サンジが考えたのを見透かしたように、イチさんが続ける。

「どうだかね、ひとの目ってあるし、気をつけたほうがいいよ」

「べつに、こんなおっさん、どうなろうと関係ないだろ」

「そりゃ、そうだけどね……あんたにはあの人くらいが合うのに」


 イチさんがあの人と言ったのは、いつも水だけで食事をしている女性だ。

 ついさっき知ったのだが、加奈子さんという。

 今日は若い女の子を連れていて、ふつうにサワーの(たぐい)を飲んでいる。

「いいお店でしょう、いつもお世話になってるのよ」

「こちらこそ、加奈子さんにはご贔屓(ひいき)いただいて」

 先刻、彼女たちとイチさんとの会話で名前がわかった。

(合うったって、先方の都合もあるだろうよ)


 加奈子さんが連れてきたのは、彼女の娘だ。

 ひとの話に聞き耳を立てる趣味はないが、狭い店だから自然と聞こえてくる。

 なにか事情があって別々に住んでいて、加奈子さんが娘に仕送りをしている。

 お母さん、働き過ぎてるんじゃないの、そう娘は心配をしていた。

「働いてばかりでもないのよ、ここでみんなと楽しくお酒を飲んだりもしているし」

 そうやって加奈子さんは娘を安心させようとしている。

 実際にはいつも時間に追われていて、ほとんど無言で食事をしていくだけなのだが、それは娘さんが知らなくてもいいことだ。

 もちろん、イチさんは適当に話を合わせている。


 先に帰る娘を駅まで送りにいってから、加奈子さんは戻ってきた。

「今日はどうもありがとうございました、これで失礼します」

「もうすこしいればいいのに」

「そうもいかないんですよ、お店にいかなくちゃ」

「休みにしたんじゃなかったんだ? がんばるねえ」

 彼女と目が合ったので、サンジも小さく笑って頭を下げた。

 それにイチさんの言葉がかぶさった。

「あとねえ、せっかくご贔屓いただいたんですけど、ここ今週で閉めるんです」

「……そうなんですか? 残念だわ、ほんとに」

(今週? なんなんだ、それ、おれだって聞かされてないぞ)



 彼女が帰って、またイチさんとふたりきりになった。

 どうして教えないんだ、十年以上のつき合いで、加奈子さんづたいに聞くなんてなさけないぞ……そう言おうかと思った。

 それは諦めた。仰々しくなるのをきらったからで、イチさんというのはそういう人間なのだ。


「これから、どうすんの」

「さあ、どうしようかね? おカネに困って辞めるわけじゃないから、心配しなくていいよ」

「誰も、心配なんてしてないよ」

「あんたは、そう言うだろうと思った」


 こいつも智佳と同じだなあとサンジは思った。

 ひとから見ればただ薄情なのとかわらないが、頑固で、素っ気なくて、そのくせ照れ屋で……。

(ま、おれもそうなんだろうけど)

 自分で認めたくはないが、似た者同士ということはあるものだ。


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