33、アイドルの事件
寮に帰るとララさんにフルーツを渡した。
「まあ! 初めて見るわ! きっとおいしいわね。ありがとう」
ララさんも喜んだ。ララさんと別れて階段を上り、ルイスにもフルーツを渡した。
「はい、これルイスの分」
「ユミの分がないよね。これはユミが食べて」
ルイスはちゃんと分かってるな。
「じゃあ、半分こしよう。あとで、ケーキも持っていくね」
「うん。分かった」
家に帰って、フルーツとケーキを切り分けてルイスに持って行った。ナンシーが帰ってきたので、自分の分のケーキも一緒に持って、ナンシーの部屋を訪ねた。
「ありがとう! ルラさんのケーキ食べたかったんだよね」
「ルラさんが作ったんだ!」
上手だな。ジョンソンパンには、ルラさんが作った焼き菓子やプリンも置いてある。二人でお茶をしてケーキを食べた。おいしかった!
「そういえば談話室が騒がしかったんだけど、アイドルが襲撃されたんだって! レイが言ってた」
「え!?」
私は驚いた。
「狙われたのは、ライルだったらしいよ」
「どういうこと?」
ナンシーが聞いた話では、
水曜のコンサートが終わった後にティアラたちがホールを歩いていたら、ファンの十三歳の男の子がライルめがけて走ってきた。男の子は手に持った薬品を、ライルめがけてかけた。
『ライル! 逃げて!』
女の子たちの中から声がしてライルはとっさに避けたので、薬品が人気ナンバーワンのソレイユの顔にかかってしまった。薬品のせいで顔の一部が溶けたそうだ。——なんて恐ろしい……!
男の子は人気ナンバースリーのディアナのファンで、最近ライルとディアナが話しているのを見て嫉妬していたそうだ。
「ひどいね」
「うん。その後の公演は中止になったって」
怖い話を聞いて、ちょっと心が沈んだ。怪我をしたアイドルの子がかわいそうだな……。その日の夕飯はハンバーグなので、ちょっと気分が回復した。
ユメイナ劇場のオーナーの部屋。アントニオは怒っていた。部屋にはアントニオの秘書のテオもいた。
「ライルの奴、避けやがって!」
「ライルも子供ですから……」
「……そうだな」
アントニオはテオの言葉に冷静になった。
「あいつには、しばらくこなくていいと言っておけ」
「分かりました」
テオは部屋を出て行く。
「とんだ、損失だ!」
アントニオは苦々しく言った。午後の公演もなくなった。ソレイユはソルボンヌ侯爵から養女の申し出も出ていた。貴族と懇意になれるところだったが、これでなしになったなと思った。
翌日、ユミはルイスからもらったピンクのグローブをはめて部屋を出た。
ダンジョンに行くときに、ルイスに事件の話をしてみた。
「昨日、談話室で俺もレイから聞いたよ。ひどいよね」
「うん」
ダンジョンに着くと八層目まで降りた。でも、階段にいるときから騒がしい声が聞こえた。中に入ると、人が多くて本当に騒々しかった。当てが外れた……。私が言った。
「なんか多くない?」
「そうだね。——あ、ライルがいる」
「本当だ」
ひときわ目立つ金髪の男の子がいた。私は寮の子が持っていた写真でしか見たことがなかったけど、派手だな。
ライルはパーティの最年少だけどリーダーだ。私はライルの装備に目がいった。すねにサイのスネークゲイターをしている。蛇避けだ。付けていると防御力が一上がる。私も欲しいな。
向こうは一戦して休憩しているようだ。岩壁にもたれたり、座ったりしている。こちらに気がついて、ライルが声をかけてきた。
「やあ、コンサートに来ていた勇者だよね」
「パーティ二人とも、アイドルカフェにいるのを見たわよ」
「なに? あの二人オタクなの? ウケる~。ピンクの装備もウケるよね」
美人で薄オレンジ色のペタンコロングヘアーの女の子が言うと、もう一人のぼさぼさヘアーの女の子が、ケタケタ笑った。見られてたんだ。ていうか、自分もカフェに来てたんじゃん。なんか嫌な感じ……。みんな顔色が悪かった。デジャヴだ……。
でも普通ダンジョンにいるはずなのに、なぜここにいるんだろう? 昨日の事件とは関係ないだろうけど……。
ライルはあんなことがあったけど、涼しい顔をしていた。ルイスが聞いた。
「普通ダンジョンにいるんじゃないの?」
「……」
みんな目線をそらして黙った。何だろう……。正面の通路を見ると、最年長の子がいるパーティがマーメイと対戦していた。順番取りしていた子が、ホーンエイを追い払っている。私がぽつんと言った。
「エイは倒さないんだ」
「エイは毒針を持っていて危険なんだ。アイテムもドロップしないし、捨てモンスターだよ」
ライルのパーティにいる、年上で少し小太りの男の子が教えてくれた。
「なんで言うのよ。刺されたらおもしろいのに!」
ぼさぼさヘアーの子がおもしろそうに言った。美人の子もニヤニヤ笑う。——エイのことは知ってますけど……。ルイスが言った。
「ここは混んでるみたいだね。九層はどうだろ」
「九層は地元の子たちが行ってるよ。そっちのほうが空いてるから行きなよ」
ぼさぼさの子がニヤニヤしながら言った。ライルも言った。
「ここの通路はみんな使ってるからな」
「じゃあ、後でそうします」
ルイスはそう答えるとこっちを見た。
「右を見に行ってから、森に入ろうか」
「うん」
私たちは右に歩いて行った。右の通路では年上の女の子二人がホーンナマズと対戦していた。昨日八層で見たパーティのメンバーだ。この二人は先週の朝は見なかった。先を見ると、三人の年長者らしき男の子がホーンタコと対戦していた。もしかして、
「ルイス、このパーティも先週の朝見てないから、普通ダンジョンにいるパーティじゃないかな」
「え? ……何か変だね」
「うん」
子供が全員ここに来ているのは変だった。私たちは右の森に入った。ルイスが言った。
「ライルたちは、嫌な感じだったね」
「本当! ダンジョン症なのかな?」
「そうかもしれない。——ユミはエイを気にしていたよね。エイは何を持ってるの?」
「エイはね、幻のアイテム、無限水筒を持っているの! 絶対手に入れなきゃ!」
みんな知らないということは、超絶レアだ。多分、カシムさんは知っているだろうけど……。
「何それ?」
「魔力がなくなるまで、半永久的に水が出てくる水筒だよ」
「すごい!」
「急所は多分お腹側だと思う。毒針は尾の付け根の上にあるよ。
自分たちの分を取ったら、薬草を取ってここを出よう」
「うん!」
エイの群れが五匹、肩ぐらいの高さを泳いできたので、私たちは下にしゃがんでエイの腹を突いた。エイは多分、わざと低い位置を泳いでるんだな。




