第七話『解放』
「ここから北東に約十キロ。あの一川ルイの豪邸があるはずだ」
フランスの青空の下、ルーカスが地図を睨みながら行く先を指差した。
「一応、出発前にロイさんから軍資金として十億円もらったし……まずは真っ当な取引で譲ってもらえるといいんだけど」
白亜がカバンを叩きながら呟くと、ルーカスはふっと口元を歪め、獲物を狙う獣のような恐ろしい顔を見せた。
「いや、あいつの評判を考えりゃ白魔結晶を素直に渡すとは思えねえな。今のご時世、力のある奴らは結晶を隠し持ちたがる。あわよくば俺たちを殺して、その十億ごと奪う気で来るんじゃねえか?」
「……なるほど。だが、なるべく乱暴なことは避けたいな」
「へっ、戦闘上等だ。行くぞお前ら!」
「やれやれ……」
好戦的なルーカスの背中を追いながら、白亜は小さくため息をつく。
その後ろを歩くソフィアは、二人の横顔を見つめながら、密かに胸の中で首を傾げていた。
(白亜は、白魔結晶と黒魔結晶を全部集めて……一体、何がしたいんだろうな?)
ちなみに10億貰ったとき白亜は死ぬほど驚いていました
一川ルイ、人呼んで「合法的なクズ」。
彼は己の欲望のためなら手段を選ばない男だった。ずる賢く立ち回り、他者を蹴落として巨万の富を築いた資産家。女遊びは酷く、酒癖も最悪、その上裏では数々の犯罪に手を染めて隠蔽している。半分くらいは周囲にバレているのだが、彼の持つ圧倒的な権力と財力の前に、誰もが膝をつき、嫌々従うしかなかった。
さらにルイが調子に乗っている理由――それは彼が白魔結晶の所有者であり、その結晶を介して、常人とは桁外れの強大な魔術を行使できるからだった。
そんな彼の元に、思いもしない訪問者が現れる。
「うわぁ……でっか」
ルイの領地に足を踏み入れた瞬間、白亜は思わず足を止めて見上げた。
三人の前にそびえ立っていたのは、東京ドームが何個入るんだと呆れるほどに巨大な、白亜の城だった。
(フランスに入った時からずっと見えてたけど、デカすぎでしょ……!)
ソフィアが内心でツッコミを入れる中、ルーカスは城の巨大な正面扉の脇にある――ごくごく平凡でコンパクトなプラスチック製のボタンをぽちりと押した。
ピンポーーーン。
静かな空間に、あまりにも間抜けた、どこにでもある庶民的なチャイムの音が響き渡る。
(なんでチャイムだけそんな普通なの!? おかしいでしょ! 普通はもっと金色の豪華な彫刻とか施されてるじゃん! 音もしっかり『ピンポーン』だし、何これ、ここだけ庶民仕様なの!?)
ソフィアが心の中で猛烈なツッコミを炸裂させていると、重厚な扉が開き、仕立ての良い正装を完璧に着こなした、スラリとした体型の執事が姿を現した。
ソフィアはほんの少しだけ、デジャヴを覚える。
「どのようなご用件でしょうか」
「炎の騎士、ロイ・メルツの甥にあたるルーカス・メルツだ。一川ルイに用があって来た」
執事はその名を聞くと、表情を変えずに一礼した。
「ロイ様より、事前にご連絡を頂いております。お連れ様も含め、どうぞこちらへ」
案内されたのは、息を呑むほどに広く、悪趣味な金銀の装飾に彩られた謁見の間だった。
部屋の奥に鎮座する豪華な椅子に、一人の男がふんぞり返っている。彼こそが一川ルイだった。
「おい貴様ら。ロイの紹介だからこうして直々に通してやってるだけで、普通なら僕に謁見することすら叶わないんだからね? まずは僕を熱烈に崇めるといい。……で、用件は何だい?」
(うわぁ……なんだろう、今すぐもの凄く帰りたい……)
ソフィアが本気で嫌悪感を抱く中、白亜が一歩前へ出た。
「貴殿が持っておられる白魔結晶を、拝見させていただきたい」
「だーめだなぁ」ルイはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる。「タダで見せるわけないじゃないか。どうしてもと言うなら、僕の奴隷にでもなるかい? それが条件でもいいぜ?」
(絶対に嫌なんだけど!!)
