29、任務完了
カシムさんは時計の鎖を持って、時計を掲げた。
「ありがとう。これを見せれば依頼主も信用するだろう」
「私も欲しい!」
ダリアさんがカウンターで叫んだ。
「ダリアさんはやめたほうがいいですよ。高価なものを持っていたら危ないです」
「そうよね。私には不釣り合いだわ」
ダリアさんは首を横に傾けて、マントの時と同じようにあきらめた……。私は苦笑した。レヴィさんたちには今度渡そう。受付で魔鉱石を換金する。
「今日は二六〇〇ルトよ」
おお~、換金の最高額を叩き出した。そういえば、食材に夢中で薬草を取るのを忘れてた。明日は取らないと。
火曜日の朝。ハオはユメイナの劇場で、オーナーのアントニオに呼び出されていた。アントニオは椅子に座り、執務机の上で肘をついて両手を握っていた。
(休み明けにどうしたんだ?)
「ハオ、お前勇者と知り合いになったそうだな」
(その話か~。カフェの店長か、ジェイたちが話したんだな……)
ハオは心の中でため息をついた。
「はい。たまたま、ジョンソンパンのナンシーちゃんの寮に越してきて、紹介してくれたんですよ。オーナーのことも話しましたけど、他の仕事には興味がないって言ってましたよ」
「そうか。聖剣の持ち主がいると泊が付くからな。それに子供だと安く雇えるだろ」
「ルイスは、自分は強くないって言ってました。ライルのほうが普通ダンジョンにいるから腕は立つんでしょう」
「そうかもしれないが、ライルは少し頼りない所があるからな」
「それは、アイドル冒険者だからでしょ」(まだ子供だし……)
ハオはちょっと呆れた。アントニオは金にがめつい。
「あ、そういえばジョンソンパンで、アイテムバターのパンを売るそうですよ」
「何!? わし、アイテムバター好きなんだよね」
アントニオの目が光った。アントニオは新しいもの好きなので、みんな情報を伝えるようにしていた。
「買い占めちゃおうかな」
「やめてくださいよ、大人げない……劇場の評判が落ちますよ。
俺は、ナンシーちゃんの友達で、ルイスのパーティのユミちゃんが取ってきてくれるので、今度もらいます」
「え、その子は天使なの?」
「……普通の子です。あ、でも、冒険者なので普通とは違うか」
「わしも欲しい!」
「今度、ユミちゃんの誕生会に参加するので、オーナーもプレゼントを用意したらどうですか?」
アントニオは身を乗り出した。
「その年頃の子は、どんなものが欲しいの?」
「食べ物とか?」
「え? 食べ物でいいの? 天使なの?」
「……そうですね」
ハオは面倒なので合わせることにした……。
「高いものは受け取りませんよ。ホテルのシチュー缶なんてどうです? 一缶ずつ三人分用意してくださいよ」
「それでいいの?」
「バターと同じ値段ぐらいがちょうどいいですよ。ルイスとナンシーちゃんの分もあれば、オーナーの印象も良くなるでしょう?」
「そうだね。分かった。それぐらいはお安い御用だよ。お前のプレゼント代も出すよ。いくらいる?」
ハオも高い給料で雇われているわけではない。ハオはユミだけにプレゼントを渡すと、ナンシーに悪いと思っていた。
「三人に持って行こうと思ったんで、助かります。銅貨一枚でいいです」
「それでいいの?」
「手ぶらでって言われてるんで、いいんですよ」
「分かった」(ハオが親交を深めようとしているなら、勇者もその子もいい子なんだろう……)
アントニオはポケットからベージュ色の皮の折財布を出すと、銅貨一枚をハオに渡した。
ユミとルイスはその日、ダンジョンの五層目に行ってロバを探していた。
「薬草も取るね」
「うん」
私は道の草むらにしゃがみ込むと、痛み止めを採取した。六層目の薬草もチェックしないとな。何が取れるかな。
ゲートを通り過ぎてもホーンロバはいない。血気盛んな、ホーン豚と猪はいる。この二種類は、ルイスがいないと倒せないな。ルイスは猪とは相性がいいみたいで、またソーセージを落とした。
ルイスが豚を避けて、横に回り込み、聖剣で華麗に斬っても、豚はハムを落とさなかった。
「豚は難しいね」
「ユミが少しでも当てるといいのかも」
「そっか。何とか、当ててみるね。ソーセージはまた、ローシャさんたちに分けてもいいかな? 顔色がいいんだよね」
「いいよ」
「ありがとう!」
最初はヤジを回避するためだったけど、今は仲良くなって良かったなと思う。大人の理解者がいれば心強い。
「そういえば、最初にルイスが協会に行ったのは午前中なんだよね」
「うん」
「そっか」
午前中はめったに行かないからいいや。前と違って気持ちにも余裕があるから、ヤジを言う大人に会っても大丈夫かな? 悪口を言う子供に会ってもなんとかなってるし……。
私たちはまた奥に進んだ。
「各層の奥ってあまり行ったことないね」
「そうだね。手前で済むからね」
森の中も入ったことはあまりない。
「森の中に入ってみよう。静かにね」
「うん」
そうっと進んでいくと、開けた場所にホーンロバが数頭いた。ロバは群れになるんだ……。
「出て行ってみよう」
「うん」
私たちはロバの前に出た。ロバは当然驚いて固まった。私は、ちょっと話しかけてみることにした。
「ロバのマントが六枚欲しいのですが……」
ロバたちは、ゆっくり顔を見合わせると、六頭のロバがマントを落とした! そしてそのままぎこちなく方向を変えると、開けた場所からゆっくりと去って行った。
「落とした……話が通じた……」
「もしかしたら、ピギーと契約したからかも」
「え!? それならすごい! ピギーはいないけど役に立ってるね!」
契約して良かった! 私たちはマントを拾った。いろんな色がある。
「ルイスはどれにする? 私はグレーにする」
「じゃあ、この薄ベージュにするよ」
あとはチャコールグレーに、茶色が二枚、グレーが一枚だ。
「一か月取れないってのは、きっと逃げてるからだよね」
「そうだね」
二人でちょっと苦笑した。ロバの顔を見るたびに申し訳ない気持ちになるけど、倒さなくてすむのは時間短縮にもなるし、気が楽だな……。




