30、疲れている子供たち
正面の通路の端まできた。昼になったので階段の近くで昼ご飯を食べた。ルイスが言った。
「今日は、こっちの階段から六層目に降りて、隠れているモンスターを探そう。あいつらにも会わなくて済むからな」
「そうだね」
私たちはちょっと笑った。コーネルたちのことは気になるけど、午後は一時間しかないからな。
「奥に行きたいときは、六層目を突っ切れば時間はかからないな」
「いいルートができたね」
「うん。シマウマも奥にいるよきっと」
ルイスはそう言うとほほえんだ。奥は手強いかもしれないけど、ルイスがいれば大丈夫だろう。
「ダンジョンフルーツ楽しみだな!」
「ダンジョンフルーツ?」
「うん、前言ってた果物のこと。ダンジョンにしかないフルーツだから、ダンジョンフルーツって言うの。桃ぐらいの大きさで、マンゴーより少し固め、しっかりした果肉で甘いって。ケーキには最適だよ」
「へ~。楽しみだな」
私たちは昼ご飯が済むと、六層目に降りた。森に入って、隠れているモンスターを探した。
「あ、ホーンカメレオンがいる!」
私が静かに言った。私も目が慣れてきたみたい。枝の上にいたカメレオンを叩くと、七色の魔鉱石と三角の穴あきチーズが落ちた。
「チーズだ! うわ、これでグラタンを作ったら絶対おいしいよ! 魔鉱石もきれい」
「そうだね」
でもこの状態で持っていたらモンスター化するので、必ず魔法使いが無効化して半魔鉱石にしないといけない。半魔鉱石になれば普通の宝石としても使える。ただ、魔法使いに加工を頼むと高いのだ。
庶民には必要ないからやっぱり換金だなと思う。
途中で、薬草を見つけた。
「眠り草だ」
「え?」
「睡眠薬に使う薬草だよ。通称、眠り草」
ルイスは語呂に笑った。私は採取する。また歩き出すと、ルイスが静かな声で言う。
「あそこ見て」
見ると、ホーン山羊が四匹寝ていた。私はそっと近づいて全部叩いた。ポンと音を立てて、それぞれいろんな色の魔鉱石と生クリームの入った瓶を落とした。
「生クリームだ! わあ、ケーキのクリームが手に入った! 最高!」
「生クリーム……。アイテムって不思議だよね……」
「なんでもありだね」
ルイスが微妙な顔をしたので、私はちょっと笑った。少し大きめの瓶に貼ってあるラベルには、モンスターと書いてあり、その下に大きい文字で生クリームと書いてあった。モンスターの会社でもあるのだろうか?
中央の道を挟んで隣の森にも入ると、ホーン牛が四頭、草を食べていた。
「やっぱりいた!」
ハンバーグだ! ゆっくり後ろに回り込んで、私が叩いてみた。ポンッと牛が消えた。もう一匹も驚いている隙に叩いた。牛は大きいから隠れながら動ける。残りの二頭も叩いて全部消えた。四頭とも油紙の袋に入ったハンバーグを落とした。どういう仕組みなんだ……。
「これで今日はハンバーグだね!」
「うん」
「やっぱり、大人しいモンスターは驚いて消えたみたいだね」
「そうだね。好戦的なモンスターとは違うみたいだね」
ルイスも顎に手を当てて考えていた。今日は簡単に十体も倒せた。ルイスが提案した。
「ちょっと時間もあるから、下の様子を見に行こうか」
「うん、いいよ」
私たちは中央の道を突っ切って、手前の階段から七層目に降りた。
相変わらず騒々しかった。三方の道をそれぞれ見ると、また同じようにモンスターと対戦していた。モンスターも同じだから、縄張りがあるのだろう……。
左の森にこっそり入って見ていると、コーネルたちはまたライオンの親子連れと向き合っていた。私たちは茂みに隠れて見ている。
「あいつら、また同じだ」
「本当だ!? ……あれ? どういうこと?」
同じことを繰り返してる? 昨日は撤退したって言ってたけど……親子連れを避けたらいいんじゃない?
「もしかして、ダンジョン症? 同じことを繰り返しているのに気がついてないとか?」
「ありえるかもね。聞いてみないと分からないけど。戻ろう」
「うん」
私たちは見つからないように、身を低くしてゆっくり森を出た。
「分かっててやってるのかな? そのうち、倒せるとか?」
「コーネルたちも一か月かかったって言ってたから、そのうちループから抜け出せるのかも」
変化がないと、なんだかよく分からなくなるよね……。階段に向かうと、女の子たちが休憩していた。
「あれ、聖剣の子じゃない?」
「声かけてみようよ。あの~」
女の子二人がルイスを見ながらやってきた。前見た、おしゃれな服装の女の子たちだ。スカートの女の子が話しかけてきた。
「私たちのパーティを手伝ってくれませんか?」
中央の道で対戦していたパーティだ。男の子たちは道の途中で話していた。モンスターは縄張りから離れると、追ってこないみたいだな。
「俺たちもう帰るんだ」
「え!? まだ、十四時前ですよ!?」
ルイスは黙った。短パンの女の子が、私を見ながらボソッとスカートの子に話す。
「多分、あの変なハンマーの子に合わせてるんだよ」
「そっか。あの子なんか邪魔だよね」
普通に聞こえている。当然ルイスも耳がいいから聞こえている。……あれ? 私は小さめの声で話しかけてみた。
「あの……」
二人は聞いていなかった。ルイスにこっそり話した。
「あの二人、耳が悪いのかも」
「そうみたいだね」
ルイスは二人に聞いてみた。
「君たちのパーティは、いつも二体倒してるの?」
「そうです。それで一日が終わるの」
五人で二体だと効率悪いよな。短パンの子が答えた。二人とも声がデカい。ここが騒がしいからかな? 目の下にクマがあって、顔色も悪いな。ローシャさんたちの、以前の状態と似ていた……。
「私たち、七層目であのパーティに誘われて後方支援しているの。でもずっと、進めないの」
「そうなのか。ありがとう。じゃあ、頑張って」
ルイスは手をふり、私たちはその場を後にした。二人も名残惜しそうにルイスに手をふる。私のことは見ていないな……。私も手はふらずに、いないものとして振る舞った。
階段を上ってからルイスが申し訳なさそうに言った。
「あの二人、ユミの悪口を言ってたね……」
「うん。前も言われたけど、もう気にしてないよ。だって、このハンマーはすごいから」
「そうだね」
私がハンマーを前に出して言うと、ルイスもちょっとニッコリした。
「あの階にいる子たちも、ダンジョン症になっているのかもしれないね。顔色が悪かった」
「そうだね。コーネルたちも顔色がよくなかったから、そうかもしれない」
コーネルたちは分からなかったな。——でも、言ってもしょうがないだろうなと思う。みんな、自分のやりたいようにしたいからな……。




