39、ボス戦
ニックの話では、二人がボスを倒して部屋から出ると、左から突然おじさん二人が現れて、獲得した魔鉱石とアイテムをすべて取られたそうだ。
『このことは誰にも言うな。捕まったとしてもすぐに出てこられるからな』
『お前たちの前に現れるぜ』
強盗はそう言って、来た道を戻って右に曲がったそうだ。
ニックは泣いて、涙を手で拭いていた。ひどい!! 強盗が子供ダンジョンに来たなんて……。ルイスが言った。
「強盗は捕まったら、そう簡単に出られないと思うけど……」
「どうやって入ったんだろ?」
「知らないよ。俺たちは、地元の仲間には十層に行くなって言ったんだ。そしたら金曜に、九層の奥にも強盗が現れて、仲間が被害に遭った……。それで、八層にいるんだよ。表は寮の奴らがいるから、今日は裏から入ったんだ」
シュミットが仕方なく話した。ということは、金曜日はボス戦はしてないんだ……。
「普通ダンジョンにいた奴らも、多分強盗に遭ったんだ。それでこっちに来てるんだよ。寮の情報は、俺たちには流れてこないからな」
それで、みんな八層にいたんだ! 十層目と九層目は通路しかないから逃げ場がない。さすがに八層目までは来ないだろうということなんだ。
「それで、ラザニーが九層に行くように言ったのね!」
本当に意地悪だわ! シュミットが言った。
「それで、大人が来ないか見張ってるんだよ」
「このままだとお前ら、家に帰れなくなるぞ。今からでも遅くないから、協会に強盗のことを言いに行くんだ」
「え?」
ルイスの言葉に、ニックが声を出す。シュミットも驚いていた。そうだ……協会が許すはずがない。
「ルールでは、何かあったら言わなきゃいけないもの」
「そんな! でも、強盗が捕まらなかったら……俺たちはどうなるの?」
ニックは怯えていた。ルイスは難しい顔をした。
「……ユミを危険な目に遭わせたくないけど、俺たちがボス戦をして強盗をおびき出す。二人はみんなを連れて協会に行くんだ。職員を呼んできてくれ」
怖いけど……ルイスを一人で行かせるわけにはいかない。
「私は大丈夫! 強盗もボス戦が終わるまでは出てこないはず」
二人はしばらく黙って考えていた。
「ニック、さっきは強く言ってごめん」
「うんん……」
シュミットはニックに謝ると、ニックは首をふった。
「……被害が出たから、俺たちはどうなるか分からないけど……できることはやろう」
「うん」
「みんなを連れて言いに行くよ」
「うん。まだ時間はあるから、落ち着いて行動するんだ」
「分かった」
ルイスが二人に言った。二人は中に入って他の子たちに呼びかけた。
「おーい、みんな」
「俺たちも行こう」
「うん!」
私たちは用心して階段を降りた。私は小さな声で言った。
「強盗は透明石を持っているんじゃないかな」
「そうだね。他にも魔法アイテムを使っていると思う」
ダンジョンで、魔法アイテムや透明石を使うのは禁止ではない。もちろん違反するような使い方をしてはいけない。
九層目の入口を通り過ぎる。静かだ。今日は誰もいないだろう。
「左から強盗が来たって言ってたから、俺たちが来たのが分かるように右側を通ろう」
「うん」
裏からだと右側になる。十層目に入った。正面はボスの間の壁だ。左右に通路がある。私たちは右の通路を通って、左に曲がった。しばらく行くとホーンブルが現れた。
ルイスに倒してもらう。アイテムはドロップしなかった。ルイスが魔鉱石を拾う。ボスの間に行く通路までくると、左に曲がった。ボスの間の扉まで来た。
ルイスが、両開きのドアの片方を開けて中に入った。中は左手に祭壇があり蠟燭が置いてある。右手の壁に木の柄のタペストリーが飾ってあった。部屋の広さは外の区切りより小さかった。急にピギーが現われた。
「あれ、どうしたの?」
「……ここだけ隔離された空間だから、ユミとのつながりが切れたんだ。それで来たんじゃないかな?」
「そうなんだ」
