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用意された  作者: ロア丸ばなな
第三章[再臨]
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第十九話『2次』

一次試験の空間から抜け出したルーカスは、待機所で白亜の姿を見つけるなり大きく手を振った。

「おーい、白亜!」

「お、いたいた。ルーカスなら余裕だっただろ?」

「ああ、余裕すぎたぜ。でも……」ルーカスは周囲を見渡して息を呑んだ。「随分とまぁ、人が減ったな」

(ざっと見て、残っているのは100人程度か……)

「それとな、時計を見てみろ。試験開始前から、時間はほとんど進んでない」

時計は5時20分を指していた。

「本当だ。すげえよな、ルジェクさんずっとあそこで立って待ってたのかとか思っちゃったぜ」

白亜は冷静に分析する。

「おそらく、一次試験をクリアした者がこの待機所に帰還するタイミングが全部同じになるように調整されていたんだ。だから、ここにいるのが合格者の全員で間違いない」

すると、再び壇上のルジェクがマイクを握った。

「――君たちが、二次試験へ進む権利を得た者たちだ。二次試験の内容はシンプル。この私と直接戦ってもらう」

会場にどよめきが走る。

「私が君たちの実力を判断し、百点満点で採点する。もし私を倒すことができれば、無条件で百点だ。そして戦闘後には、私からの質問に一つ答えてもらう。その内容も得点に加算される。最終的に上位20名が合格……さらに、その中の上位5名を特別合格者とする。特別合格者は、将来幹部になるための試験が一つ免除される特権を得る」

ルジェクが言い終えると同時に、壇上に一つの巨大な扉が出現し、またしても天井から紙が舞い降りてきた。

「私は『97番』か。なんでさっきから私は後ろの方なんだ。ルーカスはどうだ?」

「俺は『8番』だった! 最初の方じゃん!」

『さあ、一番の番号札を持つ者から中へ入ってくれ』

ルジェクが自ら扉の中へと消え、続いて一番の受験者が扉に吸い込まれていった。


――すぐに一番の男は、全身ボロボロの状態で扉から吐き出されてきた。

(なるほど。これはすぐ終わるな。あの扉の先も、また時空をいじってるんだ)


すぐにルーカスの番が回ってきた。

「行ってくるぜ!」

「ガンバレー」

ルーカスは気合を入れて扉を潜った。


(これは……)

扉の先は、床が土で覆われた、どこまでも続く真っ白な巨大空間だった。

数人と戦ってきたはずのルジェクが、傷一つ、服の汚れ一つない状態で立っている。

「いつでもかかってきていいぞ」

「ルジェクさん、また会いましたね」

「驚かせてしまったかな? 面接官だとは言ってなかったからな」

「驚きましたよ。……行くぞ!」

(まずは遠距離攻撃で様子見だ!)

ルーカスが印を結ぶと、彼の周囲に無数の光り輝く剣が展開され、その刃先が全てルジェクに向けられた。


「“フローティング・ソードユニット”!!」


剣の群れが、凄まじい速度でルジェクへと殺到する。

だが。


「“エンジェルカーテン”」


ルジェクが静かに呟いた瞬間、見えない光の壁が展開され、無数の剣はガラスのように呆気なく弾け散った。

「すげえ……!」

「こちらも行くぞ」

ルジェクが指を鳴らす。


「“コンデミネイション”」


直後、ルーカスの頭上の空間が割れ、数多の光の矢が豪雨のように降り注いできた。

「殺す気かよ!」

「半殺しだよ」


ズガガガガガァッ!!


凄まじい轟音と共に、大量の土煙が舞い上がる。

「なかなかいい技を持っているね。それに……まだ終わっていないとは」

土煙が晴れた後、そこには即座に生成した重厚な盾を頭上に掲げ、ギリギリで光の雨を受け切ったルーカスの姿があった。

「ハァ、ハァ……あんたやっばいな! あんなん普通避けられねえよ!」

「でも、君は対処できている」

(……どう見ても本気じゃないくせに!)

