22、バター問題
奥さんは店の奥に戻っていった。ミサの話では、
「店の奥で薬草を作ったり、仕分け作業をしているのよ」
「金貨を払うよ」
「ありがとうございます」
笑顔の店長さんから金貨を受け取った。ミサとメイアに一枚ずつ分けた。
『ありがとう、ユミ』
「うん」
二人にお礼を言われる。店長さんが驚いて不思議そうな顔をする。
「あれ?」
「今日はミサたちとダンジョンに入ったんです。私たち、このお金で中古の魔法袋を買うことにしたんです」
「そうだったの」
店長さんはニッコリした。それから缶を指さした。
「これ、また売ってほしいね」
「まて、俺が先だ」
横からカシムさんが、片手を店長さんに向けて制した。
「そうなの?」
「……えっと、じゃあ取れたときに、交互に持ってきます。私も自分の髪の毛が大事なんで……」
「カロットは髪をむしり取るのよ」
ミサが補足すると、店長さんは驚愕した。
「なんて恐ろしいモンスターなんだ……」
カシムさんは渋い顔をした。
「このことは、内緒にしてくれ。ユミが危ない目に遭うかもしれないからな」
「あ! そうだね。口コミだけにするよ」
「あと、転売防止も」
「それなら、はげてる本人にだけ売るよ。身分証も提示してもらって、二回目は売らないことにする」
カシムさんと店長さんで話をまとめていたので、私もちょっと発言した。
「あの、薬局ではお金をたくさん持ってない人でも、買えるようにしてほしいです。買取価格を変えてもいいので」
「そうなの? じゃあ、住んでるところで料金を変えるよ。——君は本当に優しいね。
効果が高い薬草は病院に回しているんだよ。患者さんが待ってるからまた取ってきてね」
「……はい!」
そっか、ミサとメイアの役に立つだけじゃなくて、薬局の人や、病院、そして患者さんの役に立っているんだ。そう思うと、仕事をしてる実感が湧いてくる!
私たちは店を出た。カシムさんが私を見ている。
「ユミ、お前は本物だな」
「あははは……」
褒められてちょっと照れ臭かった。ミサが言った。
「じゃあ、私たちはもう一軒納品に行くから」
「俺は協会に戻るよ」
私はカシムさんにお願いした。
「じゃあ、ダリアさんに中古の魔法袋を三つ注文しておいてください」
「分かった」
カシムさんは片手を上げて戻っていった。ミサとメイアに手をふって別れた。久しぶりに一人で家に向かう。今日も楽しかったな。ルイスに話すことがたくさんあるよ。
翌日、ルイスとドアの前で会う。平日会わないと、すごく久しぶりな気がするな……。
『おはよう!』
「昨日はどうだった? ユミが怪我をしてないか、すごく心配だった」
ルイスが心配そうに聞いてきた。やっぱり保護者だ……あはは……。
「大丈夫だったよ! 上手くいって、一人でも慣れたと思う」
「そうなんだ。良かった!」
それから、昨日の毛生え薬のことを話しながらダンジョンに向かった。
「え~!! すごい! やっぱりユミはすごいよ」
「あはは」
照れながら笑った。おじさんたちの名前も教えておいた。
「ルイスはどうだった!? すごく話を楽しみにしてたんだ」
「うん、おもしろかったよ。みんなすごく熱心に応援してた。でも、もう次はいいって、レイたちに断っておいた」
「そうなんだ」
やっぱり! ルイスらしいな。
「そういえば、冒険者で人気だって言う、男の子を見たよ」
「え~、ライルのことかな?」
「あ~、そんな名前だった。アイドルの護衛の仕事をしていたよ。劇場主と契約していて、ブロマイドも売ってるってレイが言ってた」
なんだ、休んでる人いるじゃん……。でも、普通ダンジョンで余裕がある人はいいのかな?
「そうなんだね。契約してるのは知らなかった。そういう仕事もあるんだ」
「うん。——コンサートは一時間交代で、いろんなグループが入れ替わりでやっていた。終わった後に交流会があって、見に行ったティアラのナンバーワンの女の子と歩いて現れたから、みんな嫉妬していた。その子は、レイたちの推しとは違うけど……」
「あははは」
なんだか思わず笑っちっゃた。
「アイドルは男女交際禁止だから。二人は友達までだよね」
「そうなんだ」
この国の法律で、素行の悪い者を舞台に出してはならない。みんながマネをするからだ。
ルールを守らない子は脱退させられるし、劇場主もルールを守らないと廃業になる。——結局ルールは、自分のためなんだと思うけどな。
「交流会を端で立って見てたら、フルールってグループの子たちから名刺をもらったんだ」
「おお~、さすがルイス」
「いや、多分客引きだと思う……。カフェの名前とか書いてあるから。ユミに見せようと思って持ってきた」
やっぱりルイスは冷静だ……。ルイスが、ポケットから名刺を二枚取り出した。かわいい女の子の写真とグループ名と名前と番号、出ているカフェの名前と住所が書いてある。裏には劇場の名前と住所が書いてあった。
「私もハオ君の名刺持ってるよ。ルイスも今度もらえると思う」
「なんかコレクションできそうだよね」
ルイスは笑うと、突然真顔になった。
「ユミがアイドルになったら、コンサートには行くよ」
親馬鹿だよ……もう! 私は恥ずかしくて、ただ笑った。
ダンジョンに近づくと、ルイスが今日の予定を言った。
「今日はルラさんのために先にバターを取って、午後から六層目に行こうか」
「うん」
お仕事の依頼だもんね。そうだ、
「余分に取れたら、ミサたちに持って行こうよ」
「うん、いいよ」
よし、今日はモンキーに挑戦だ!
ダンジョンに着くと、もちろん誰もいない。門番のおじさんに挨拶をして、三層目に降りた。
中央の道を進むと、ホーンコヨーテが現れた。でも、近づかずにすぐに逃げた。
「あ、逃げられた。私も、フィンガーレスグローブ欲しかったのに」
ルイスが苦笑した。また進むと、ホーンモンキーが草むらから顔を出した。でもすぐに顔をひっこめて、いなくなった。
「あれ? モンキーもだ。……このままだとバターが取れないから、まずいね」
二人で立ち止まって考えた。普通モンスターは、人のエネルギーを取るために寄ってくるし、縄張り意識が強いので好戦的だ。
「ルイスを覚えているのかな? 聖剣と関係がありそう」
「そうみたいだね……」
聖剣は神聖力なので、魔力とは違う。それが嫌なのかな? 困ったもんだ。