ソフィアが心の中で叫ぶ。白亜は冷徹な瞳のまま、淡々と告げた。
「――三億。三億円出します。これで見せていただけますか」
「ほう、ロイの入れ知恵か。……そうだな、三億。僕にしてみればはした金だけど、仕方ない、特別だ。見るだけならいいぜ。今持ってきてやるから、その間に僕を崇める練習でもしておくことだね」
ルイは席を立ち、部屋の奥へと消えていった。
(なんなの、一体この人……)
ソフィアが呆れる中、白亜の横顔を見ると、その瞳の奥には隠しきれない鋭い苛立ちが灯っていた。
しばらくして、ルイが戻ってきた。その手には、眩い純白の輝きを放つ結晶が握られている。
「ハッハッハ! これが我が一川家の家宝、白魔結晶でアール!」
ルイは高々と結晶を持ち上げた。もちろん、すでに三億円を確認した後だ。
(す、すげー……(棒読み))
ソフィアが冷めた目を向ける中、白亜が静かに歩み寄る。
「その白魔結晶……少しだけ、手に持たせてくれませんか」
「ダメよーーん」
ルイは結晶を引っ込め、意地悪く高笑いした。
その瞬間、白亜から肌を刺すような、凄まじいまでの殺気が吹き出したが……うん、気のせいだろう。
白亜は感情を押し殺した声で、さらに提示する。
「追加で、さらに七億出します。合計十億。……それならどうですか」
「おや、そのお金で全てを解決しようとする姿勢、僕は嫌いじゃあないよ! 仕方ない、本当に特別だからね!」
ルーカスから追加の七億円の手続きをされるのを見ながら、ルイは内心で舌を巻いていた。
(チッ、ロイの野郎、めんどくさいことを……まあ、今の段階であの化け物を敵に回したくはない。これ以上関係が悪化すれば、滅ぼされかねないからな。あの戦闘狂には触れないのが吉だ)
ルイは大事そうに抱えていた白魔結晶を、白亜の手へと渡した。
「二十秒だ。いいな? 一秒でも長く持っていたら、即座に牢獄行きだからね」
「分かいました」
白亜は確かに結晶を受け取った。――そして、それを両手で愛おしおしそうに、強く抱きしめた。
その刹那。
眩いばかりの、純白の暴虐的な光が部屋全体を埋め尽くした。
「えっ!? なに、何が起こってるの!?」
ソフィアが悲鳴を上げる。
「おい貴様、何をしている! すぐにやめろ、離せ!」
ルイが腕で目を覆いながら絶叫する。しかし、白亜は結晶を離さない。それどころか、白い光はさらに輝きを増し、結晶が白亜の身体へと吸い込まれるように、融けて消えていく。
「おい白亜、大丈夫か!?」
ルーカスが手を伸ばそうとした瞬間、光が急速に収束し――白亜はそのままドサリと床へ倒れ伏した。
部屋の視界が戻る。ルイはすぐに白亜の手元へと視線を走らせた。
そこには、倒れた白亜の姿。しかし、彼女が持っていたはずの結晶が――
「……ない! 結晶がないぞ!?」
ルイの顔が怒りと狼狽で真っ赤に染まる。「衛兵!! 衛兵を呼べ!!」
彼の怒号が響き渡ると同時に、ガシャガシャと激しい足音が響き、武装した大量の私設兵が部屋へと雪崩れ込んできた。
ルーカスは迫り来る兵を睨みつけながら、必死に白亜を揺さぶる。
「おい白亜、目を覚ませ! 一体何が起きたんだよ!」
「何なの今の!? これ、相当まずいんじゃ……!」
「衛兵、こいつらだ! こいつらが僕の白魔結晶をどこかへ消し去った! 全員捕らえて牢獄へ送れ! 結晶を探し出すんだ!」
大勢の武装兵が一斉に三人に飛びかかる。ルーカスとソフィアは武器を構えて抵抗したものの、室内の圧倒的な数の暴力には抗いきれず、そのまま無慈悲に縛り上げられ、連行されていった。