「やってやるよ!」

ルーカスは自身の手に魔力の剣を握りしめ、ルジェクへと真っ直ぐに突進していった。


やがて、ルーカスが扉から出てきた。

他の受験者たちと同様、ボロボロの状態で。

「ルーカス、どうだった?」

「ハァ……いや、無理。強すぎる」

「他の受験者と比べて、お前は中に入っている時間が長かった。まぁ、お前が強かったからだろうな。それと、あの時空魔法の原理はだいたい分かったよ」

「そう、なのか……?」

「まぁ大したことはなかった。結界による世界分断の活用に、空間拡張系の術式を組み込んでるだけだ。私でも少し準備すればできる」

「俺は……結局、1ダメージも入れられなかったよ……」

ルーカスは悔しそうに肩を落とした。

(ほとんどの人間がボロボロにされて帰ってくる。……おそらく、ルジェクの力はルミエルで底上げされているな。私も他人のことは言えないが、天使も力が落ちていようと、人間の規格には到底収まらない)

白亜の瞳の奥が、妖しく光った。

(天使とやり合うのは久々だな。普通は戦う機会なんてないし、しかも相手は大天使ときた。……面白いじゃないか)

「おい、次お前の番じゃねえか」

「ああ、そうだな。やるだけやってみるよ」

白亜がゆっくりと立ち上がった瞬間――周囲の空気が、ピリッと凍りついた。

白亜は涼しい顔で歩き出し、そのまま扉へと入っていった。


真っ白な空間。ルジェクは少しだけ服を汚した状態で立っていた。

「ルジェクさん。始めるよ」

「いいよ、来なさ――」

ルジェクが言い終わるより早く。

白亜は、すでにルジェクの眼前に立っていた。

「――遅い」

白亜の右拳が、星のような眩い光を放つ。


「“白輝・壊滅”」


回避は不可能。ルジェクはすんでのところで両腕を交差させ、ガードの姿勢をとった。


ドゴォォォォォン!!


重戦車に撥ねられたような衝撃と共に、ルジェクの体は遥か後方へと吹き飛ばされた。

(なんという破壊力だ……! 今の一撃で、両腕の骨が完全に粉砕された!)

ルジェクは強引に受け身を取り、着地と同時に治癒魔法を腕に巡らせた。

(すぐに治せるが……ダメージの浸透が酷い。一撃でここまで削られたのはいつ以来だ……?)

「白亜くん、君はかなり強いな。余裕で貴嗣クラスの実力はあるぞ」

「決めるのはまだ早い。私の底は、そんなものじゃないよ」

「面白い! ならば、これも耐えてみせろ!」

ルジェクの背後に、巨大な魔法陣が展開される。


「“セラフィック・レクイエム”!!」


極太の光線が、束になって白亜へと放たれた。白亜がステップで避けても、光線は意志を持っているかのように執拗に追尾してくる。

(追尾型か。なら、これで――)

白亜が迎撃の態勢を取ろうとした瞬間、光線はまるで液体のように形を変え、白亜の全身を球状に包み込んだ。

(何っ!?)

直後、巨大な爆発が空間を揺るがし、辺り一面が目も眩むような光に覆われた。

「……これでどうだ」

ルジェクが息を吐いた、その時。

女性の声が聞こえる。

『――まだ終わっていませんよ、ルジェク』

「天使様!? 終わっていないとは……」


「“氷結の波動”」


爆炎の中から、莫大な冷気を伴った極低温の光線が一直線に放たれた。


「“エンジェルカーテン”!」


ルジェクは咄嗟に光の壁を展開し、直撃を防ぐ。しかし、弾かれた冷気が空間全体に広がり、真っ白な部屋にキラキラと輝くダイヤモンドダストを降らせた。

「とんでもない冷気じゃないか……」

煙が晴れた中心には、無傷の白亜が涼しい顔で立っていた。

「そんなこと言われるとは光栄だな」

「お前、今のを完全に耐え切ったのか……」

(こいつ、貴嗣クラスの最上位に匹敵するんじゃないか……!?)

