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覗いた浴室には、もうもうと湯気が立っていた。
「あ、まだ熱いから、気をつけて」
「はい」
早く入りたい気持ちが先に出て、返事が少し早くなる。
自分でも、落ち着いていないのが分かった。
「お湯は張ってある。のぼせないようにね」
そう言って、アルヴェインさんは浴室の扉から少し下がった。
そのまま、部屋のソファの方へ戻っていく。
本棚から何かを抜き取って、座った。
私はそれを見てから、浴室へ足を踏み入れた。
湯気が、ふわっと顔にかかる。
ちゃんとお風呂に入るのは三日ぶりだ。
思わず、後ろ手で扉を閉めた。
床に、水滴が落ちている。
……アルヴェインさんが用意してくれたんだ。
籠の中に、今着ている物と同じ服が入っていた。
これも、彼が用意してくれたものだろう。
髪を結んでいたゴムをほどく。
三日洗っていない髪が、肩に落ちた。
服を脱ぐと、肌に張り付いていた布が離れる。
それだけで、少し体が軽くなった。
浴槽は、思っていたより、ずっと広かった。
指先で、そっと湯に触れる。
想像よりも熱くて、思わず指を引いた。
ゆっくり足を入れる。
次に、膝。
腰。
「……あ」
声が、勝手に漏れた。
温かいお湯が体を包む。
固まっていた力が、ゆっくり抜けていく。
そのまま、そっと肩まで沈んだ。
何分、そのままでいただろう。
気がつくと、少しだけ目を閉じていた。
ここに来てからずっと、緊張していたんだと思う。
……石鹸の匂い。
どこかつんとして、草木を煮詰めたような。
家では、嗅いだことのない匂いだ。
早く、お母さん達に会いたい。
零れた涙が、お湯に沈んでいった。
お湯が、静かに揺れる。
誰もいない浴室に、水の音だけが残った。