一人残されたルイは、激しい息を吐きながら、床に残された白亜のカバンを乱暴に漁っていた。
(クソ、この中か!? 急に消えたんだ、転移魔法か何かでロイの元へ送った可能性もある。どちらにせよ、あの結晶がなければ僕は――)
焦りながらカバンの奥深くに手を突っ込んだとき、ルイの指先に、奇妙な感触が触れた。白魔結晶に酷く似た冷たさ。
「……あった! あったぞ、よかったあぁ! あー怖かった……!」
ルイは歓喜の声を上げながら、カバンからそれを取り出した。
「これさえあれば……って、――はぁ?」
取り出した結晶を一目見たルイの口から、あまりにも間抜けた声が漏れた。
ソフィアたちは、城の地下深くにある不衛生な牢獄へとぶち込まれていた。
冷たい鉄格子の檻。ソフィアは一人で閉じ込められていたが、通路を挟んだ向かいの檻にはルーカスが、そして隣の檻には白亜が収容されていた。壁のせいで隣の白亜の姿は見えない。
沈黙の中、白亜の檻から微かな衣擦れの音が聞こえた。それにいち早く気づいたルーカスが声を上げる。
「おっ……白亜、目が覚めたか! よかった!」
「ルーカス……私は……」
白亜の声は、まだ少し掠れていた。
「ああ、お前、あの光の後すぐに気を失っちまったんだ。心配したぜ」
「ごめん……私のせいで、二人まで捕まっちゃったね」
「気にするな。それより……さっきのあれが何だったのか、説明してくれよ」
白亜は少しの沈黙の後、淡々と、しかし驚くべき事実を口にした。
「私が……白魔結晶を、自分の身体の中に取り込んだ。それだけだ」
(とりこんだって……そんなバカなこと、人間にできるわけないでしょ!?)
ソフィアが心の中で絶叫する。
「取り込んだ、だとぉ!?」案の定、ルーカスも鉄格子を掴んで目を見開いた。「あの馬鹿力が詰まった塊を、そのまま自分の中に吸い込んだってのか!?」
「うん。……ただ、思っていたよりも体への反動がデカかった。そのせいで一時的に気絶しちゃったんだと思う」
「なんでそんな無茶な真似したんだよ!」
ルーカスの問いに、白亜は壁越しに、静かで、どこか切ない声を返した。
「……強くなりたかったから。私には、どうしても探さなければならない人がいる」
(取り込もうと思ってできるものじゃないのに……白亜は本当に、何者なの?)
ソフィアが言葉を失っていると、ルーカスが真剣なトーンで尋ねた。
「……なぁ白亜。これ以上、お前の過去については深追いしない方がいいか?」
「……そうしてくれると、助かる」
重苦しい空気が牢獄を支配する。だが、その静寂を破るように、天井の隅からつんざくような耳障りな電子音が響いた。
見上げると、設置されたモニター画面が点灯し、そこにはワイングラスを片手にしたルイの姿が映し出されていた。
「やぁやぁ、新米奴隷の諸君! 君たちには本当に困らされたよ。でも、白魔結晶の交換条件として七億じゃ全然足りなかったし、代わりにこれを頂くことにしたよ」
ルイが画面の向こうで自慢げに掲げたのは、白亜の鞄に入っていた黒魔結晶だった。
「っ……!」白亜の檻から、明確な殺気の波動が漏れる。
「おやおや、そんな怖い顔で見ないでおくれよー。だからさ、これに免じて君たちに一つだけチャンスをあげようと思ってね」
「何だ」白亜が低く冷たい声で応じる。
「その牢獄のさらに地下にはさぁ、僕が経営している奴隷専用の闘技場があるんだよ。僕の趣味の一つに、奴隷どもが殺し合うのを特等席で観るっていうのがあってねぇ! もちろん奴隷は男女問わずたくさんいるから、誰が相手でも心配しなくて大丈夫だよ――死んでもね!」
(ひどい……! 何が大丈夫よ、命を何だと思ってるの!?)