「危なかったよ。全力で防御してなきゃ、今頃お陀仏だ」

「白亜くん……。天使様との関係といい、一体君は何者なんだ?」

「なーに、ただの迷い子の老いぼれさ」

「何が老いぼれだ。大人を舐めるなよ!」


「“ライトブロウ”!」


ルジェクの放つ無数の光の刃を、白亜は紙一重のステップで全て躱していく。

そして一瞬の隙を突き、ルジェクの懐へ潜り込んだ白亜は、その顔面に強烈な蹴りを叩き込んだ。


「“白輝・壊滅”!!」


ルジェクの体は弾丸のように吹き飛び、空間を囲う見えない結界の壁に激突して崩れ落ちた。

「手応えあり。これは逝ったな」

白亜が勝利を確信した、次の瞬間。

気絶したはずのルジェクが、音もなく白亜の背後に立っていた。

「なっ!?」

振り向きざま、白亜は強烈な裏拳を食らい、大きく吹き飛ばされた。

「……ルミエルか!」

『そうですね。少しの間、私がこの方の体を借りて動かします。言ったでしょう? まだ終わっていませんよ』

閉じた瞼の奥から、神聖で冷酷なプレッシャーが放たれる。大天使ルミエルが、意識を失ったルジェクの肉体を完全に支配していた。

「お前が相手なら……私も少しだけ本気を出してもいいかもな」

白亜は空間から美しい白銀の刀を引き抜いた。


「“白刃・黄昏”」


『そうですね。ですが、この体を殺さないでくださいよ』

ルミエルの手元に、純白の光り輝く槍が顕現する。


「“ホーリーランス”」


『あまり長引かせたくありません。一撃で決めましょう』

「同感だ」

次の瞬間、白亜とルミエルは互いに大地を蹴り、神速で交差した。

キィィィィン!! という甲高い金属音が空間に響き渡る。

「……引き分け、か」

『……ですね』

白亜の切っ先はルジェクの心臓の表面を捉え、ルミエルの槍の穂先は白亜の首元の皮一枚のところでピタリと止まっていた。

互いに武器を下ろし、空間に溶かすように消し去る。

(彼女は、目に見えて手を抜いていましたね……)

ルミエルは内心で戦慄していた。

(いくら全盛期から力が落ちていようと、本気を出せば、ルジェクごと私を消し飛ばすことができたはず。……やはり、間違いありません。支配者の一角が、完全ではないにせよ、この時代に再臨したのですね)

『それでは、ルジェクの意識を起こします』

ルミエルの気配がスッと消え、直後にルジェクがハッと目を開けた。

「……っ!? ここは? 一体何が起こった?」

(あの野郎、肉体のダメージ回復まで完全に済ませてから引き渡しやがったな)

「ルジェクさんが急に気絶したから、起きるまで待ってたんだよ」

「……なるほどな。私の負け、か」

ルジェクは深く息を吐き、姿勢を正した。

「最後に、質問を一つだけさせてくれ。――君はなぜ、妖撃士団に入ろうと思ったんだい? 言っておくが、私に嘘は通じないよ」

ルジェクの青い瞳が、不自然なほど鋭く輝いた。

(あの青い目……『真実の目』か。ルジェク自身が元々持っていた特性だな)

白亜は一切の動揺を見せず、真っ直ぐにルジェクを見据えて答えた。

「私は、友を救うために入った。妖撃士団の権限があれば、世界中の移動に多少の融通が効くようになるからな。……理由は、それだけだ」

少しの間、沈黙が落ちた。

やがて、ルジェクは満足そうに微笑んだ。

「……分かった。これで君の試験は終わりだ。あの扉から出て、待機所で待っていてくれ」

「了解」

白亜は小さく伸びをしながら扉を開け、外へと歩み去っていった。


誰もいなくなった真っ白な空間で、ルジェクは一人、静かに呟いた。

「……今年は、とんでもない豊作になりそうだな」


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