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用意された  作者: ロア丸ばなな
第一章[失われた力]
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第四話『急な襲撃』

第四話『急な襲撃』


「くそっ、こいつら、なんて強さだ……!」

前庭では、ロイの屋敷を護る執事たちが血を流していた。

容赦なく振り下ろされる悪魔の刃。死を覚悟し、執事が目を瞑ったその瞬間――。

激しい風の音と共にロイが戦場に突入し、寸前のところで執事を抱え上げて大きく飛び退いた。

「下がれ。ここからは俺たちがやる」

ロイの着地と同時に、凄まじい風を巻き起こして白亜とルーカスも滑り込むように到着する。

三人の前に立ちはだかったのは、異様な威圧感を放つ三体の影だった。

中央に立つのは、一見すると端正な人間の姿をした男。しかし、その左右に控える二体の悪魔は、先日倒したツォレと同じく、側頭部から禍々しい角を生やしている。一人は不気味な黒髪、もう一人は燃えるような黄色い髪をしていた。

中央の男が、細められた瞳で白亜をじっと見つめる。

「我が名はロズ。――君か、白髪の人間。不作法な我が配下、ツォレを手にかけたのは」

白亜は刀の柄に手をかけ、冷たく言い放った。

「ああ、そうだ」

「フン、生意気な小娘だ」ロズは冷酷に口元を歪めると、左右の配下に顎で指示を出した。「おいダオロ、お前はあの白髪の小娘を殺せ。デカラマ、お前はあの金髪のガキだ。……あいつは俺が自ら料理してやろう」

「「はっ!」」


主の命を受け、黒髪の悪魔――ダオロが獰猛な笑みを浮かべて白亜の前に立ち塞がった。二人は互いの間合いを測るように、じりじりと場所を移動する。

静寂の中、先手を打ったのはダオロだった。

「料理人が死んだんだ。食材集めを任せていた奴だった」

ダオロが両手を掲げると、全ての指先から、黒く鋭い、肉食獣のような長い爪が音を立てて伸長した。

白亜は表情一つ変えず、静かに刀を抜き放つ。

「だからどうした。自業自得だ」

「抜かせっ!」

ダオロの身体がブレた。肉眼では捉えきれない高速移動で間合いを詰め、黒い爪が白亜の喉元を切り裂こうと迫る。

キィィィン!!

白亜は超反応でその一撃を刀の腹で弾き、バックステップで鮮やかに着地した。

「ほう、今の速度に反応するか。やるじゃないか、人間」

「そうか? お前も、思ったよりは強いな。悪魔」

「だが、それだけだ! さっさと貴様を殺して、ロズ様の元へ馳せ参じねばならんのでな!」

ダオロが再び地を蹴る。白亜はその場で腰を深く落とし、刀を大天上から思い切り振り下ろした。


「――“凍牙崩し(とうがくずし)”!」


激しい地鳴りとともに、白亜の正面の空間から、大地を破って巨大で鋭利な氷の牙が出現し、ダオロへと襲いかかる。

「なかなかにデカいな!」

ダオロは空中へ大きく飛び退き、その巨氷を難なくかわした。だが、着地地点には、すでに先回りした白亜が刀を構えて待っていた。

空中で身動きの取れないダオロへ、鋭い横一閃が放たれる。しかし、ダオロは鋼鉄のような爪を盾にして辛うじてそれを受け止めると、空いた左手を白亜の至近距離で凶悪に振り抜いた。

(しまった!)

咄嗟に身を引いた白亜だったが、鋭い爪が彼女の腹をかすった。

「くっ……!」

白亜は顔を顰め、苦渋の声を漏らす。

「どうした? 威勢がいいのは口だけか」

勝ち誇ったように見下ろすダオロに対し、白亜は傷口を押さえながら、不敵に目を細めた。

「それは、どうかな……!」

白亜は刀を持っていない左手を前に突き出し、一気に力を解放する。


「――“氷華扇風(ひょうかせんぷう) 銀界(ぎんかい)”!!」


彼女の手のひらから、吹き荒れる嵐のような超広範囲の絶対零度の冷気が噴出された。あたり一帯がまたたく間に白い冷気に覆われ、ダオロの視界と身体を完全に凍りつかせるように包み込む。

(これで時間を稼ぐ……。ここで一旦立て直さないと、この身体のままじゃ保たない……!)

白亜は霧に乗じてすぐさまその場を離れようとした。

しかし、その瞬間、彼女の足元へ禍々しい漆黒の魔力弾が飛来した。

「なっ!?」


ドガァァァン!!!


凄まじい爆発が起き、白亜の身体は容赦なく後方へと吹き飛ばされた。地面を転がり、背中を強く打ちつける。

(いった……! 魔力を限界まで圧縮して飛ばしてきたな。ツォレとかいうやつも、最後に同じことをやろうとしていた……。まずい、想像以上にこの身体へのダメージが大きい……!)

周囲には爆発の黒煙が立ち込めている。だが、その煙の奥から、コツ、コツ、と足音が響き、不気味な人影が近づいてきた。

「ダオロ……元気そうだね」

白亜が皮肉交じりに声をかけると、煙を割って現れたダオロが、肩をすくめて笑った。

「お前さんもね。まさか今の直撃に耐えるとは」

白亜はふらつきながらも、ゆっくりと立ち上がった。その瞳から、少女らしい幼さが消え失せる。

「……そんなにできる奴だとは思わなかったよ。こちらも奥の手を出そう」

「やってみるといい。こちらもそろそろ、トドメを刺したかったところだ」

「まあ、待てよ」

白亜は静かに呟くと、左右に広げた手を、上から下へとゆっくり合わせ、胸の前で印を結んだ。

その瞬間、周囲の空間が、悲鳴を上げるように激しく震え始めた。大気が一変し、圧倒的な神威が周囲を圧迫する。


「――“破壊の新星 神嵐しんらん”」


白亜が重ねた両手を少しずつ開いていく。すると、その小さな手のひらの隙間に、世界を拒絶するほど眩く、白く脈動する小さな光球が出現した。

それを見たダオロは、その光が秘める本源的な恐怖に気づかず、鼻で笑った。

「ハッ! なんだ、そのチンケで小さな魔法は。それが奥の手か?」

白亜の口元が、冷たく、妖しく釣り上がる。

「そうか。なら――喰らってみてくれや」

白亜が手を押し出すと、小さな白い球体は、音もなく超高速でダオロへと迫った。

ダオロは迫り来る球体に対し、自慢の黒い爪を交差させて受け止めようとする。しかし。


パキィィィン!!!


球体に触れた瞬間、鋼鉄の硬度を誇るはずのダオロの爪が、まるでガラス細工のように一瞬で粉々に砕け散った。

「な、に……っ!?」

ダオロの顔が、驚愕と絶望に染まる。避けようとしたが、もう遅い。

光球はダオロの分厚い胸板を紙切れのように容易く貫通し、その身体に綺麗な丸い風穴を開けた。

「なんだと……っ、これは、一体……何だ……!?」

ダオロは自分の胸の穴を見つめ、ガタガタと震える。

白亜は刀を静かに下ろし、冷徹な声で告げた。

「破壊という概念を、そのまま具現化した光。私の……本当の奥の手だよ」

「クソ……が……!」

ダオロはそれ以上言葉を紡ぐこともできず、その肉体ごと虚空へ塵となって消滅していった。


白亜はその場に倒れた。

(無理ゲー)

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