ソフィアが怒りで拳を握りしめる。
「その闘技場に参加して、最後まで生き残ることができたら、特別に解放してあげるよ。もちろん、参加できるのは一人ずつ、代表者だけだ。さあ、どうするかなぁ?」
「――俺が行く」
すかさずルーカスが鉄格子を叩いた。
「待ってお兄ちゃん!」ソフィアが止める。
「ソフィア、ごめんな。お前をこんな危険な目に合わせたくないんだ」
「もうとっくに危険な目に遭ってるよ!」
兄妹が言い合っているその中央に、冷徹な一言が突き刺さった。
「私がいく」
白亜の言葉だった。
「白亜! ダメだよ、まだ身体が万全じゃないんでしょ!?」ソフィアが反射的に叫ぶ。
「これは私の責任だ。黒魔結晶を奪われたのも、元はと言えば私の不覚。……だから、私に任せてくれ」
ルーカスは壁の向こうの白亜の気配をじっと探り、静かに尋ねた。
「……勝つ算段は、あるんだな?」
「当たり前だろ。誰に言っている」
「本当にいけるのか? 身体能力だけで言えば、今の状態なら俺がいくのが一番勝率が高いぞ」
「問題ない。私の力を舐めるな」
「わかった。生きて帰ってこい」
「ちょっと二人とも、何勝手に納得してんのよ! ダメだってば、危ないよ!」
ソフィアの制止を余所に、ルーカスはふっと口元を緩め、鉄格子から手を離した。
「任せることになってすまんな」
「気にするな。……もし万が一、私が死んだら、その時はお前が奴らを全員ぶっ倒して勝て、ルーカス」
「おう、任せとけ」
二人の信頼のやり取りを見て、画面の向こうのルイがパチパチと手を叩いた。
「おっ、代表が決まったようだねぇ!」
「うるさいぞクズ。さっさと案内しろ」
白亜の冷たい一言に、ルイは引きつった笑いを浮かべる。「おやおや怖い怖い。猫被りが上手な女の子だことで」
直後、ガシャリと白亜の牢屋の扉が開いた。数人の看守が、白亜を連れて通路の奥へと歩いていく。
白亜が去った後、ソフィアは怒りをルーカスにぶつけた。
「お兄ちゃん、なんですぐ納得しちゃうのよ! 白亜、起きたばっかなのに!」
「ソフィア、お前にはまだ分からないかもしれないが……」ルーカスは真剣な目で通路の奥を見つめていた。「あいつの放った殺気、尋常じゃなかったぜ。それに、あいつはただ生き残るためじゃなく――黒魔結晶を直接奪い返すつもりだ」
ソフィアも、確かに白亜から放たれたあの恐ろしいほどの殺気は感じていた。だけど、だからといって――。
「あっ、一応試合はこのテレビで見せてあげるからね。アデュー!」
ルイが手を振ると、画面が切り替わり、荒涼とした巨大な地下空間が映し出された。
(白亜……お願いだから、無事で帰ってきて……!)
白亜が連れてこられた場所は、まさに古代ローマのコロシアムを彷彿とさせる、血と砂に塗れた地下闘技場だった。
すり鉢状の戦場の中央に立たされた白亜の周囲には、同じように武器を握らされた他の奴隷たちが数人、互いを警戒しながら立っている。
見上げれば、頑丈な鉄柵に守られた観客席があり、そこには退屈しのぎに狂った金持ち連中が座っていた。そして一際豪華なVIP席に、一川ルイが座っている。
マイクを持ったルイの声が響き渡る。
「さあ、もう始めていいんだよー! さっさと殺し合わないと、上から魔法で全員まとめて焼き殺すからねー!」
その言葉が合図だった。
シュッ――!
