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始まりの聖女 ─彼女が呼ばれたわけ─   作者: はたの


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8



「あの、着替えが欲しくて」


少し乾いたとはいえ、今着てるのは昨日の服で。

着替えられるならそうしたい。


「一応、持ってきているんだ」


アルヴェインさんが手元に持っていた袋には、折りたたまれた布が入っていた。


広げられたそれは、見慣れない形の服だった。


薄い色の、ゆったりとした上衣と、足首まである長いスカート。


触れてみると、少しざらりとしている。


「礼拝堂で使っているものだ。合わなかったら言って」


合うかどうかなんて、分からない。

でも、他に選択肢もない。


「ありがとうございます」


背を向けてもらい、急いで着替える。


袖は少し長くて、指先が隠れた。

裾も、思っていたより重い。


鏡を見る。


知らない服を着た、自分。


……似合っているのかは、分からなかった。




「行こうか」


頷いて、後を追った先は、調理場だった。


そこには、昨日と同じものが並んでいた。


「座って」


差し出されたパンを受け取る。


昨日より、少し固い気がする。


両手で割ろうとすると、ぱき、と小さな音がした。

乾いた果物は、噛むと酸っぱい。

水を飲む。

味は、ほとんどない。


……お腹は空いているのに、どこか落ち着かない。


でも、誰も何も言わない。


静かな音だけが、部屋に残った。




水で指先を流しながら、少し迷う。


「……あの」


アルヴェインさんが顔を上げる。


「お風呂は、ありますか」


ほんの少しだけ、間があった。


「ここにはないんだ」


やっぱり。

胸の奥が、沈む。


「湯なら用意できる。桶に張って持ってくるよ」


桶。


頭の中で、想像する。


「しばらくは、それで我慢してもらうことになるんだけど……」


「……分かりました」


少しだけ、沈黙が流れた。


「今、持ってこようか」


「お願いしてもいいですか」


自分でも、少しだけ急いているのが分かる。


「分かった」


穏やかに微笑んで、アルヴェインさんは部屋を出ていった。



休憩室に戻って、アルヴェインさんが持ってきてくれた袋を覗く。

中には、替えの下着も数着入っていた。


用意されていることに、ほっとする。


 

やがて運ばれてきた桶の湯は、薄く湯気を立てていた。


「広間の方に行ってるね」


桶を床に置いたアルヴェインさんが、部屋を出ていく。



両手で布を浸し、軽く絞る。

首筋に当てると、じんわりと温かい。


思っていたよりも、ずっと、ほっとする。


肩まで伸びた髪を指で梳く。


髪は、どうするんだろう。

全部濡らすわけには、いかない。

このまま、しばらく洗えなかったら。




乾いた髪が、少しずつ重たくなる気がした。





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