26、アイドルカフェ
行員さんが戻ってくると、開設書の控えと粗品を渡してくれた。二人でお礼を言った。
『ありがとうございます』
「通帳はこちらで預かって記帳します。お客様には、毎回取引書をお渡しします」
『はい』
「冒険者の方でしたら、十八歳以上になったら保険も入られるとよいですよ。他に金融商品もございますので、またお声をかけください」
『はい』
私たちは銀行を出て、ジョンソンパンに向かった。私はつぶやいた。
「保険か~」
「今はいいけど、大人になると大変だよね」
「冒険者は怪我が多いだろうから……保険か貯金だよね」
「口座作って良かったね」
「うん。しばらくは、少しずつ貯金しよっと」
十八歳未満の子供は働けない時でも、国から生活費の全額保証がある。十八歳以上二四歳までの若年層は生活保証が半分まであるが、払えないと寮を出て救済院で過ごすことになる。救済院で過ごした費用も払わなければならない。そこで日数分働くか、毎月返済だ。
二五歳以上は何もない。先の話だけど、少しは考えておかないとな。
「俺は毎月計算して、税金で支払う分をとりあえず貯金しておくよ」
「そうだね。私もそうする!」
ルイス、しっかりしてる!
ジョンソンパンに着いて、バターをルラさんに納品した。
「助かるわ!」
ルラさんは大喜びだった。私たちもパンをそれぞれ、二個と四個もらってニッコリした。ルイスはたくさん食べるから、パンも私が三分の一にした。
高級パン楽しみだな。買えるかな?
日曜日の午前中になった。私たちは今日、カフェヴィエントに行く。部屋の前で待ち合わせて三人で外に出た。ナンシーはこの日のためにおしゃれをしてきた。クリーム色の髪に白い水玉のピンクの髪飾りをして、ピンタックが縦に入ったピンクのワンピースに、白いレースのカーディガンを着ている。
「ナンシー、かわいい服だね」
「今日はユミの奢りだし、背が伸びたから、昨日買ってきちゃった」
ナンシーは照れ笑いした。カフェに行くのは一か月に一回ぐらいだから、気合が入るのも当然だな。私もほほえんだ。
私とナンシーは同じぐらいの身長で、ルイスが少し高いかな。みんな伸びている途中だ。
私も、白い小さなフリルの付いた赤いヘアバンドをしてちょっとおしゃれした。白いブラウスに赤いスカートを履いている。最近外でスカートを履いてないから、久しぶりに履いて気持ち良かった。
ルイスは白いシャツにベージュのズボン、濃いグレーのハンチング帽をかぶっている。結構おしゃれだな。何を着ても似合いそうだけど。
店に着くと、行列ができていた。並ばないために予約があるけど、当日来ても待てば座れるのだ。私たちは列の横を通って中に入った。カウンターにいる店員の男の子に予約券を見せると、席に案内してもらった。この子もアイドルだからカッコイイ。
「注文が決まりましたら、お呼びくださいね」
メニュー表を置いて去っていった。私たちがメニューを開くと、ルイスがナンシーに聞いた。
「おすすめは何かな?」
「おすすめは、ランチセットだよ。二ルトをプラスするとデザートが付くよ」
「デザートはいいや」
私が聞いてみた。
「ルイスはあまり甘いものを食べないの?」
「うん。そんなに食べない」
「そうなんだ」
私は食べたいから、食べなくてもいいのは不思議だな。ハオ君が挨拶にやって来た。
「来てくれてありがとう。こんにちは、ナンシーちゃん、ユミちゃん。こちらのはじめましての、カッコイイ男の子は誰かな?」
ハオ君は短髪の黒髪で肌は白く、細い目に面長の顔で、スラリと背が高い。ナンシーは目を輝せて、ほほがピンクになった。
「こんにちはハオ君!」
『こんにちは』
私とルイスも挨拶する。ナンシーがルイスを紹介した。
「この子は、ルイス。今月の始めにユミの隣に引っ越してきたの。聖剣の勇者なんだよ」
「え!?」
「ルイスです。よろしく」
ハオ君は勇者という言葉に驚いた。ハオ君も自己紹介をする。
「グループ、ウィッシュのリーダーでハオです。十六歳です」
ハオ君は二つしか違わないけど、しっかりしている。ナンシーが話した。
「今日はユミの奢りなんだよ」
「私、ダンジョンの冒険者になったんだよ。ルイスとパーティを組んでるの」
「へ~! 大丈夫?」
ハオ君は微妙な笑顔で心配していた。
「ルイスといるから大丈夫だよ。アハハ……」
「勇者のことは有名だから聞いてたよ。劇場オーナーのアントニオさんが気にしていたけど、ライルがダンジョンの最後尾にいるから大したことないって言ってたらしいけど……」
私たちは顔を見合わせた。ライルは他の子に聞いたんだろうけど……。
「それは本当だけど、金曜日に前の集団に追いついたから、多分追い抜くと思う……」
「そうか、やっぱり勇者はすごいよね。——これ、俺の名刺」
「ありがとう」
ハオ君はルイスに名刺を渡した。やっぱりもらえた。ルイスは含み笑顔だ。コレクションするかも……。
「注文はどうする?」
「私は、Aランチとデザート」
「私は、Bのサンドイッチとデザート」
「俺は、Cにするよ」
ナンシーから順に頼む。ナンシーは五ルトのチップをハオ君に渡した。五ルト以上のチップで、十分話せるのだ。
「ハオ君、チップね」
「私も出す」
「俺も出すよ」
「え!? みんなありがとう」
ハオ君はうれしそうに受け取ると、注文を伝えに行った。
厨房のカウンター前では、定員のアイドルたちが待機している。今日は、三グループのメンバーの一部が店員の仕事をしていた。
ハオと同じグループのジェイが、戻ってきたハオに声をかけた。
「ハオ、ナンシーちゃんの連れの男は誰なの? 俺たちそっちのけで、女の子たちが気にしてるよ」
ジェイは不満そうだ。
「勇者のルイスだよ」
『勇者!?』
一緒にいたルウと二人で驚いた。ハオは厨房に注文を伝えた。
「A、B、C、オールワンです」
「どういう知り合い?」
ジェイが興味津々で聞いてきた。
「同じ寮に越してきて、ユミちゃんとパーティを組んだんだって。今日はユミちゃんの奢りらしいよ」
「え~、あのいつもお金持ってなさそうなユミちゃんが!?」
「お前、そういう言い方するなよ……」
ハオが呆れる。ジェイは顎に指を当ててつぶやいた。
「やっぱり、冒険者は儲かるのか」
「三人からチップをもらったよ」
「え!? ……お前何気に、ちゃっかりしてるよな。勇者と知り合いになるし、ナンシーはパン屋の跡取りだし」
「お前らのほうが、ファンは多いだろ」
グループを支えているのはハオの歌とダンスだが、ジェイとルウのほうが顔がいいので人気があった。
「この仕事はずっと続けられないから、人脈は作っておかないと」
「そうだよな。ファンの子も結婚しちゃうし、若年層の二四歳ぐらいまでだよな」
ジェイは頭の後ろで両腕を組んだ。
「俺たち二人で冒険者になろうかって話してたんだよ。話を聞いてこようかな。ついでにチップももらおう」
「今日はやめとけ。友達同士で楽しんでるんだから。俺が親しくなったら、そのうち紹介してやるよ」
「さすがリーダー」
ハオは、話をするためにナンシーの席に戻った。




