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ここに来て、三日が経った。
アルヴェインさんは、毎日差し入れを持って来てくれる。
小さなお菓子。
甘いものは、少しだけ楽しみだった。
けれど、口に入れると、砂糖の甘さが強いだけで、どこか平たい。
今日のも、随分と硬そうだ。
一口かじる。
やっぱり、甘い。
けれど、舌に残るのは砂糖の粒だけ。
指先が、少しべたつく。
布で拭っても、なんとなく落ちない。
そのまま、髪に触れてしまう。
三日洗っていない髪が、指に絡む。
……いやだ。
急に、強く思う。
洗いたい。
ちゃんと、全部。
「アルヴェインさん」
どこか遠くを見ていた彼が、私を見る。
「お願いがあるんですけど」
一拍置く。
「ちゃんと、お風呂に入りたいです」
私を捉えた視線が、揺れた。
「どうしても、お風呂に入りたいんです」
ふう、と大きく空気を吐いてから、
「……分かった」
とアルヴェインさんは答えた。
「着いてきて」
すぐに立ち上がった彼の後を追う。
ここから出るのも、三日ぶりだ。
休憩室を出て、広間を抜けて。
大きな扉が、重たい音を立てて開く。
冷たい空気が流れ込む。
天井が、高い。
足音が、やけに響く。
……こんなに広かったんだ。
廊下は、まっすぐ続いている。同じ柱が、いくつも並んでいた。
どこまで行っても、同じ景色だった。
歩くたびに、靴の音が返ってくる。
……遠い。
角を曲がると、人がいた。
私を見ると、少し驚いた顔をする。それから、すぐに姿勢を正して、アルヴェインさんへ頭を下げた。
私は、なんとなく目を逸らす。
不潔だと、思われたらいやだな。
私は身を縮めて、アルヴェインさんの後ろを歩いた。
数分歩いた頃、アルヴェインさんが立ち止まったのは、木の色が深い扉の前だった。
取っ手の金色だけが、ピカピカと輝いていた。
彼がそれを握って、私を部屋へと進める。
大きな机に、背の高い本棚。
本も、机の上も、何もかもが揃っている。
キッチリと整頓されていた。
「少し待ってて。準備をしてくる」
きょろきょろと部屋を見回していた私を、ソファに座らせる。
アルヴェインさんは、そのまま奥の部屋へ入っていった。
……明らかに、高そうな物ばかりだ。
座ったソファも、深く沈んで、体を包み込む。
アルヴェインさんって、
「お待たせ、ごゆっくりどうぞ」
声がして、顔を上げる。
戻ってきた彼の後ろから、白い湯気が流れていた。
お風呂だ。
三日ぶり。
思わず、一歩前に出た。