ピギーはニッコリしていたので、私を見てうれしそうだった。かわいいな。ちょっと緊張が解けたよ。
祭壇の前にボスのミノタウロスが現れた。顔が青い雄牛で厚い胸板と手足が肌色、体中が茶色い毛で覆われている。人間とゴリラの中間みたいな体つきだ。左手に黒い三叉槍を持っていた。先が三本のフォークのような形だ。水属性で、強そう……。
ピギーが素早く移動して、ミノタウロスにちょっかいを出し始めた。
「危ないよ、ピギー!」
ミノタウロスの体は、ピギーが当たった部分の像が一部欠けて、ジリジリしている。ミノタウロスはピギーを目で追っているが、動きの速さについていけず、キョロキョロしている。
「あれ? 体が欠けている」
「エネルギーを吸い取っているんだ!」
「……なんか、嫌な攻撃だね」
私は苦笑した。ミノタウロスは動作がぎこちなくなってきた。
「おかげで倒しやすくなった」
ルイスがミノタウロスに近づくと、右から斜めに切りつけた。ミノタウロスはポンと消えて、青い魔鉱石とエクストラポーションが二個現われた。魔鉱石は落ちたが、エクストラポーションは宙に浮いて輝いている。瓶の肩は丸みがあって、下に向かって細くなっている。中身は紫だ。
「これは、二人で倒したってことかな?」
「多分そうだよ。ピギーはユミのモンスターだから」
「そうなんだ……」
楽な気もするけど。まあ、いっか。
「やったね! ありがとう、ピギー!」
ピギーにお礼を言うと、ピギーはうれしそうに宙を動き回った。私とルイスはエクストラポーションを手に取った。お互いを見てほほえんだ。
「ユミのはリュックの奥にしまっておいて。俺のは、いざというときに魔鉱石と出せるようにしておく」
「うん」
この後もまだ強盗の件が残っている。ある意味、ここからが本番かも……。
ルイスがドアを開けて、顔だけ出して外を見た。
「誰もいないな。出よう」
「うん」
私たちが出ると、扉は閉まった。すると、左右から大人が一人ずつ現れた。右から来た男が手を上げて、話しかけてきた。四十代ぐらいだ。
「やあ、ボス戦は上手くいったかな? 今日の分のアイテムと魔鉱石を全部出してもらおう」
まだ十分距離がある。ルイスは右側の男に剣を構えた。
「聖剣は人を切らずに悪を切ると言う。試してみよう」
ルイスはそ言うと聖剣を振った。赤い風が男に直撃すると、男は倒れた。左側の男が驚いた。
「こいつ、勇者か!」
そう言ってどうするか留まっていたが、ルイスが左の男に向き直ると、男は逃げ出した。ピギーがすばやく男を追いかけて、ぶつかった。
「あれ、急に力が入らないぞ……」
男はその場に倒れ込んだ。ピギーはピーっと、笛のように高く鳴いた。すると、左の奥からホーンゴリラが走ってきた。
「えっ!?」
ホーンゴリラは倒れた男を抱えて運ぶと、私たちの前にどさっと置いた。次に右側の男を連れて来て隣に並べる。それが終わると、また走って来た道を戻っていった。
私たちはあっけにとられた。ピギーはホーンゴリラを子分のように扱っていた。
「もしかして、ピギーって強いの?」
「ピギーは多分、光属性だ」
「あ、最初に会ったときも言ってたね」
光属性は神の力と言われている神聖力だ。聖剣もそうだ。ピギーは得意そうに飛び回っている。
「ピギー、ありがとう!」
お礼を言うと、ピギーはうれしそうにニッコリ笑った。その後に、アストールにちょっかいを出し始めた。じっとしてないな……。
「こいつらを縛ろう。ユミの縄も出して」
「うん」
リュックから縄を出す。二人は軽装で、荷物は持っていなかった。強盗の体を起こして私が支える。ルイスは短い縄で手を縛り、長い縄で体と腕を縛った。
そうだ、いつ動き出すか分からないから、眠り玉を使おう。私はズボンの脇ポケットから眠り玉を一個取り出して、横たわっている二人の頭に投げつけた。眠り玉は片方に当たってはじけると、粉が出て二人の頭を覆った。
「これで三十分は起きないね」
私は魔法時計を取り出して時間を確認した。




