25、銀行に行く
「あの二人、毎回あんな感じなのかな?」
「そうかも……」
階段を上りながら二人で笑った。ルイスが聞いてきた。
「寄るところはどこなの?」
「ミサたちが貯金してるって聞いたから、私も銀行に口座を作ろうと思って。ルイスは銀行口座を持ってる?」
「持ってない。必要だと思ってた」
「じゃあ、一緒に銀行に行って口座を作らない?」
「うん、いいよ」
「じゃあ決まり。銀行は三時までだから間に合うと思う」
この街には銀行が三行あって、三行とも離れたところにある。東にある貴族の区画にある銀行と、北にある平民の区画の中心地ユメイナにある銀行、それから協会に近い南にあるアトロス銀行だ。協会からは十分で行けるけど、私たちの寮からは二五分だ。ユメイナは十分で行ける。
「家から近いところがいいよね」
「そうだね。ユメイナ銀行の方が近いよね」
「うん。じゃあ帰りにユメイナ銀行に行こう」
「うん」
私たちは協会に寄った。今日はいつものメンバー六人だけだった。良かった。みんなと挨拶を交わすと、私はロバのマントを二枚取り出した。カシムさんだけ反応して、椅子から腰を浮かした。
「今日も取れたんです。私たちまだ必要ないから、先にレヴィさんのパーティに渡そうってことになって」
『え!?』
レヴィさんのパーティは驚いた。私は二人にマントを差し出した。
「どうぞ」
二人は戸惑っていたけど、すぐに喜んだ。レヴィさんがグレーのマントを掴んだ。
「私がグレーね。素敵だわ。ありがとう!」
「ありがとう」
ダンさんが茶色のマントを受け取った。カシムさんが言った。
「どういうことだ?」
「別のロバがいて……私を見たら落として逃げたんです。この分だとすぐに集まりそう……」
「マジか……」
カシムさんが目を押さえて黙った。静かになったので放っておこう……。
「ユミちゃんすごいね」
ローシャさんが、目を見開いた驚きの顔のまま固まって褒めてくれた。レヴィさんはマントを広げて見ていた。
「これで四十層に挑戦できるわ。これでも私たち、A級なのよ。ねえ、さっそく帰って明日の準備をしましょうよ」
「ああ」
「ありがとうユミ」
レヴィさんが私のほほにキスをした。私は驚いた! 初めて祝福のキスをされた。二人は手をふって協会を出ていった。あの二人はA級だったんだ……意外とすごいかも。
四十層からはA級しか入れない。普通ダンジョンは層ごとに入れるランクが決まっている。そのランクがパーティに一人でもいればOKだ。
今日の魔鉱石を受付で出す。
「今日は一〇二〇ルトね。魔法袋の残りの代金は、昨日カシムさんが払ってくれたからもういいわよ」
『え!?』
私たちは驚いてカシムさんを見た。カシムさんは少し恥ずかしそうに言った。
「マントをもらうから、そのお礼だ」
『……ありがとうございます!』
私たちは喜んでお礼を言った。
「ユミは中古の魔法袋を買うのよね。在庫があったから、メイアたちもさっき買ったわよ」
「そうなんだ!」
「色はチャコールグレーとエンジがあるけど、どうする?」
ダリアさんが二枚出してくれた。どっちも渋くていい色だよね。
「エンジにします」
赤系がかわいいかな。私は巾着から金貨一枚を取り出して、ダリアさんに渡した。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
魔法袋と保証書兼使用書をもらった。ルイスが私を見て言った。
「良かったね」
「うん! 紺色のほうは中身を出したら、ルイスに渡すね」
「うん」
私たちは換金を終えると協会をあとにした。さっそくユメイナの銀行に向かった。ここからも十分ぐらいだ。
銀行に着いた。銀行は白っぽいレンガ造りでなかなかの大きさだ。中に入ると、窓口が並ぶ。行員さんが来て要件を訊ねてくれた。
「今日はどうされました?」
「二人で口座を作ろうと思って」
「そうですか! ではこちらへどうぞ」
右側にある、椅子が置いてある窓口に案内された。
「どうぞおかけください」
「入金金額は、いくらでもいいですか?」
「はい、いいですよ。一ルトからでも構いません」
聞いてほっとした。まだそんなにお金を持ってないから……。
「ご職業は何ですか?」
「二人ともダンジョンの冒険者です」
「そうですか。今十八歳未満の方が口座を作ると、粗品をお渡しするキャンペーンをやっています。こちらからお選びください。口座の開設書を持ってきますね」
店員さんがチラシを貼った卓上看板を指して言うと、その場を離れた。商品の写真が載っている。食べ物から日用品まで五個ある。
「どれにしようかな。あ、ユメイナの高級ホテルのクッキーがある! 食べてみたいから、私はこれにする。ルイスは?」
「ん-、洗剤かな。一人暮らしだとあまり減らないけど」
「そうだね」
ルイスは堅実だな……。ちょっと笑った。
寮は共同の洗濯場があって、容量の小さい手回し式の洗濯機から、大物が洗える下に排水口の付いた膝ぐらいの高さの桶が使える。上から、丸い板が付いた洗濯棒で押し洗いする。すすぎが終わったら、桶の底より小さい板を置いて、上から乗って脱水するのだ。
他にあるのは、ティッシュ五箱、トイレのちり紙一パック、紅茶一箱だ。
「クッキーは五枚しかないけど」
「これは、値段揃えてるよね。ティッシュもちょっといいのじゃないかな」
店員さんが開設書を持ってきて渡してくれた。私たちは必要事項を書き込んだ。
「身分証はありますか? 冒険者証でもいいですよ」
「はい」
二人で首に下げた冒険者証を外して渡した。行員さんはそれを見て書いた内容を確認すると、身分証のチェック項目にレ点を打った。
この国では偽名でも口座を作れるので、身分証はなくてもいいのだ。
「では、最初に預けるお金をお渡しください」
「いくらにしようか?」
ルイスに聞いてみた。
「じゃあ、銅貨一枚にしよう」
「うん」
私たちはそれぞれ巾着から銅貨一枚を出して、行員さんに渡した。
「粗品は何にしますか?」
「私はクッキー」
「俺は、洗剤で」
「分かりました。では、登録してきますので、しばらくお待ちくださいね」
「はい」
何となく銀行は静かで緊張するな。これからどのぐらいお金が必要になるか分からないから、あまり預けられないけど……。私の武器を買って、あっという間に使ったこともあったし。あと考えていることがある。
「カシムさんとの取引は、それなりにもらうつもりなんだ。そのときはルイスと山分けね」
「え? いいの?」
「だって、ルイスがいなければ取れないよ。それに、税金が多くなるから分けたほうがいいかなって。毛生え薬のほうは、ミサたちに紹介料を払うつもり。
私の分は、寮のみんなに魔法袋を買おうと思ってるの。魔法袋は便利だからみんなも欲しいと思うんだよね」
「それなら、俺の分も使ってよ」
「え? いいの?」
今度は私のほうが聞いた。
「うん。それに、物々交換にすれば一部非課税になるよ。俺の枠も使ってよ」
「そうなんだ」
ルイスはニッコリ笑った。よし、税金のことを調べなきゃ。