突然、白亜の顔のわずか数センチ横を、高圧の水の光線が掠め飛んだ。髪の毛が数本、水圧で切り飛ばされる。
白亜は咄嗟の身のこなしで後方へ飛び退き、距離を取った。
視線の先には、杖を構えた一人の女の奴隷が立っている。間髪入れず、白亜は自身のすぐ背後から強烈な殺気を感知した。
「死ねぇぇ!」
振り返ると、大柄な男の奴隷が、巨大な戦斧を白亜の脳天目掛けて振り下ろしてくるところだった。
しかし、白亜は避けない。
彼女は迫り来る刃に対し、あえて自らの素手を突き出し、超至近距離でその斧の刃をガシィィィン!!と正面から掴み取った。
「なっ……!?」男が驚愕に目を見開く。
白亜はそのまま人間離れした怪力で斧を強引に奪い取ると、独楽のように反転し、男の顔面に強烈な回し蹴りを叩き込んだ。
ドカッ!!!
鼻骨を粉砕された男は、そのまま数十メートル先まで吹き飛び、壁に激突して気絶した。白亜は奪った斧を、興味なさそうにその場へ投げ捨てる。
間を置かず、白亜は先ほど水流を放ってきた女性の奴隷へと視線を戻した。女性は怯えながらも、必死に杖に魔力を込め、最大級の魔法を展開しようとしていた。
「――“ウォーターボール”!!」
スイカほどの大きさにまで圧縮された水の塊が、大気を引き裂くような勢いで白亜へと向かって直進してくる。
だが、白亜は一歩も動かない。ただ静かに、向かってくる濁流に対して左手をかざした。
その瞳が、絶対零度の冷徹な光を放つ。
「――“氷華扇風 銀界”」
次の瞬間、白亜の手のひらから、闘技場全体を飲み込むような凄まじい規模の冷気が爆発的に放射された。
向かってきていたウォーターボールは、白亜の目の前で一瞬にして美しい氷の球へと変えられ、そのまま勢いを失って床に転がった。それだけではない。吹き荒れる絶対零度の嵐は、杖を持つ女性の奴隷を瞬時に凍りつかせ、さらに――戦場に取り残されていた他のすべての奴隷、そして闘技場の地面や壁に至るまで、その場の空間のすべてを文字通り完全凍結させてしまった。
数秒前まで血生臭い熱気に満ちていた闘技場は、今や音一つしない、静寂の氷の世界へと変貌していた。
「な、な……何だと……っ!?」
VIP席のルイが、持っていたワイングラスを床に落として立ち上がった。その顔は驚愕で引きつっている。
(バカな、何だあの威力は!?圧倒的じゃないか……! ここで無様に死んでくれれば面白かったものを! 他の 奴隷どもじゃ、あいつの足元にも及びやしない。……チッ、こうなったら、もう僕の直属の戦力をぶつけるしかないな)
ルイは冷や汗を拭いながら、自身の背後に控えていた一人の甲冑の男を振り返った。
「おい、全部凍りついちゃったじゃないか。……ホーク、お前がいけ。残ったあの白髪の小娘を、確実に殺せ」
「御意に」
ルイの直属騎士、ホークが静かに一歩を踏み出した。
一方、牢獄のモニターでその戦闘映像を見ていたルーカスとソフィア。
ルーカスは顎が外れそうなほど口を開けたまま、呆然と呟いた。
「……なぁソフィア。白亜の奴、あんなに強かったか?」
「知らないよ! だって、あの子の全力なんて私一回も見たことないもん! 別に知り合ってから何ヶ月も経ってるわけじゃないし……。でも、……うん、恐ろしく強いね」
ソフィアの目から見ても、今の白亜の強さは常軌を逸していた。
「それはそれとして……」ルーカスが急に声を低くし、鉄格子を強く握りしめた。「ルイの奴、白亜に奴隷じゃなく、自分のところにいる騎士をぶつける気だ。完全に、あいつをここで殺す気満々じゃねえか」
ソフィアは拳を胸の前で握り直し、白亜の背中が映る画面を真っ直ぐに見つめた。
「もう、信じる以外できないよ」
「大丈夫だといいが……」ルーカスは自らの体内に魔力を滾らせ、獰猛に歯を剥き出した。
「もし万が一、白亜が少しでも危なくなったらこの牢屋を破って、ここにいる奴ら全員ぶっ倒す」
その言葉を聞いたソフィアは、少しだけ呆れたように息を吐き、心の中で呟いた。
(……野蛮)




