38、とんでもない事件
ハオ君も自分のことを話してくれた。
「俺は子供のころから歌が上手くて、祭りとかで歌っていたんだ。それで、アイドルになったらって言われた。体を動かすのも好きだったから、十四歳になったら、アイドルになるためにこの街に来たんだ」
「そうなんだね」
ナンシーがニコニコして言った。ハオ君は、席を立つと二曲歌ってくれた。私もナンシーもハオ君の曲を聞くのは初めてだ。本当に上手で、ダンスも上手かった。みんなで拍手した。ナンシーは涙を流して感動していた。大丈夫かな……。
私は気になっていた、怪我をしたアイドルの女の子の話をハオ君に聞いてみた。
「かわいそうな話だよね……。顔は修復魔法で復元できたんだけど、薬品に呪いがかかっていて、灰色のあざが残ったんだって」
「そんな……」
ナンシーもルイスも表情を硬くした。呪いは闇魔法だ。人に害を与える魔法は禁止されているけど、闇マーケットで売られている。
「でも、ソレイユは復帰するらしいよ」
「へえ~、そうなんだ」
私は感心した。強い子だな……。
食事も終わったので、ケーキを出してろうそくに火をつけた。照明を少し暗くして、私が火を吹き消した。みんなが拍手して、私はちょっと照れた。
ナンシーがケーキを八分の一に切り分けてくれた。みんなでケーキを食べる。ハオ君が感想を言った。
「フルーツは食べたことない味だね。ケーキも本当においしいよ」
「料理もケーキもナンシーのレシピなんだよ」
私が言うとナンシーは照れた。
「ナンシーは料理上手だね」
ハオ君は部屋の中なので、呼び捨てにしていた。私たちはもう友達だな。ナンシーは褒められてうれしそうだった。
「今度、フルーツパンも出るんだよ。高級パンは食べたことない人だけ、三人分予約できることになったから、ハオ君の分も予約しておいたよ。火曜日に届けるね」
「えっ! ありがとう!」
二十時近くなったので、お開きにした。ハオ君に、使わなかったソーセージとハム、ケーキ一切れもお土産に持たせた。ソーセージとハムは、オーナーの分もある。
「結構な荷物になっちゃうかな?」
「シチュー缶が重かったから大丈夫だよ」
ハオ君が持ってきた紙袋に入れた。私はハオ君にお礼を言った。
「今日は来てくれてありがとう!」
「うん。また楽しい催し物があったら呼んでよ」
「分かった!」
ナンシーが答えた。ハオ君はルイスを見た。
「ルイス、今度遊ぼうね」
「うん」
ルイスもほほえんで手をふった。ハオ君が帰ると、私たちは急いで後片付けをした。残った料理はルイスが食べることになった。ケーキはそれぞれ一切れずつ持ち帰る。飾りは明日帰ってから、ルイスと私で外すことにした。
ナンシーが食器を洗い、私とルイスがテーブルと椅子、テーブルクロスをそれぞれの部屋に戻す。運ぶのが終わると、二人でお皿を拭いた。二十分で片付いた。
解散してお風呂に向かった。お風呂の最終時間二一時までに間に合った!
翌日のユメイナ劇場。ハオは、紙袋を持ってオーナーの部屋に行った。机の上に紙袋ごと置いた。
「オーナー、バターもらえましたよ」
「おお~、早いな」
「ナンシーが自分の分を譲ってくれたんです」
「そうか! ナンシーはお前のファンだからな」
「シチュー缶は、みんな喜んでました」
「そうだろう! 庶民は食べないからな」
オーナーは紙袋の中を見た。
「他にもアイテムのソーセージとハムをもらいました。ダンジョンフルーツは俺の分でしたが、ケーキで食べたのであげます」
「なに!? わしでも食べたことがないものばかりだ! 天使なのか?」
「……そうですね」
あの三人は、そういうところがあるなとハオは思った。
「おいしいハムは、どれも同じ味な気がするが?」
「そうなんですけど、絶妙な塩加減と食感で、どちらもすごく満足感がありましたよ」
「ほお~、それは楽しみだ! よくやったぞ!」
「あと、ナンシーが高級パンの予約を取ってくれたので、食パンとクロワッサンとフルーツパンが食べられます。三人分です。火曜日に持ってくるので、食べるんだったらお金ください。四八ルトです」
「よし、いいだろう。あと一人は、テオにするか」
アントニオは巾着から、銅貨一枚を取り出して渡した。暗黙の了解でお釣りはもらってもいい。ハオはお金を受け取ると出て行った。アントニオは食べ物に目がないので喜んだ。
(ハオは頼りになるし、当たりだな)
たまにいい人材がいる。ハオは、早くにアイドルを辞める気だとジェイが言っていたが、それはかまわない。仕事には広くていい人脈が必要だ。ハオとの関係はその後も続くだろう。
秘書のテオも元アイドルだった。ファンとの接し方や温度差に悩んでいた。どの仕事も、疑問を持った人間は続けられない。
この仕事はいかに騙すか、綱渡りのような仕事だ。誠実な人間や、賢い人間には向かない。深く考えない奴のほうが向いている。アントニオはニヤリと笑った。
ソレイユはそれを上手く利用していたが、とんだ邪魔が入ったものだ……。
ユミとルイスはダンジョンの階段を降りた。
今日はボス戦だ。いつものように六層目を走って通過して、奥の階段を降りた。
「ボス戦、緊張するな」
「そうだね」
「あの二人は成功したのかな」
話していると、八層目でその二人がなぜか階段の壁にもたれかかっていた。八層目の奥も、声が聞こえて賑やかだった。ルイスが声をかけた。
「やあ。二人ともなんでここにいるの? 俺はルイス」
「おはよう。私はユミンスだよ」
二人は暗い顔をしていた。
「俺はシュミット。見張りだよ」
「俺はニック」
「見張り? ……なんの?」
四角い顔で少し体格がいいのがシュミット、細いのがニックだ。私が聞き返すと、ニックが話した。
「大人が来ないか見張ってるんだよ」
「やめろって!」
「だって……ルイスは勇者だろ。なんとかしてくれるかも……」
シュミットが注意すると、ニックはビクッとして弱気な顔をした。大人がここにいるはずないのに……どういうこと? 私はニックに聞いた。
「ニック、どういうことなの?」
シュミットは横を向く。ニックは話し出した。
「……ボス戦が終わった後、部屋を出たら、大人が二人立ってたんだ……」
『!!』
噓でしょ!? 私とルイスは驚いた。




