21、薬の効果
カシムさんがいつものように、横から顔を出した。
「今日は一人でやったのか」
「そうですよ!」
ちょっと、えらそうに言ってみた。私はダリアさんに、
「今日は三人で分けます」
「あら、それなら、魔法袋の分は引かないわね」
「ありがとうございます」
ダリアさんが量っているうちに、カシムさんにこそっと聞く。
「カシムさん、毛生え薬の買取っていくら?」
カシムさんはギョッとして私を見ると、声を抑えて言ってきた。
「お前、おかしいぞ」
前も聞いたような……。
「いいから、教えてくださいよ」
「私、聞いてきます!」
ダリアさんが突然小声で言って、いなくなった。聞いていたようだ……。いなくなったダリアさんに向けて、カシムさんが小声で言った。
「おいこら、俺が聞かれたんだぞ!」
カシムさんは私のほうに向きなおって、顔を寄せてひそひそ話した。
「カロットの超レアアイテムじゃないか。取ったのか?」
「取りましたよ。だから聞いてるんですよ」
「ユミ、お前は恐ろしい子供だな……。ここ数年誰も取ってない幻の逸品だぞ。ロバのマントが金貨五枚から売れるのに対して、金貨十枚以上の値が付く」
「マジか!」
「すごい!」
私の後にミサも顔を寄せてひそっと驚いた。
「じゃあ、金貨三枚にしようよ。私も自分の魔法袋が欲しいから、みんなで一枚ずつ」
「わあ、いいの?」
「うん、みんなで買おうよ」
「わ~い」
メイアも喜んだ。カシムさんが言った。
「それを俺に売ってくれ」
「ダメよ。こっちが先よ」
ミサがカシムさんに言う。
「なんだ、もう決まってるのか?」
「うん。ミサの取引先のマイソ薬局の店長さん」
「薬局のおやじが、金貨三枚も払うか!?」
「聞いて要らないならカシムさんに譲るわ。でも、店長さん悩んでそうだから買うと思う」
「分かった。これから行くのか?」
「はい」
私が返事をする。
「なら俺もついていく」
えー!? 三人とも驚いた。 そこへダリアさんが戻ってきて、身を低くして口元に手を当てた。
「買取は金貨一枚です」
「なんだ、ロバのマントと同じなのか? だからみんな協会に売らないんだよ」
「ロバのマントは昨日言ってたアイテムね。すごい高価なんだ」
「薬草取りには必要ないけどな」
カシムさんがミサに釘を刺してくれた。ダリアさんは困った顔で言った。
「だって、今まで一度も買い取ったことがないし、本当に効くか分からないって言われました」
そうなんだ! 本にも「古の文献には」と書いてあったから、本当に超レアアイテム! カロットは、アイテムを落とさないモンスターで有名だろうな……。火の魔鉱石が欲しい人にはいいけど。
私はダリアさんに返事をした。
「分かりました」
「今日は、四二六ルトよ」
「はい」
一人一四二ルトだ。それぞれが受け取って、顔を見合わせてニッコリした。カシムさんがダリアさんに言う。
「さっきのことは他に言うなよ」
「分かってますよ。私たちには子供たちの安全を守る義務がありますから」
ダリアさんが胸を張って親指を立てた。私はその言葉にホッとした。……ルイスの聖剣と同じで、目をつけられないように気をつけなきゃ……。
みんなに手をふって協会を出た。四人で薬局に向かう。
「じゃあ、先にマイソ薬局に行くわね」
ミサたちが先に歩いて案内してくれた。協会の近くにある、小さい薬局に着いた。店内に入ると、カウンターのおじさんにみんなで挨拶する。
『こんにちは』
「こんにちは、ミサとメイア。それに友達とお客さんかな?」
おじさんはミサたちが私と、カシムさんを連れてきたことに驚いた。
「俺も友達です」
「そうなんだ」
「今日の分です」
メイアがおじさんに魔法袋を出すと、おじさんは中身を確認した。この人が店長さんかな。白髪交じりの髪を、はげた頭の上に渡していた。
「あ! 毒消し草があるね! 君はもしかして、いつも薬草を取ってきてくれる子だよね」
店長さんが私を見て言った。
「そうです。ユミンスです」
「そうなんだね。君が取る薬草は効果が高いって評判だよ」
「え!?」
そんなことが分かるの!?
「魔力は気持ちに敏感なんだよ。取る人によって変わったりするんだ。業界ではそういう話。——君は友達思いだからね」
へ~、知らなかった! 店長さんに褒められて、ちょっとうれしい! カシムさんが顎に手を当てて私を見ている。ミサも私を見て言った。
「ユミは、やっぱり違うわね」
「今日は一〇五ルトだね」
店長さんが買い取り額を言った。魔法袋は中身を知っている人が見れば、どれだけ入っているか分かるようになっている。店長さんがカウンターの下から別の魔法袋を取り出して、メイアにお金と一緒に渡した。明日の分の空の袋だな。
ミサが私をちらりと見てから、店長さんに話を切り出した。
「店長さん、今日ユミが毛生え薬を取って来たんだけど、買いますか?」
「え? あの幻の秘薬、カロットの毛生え薬を?」
さすが店長さん! 薬に詳しい! 私は魔法袋から缶を取り出して、店長さんに渡した。店長さんはラベルを見た。
「書いてあるね。本物なの?」
「出てくるところを見ましたよ」
ミサが言う。
「いくら?」
「金貨三枚です」
「う~ん。——若いころ無理して仕事してたから、寝てなくてこんなになっちゃったけど……ちょっと家内に聞いてくる」
店長さんは頭を指で軽く触って話すと、薬草の入った魔法袋を持って横のドアから店の奥に入っていった。ミサがみんなを見て言った。
「やっぱりほしいみたいね」
「そうだな」
カシムさんが返事をした。店長さんが奥さんを連れて戻ってきた。
「今更髪の毛なんていいじゃないですか」
「でも本物みたいだよ」
「効果がなかったらどうするんです」
奥さんと揉めている……。カシムさんが提案する。
「じゃあこの場で試したらどうだ? お宅は、金貨三枚を用意してくれ。効果があったら払えばいい。どうだ、ユミ?」
「それでいいですよ」
「試していいの?」
「それなら、損はしないわよね」
奥さんも承諾した。金貨三枚は大金だからな。でも、薬局は儲かってるだろう。店長さんは金貨三枚をカウンターに出した。
使用方法は、「一缶一人分。まんべんなく生えてほしい所に塗る」と書いてあった。奥さんが塗ることになった。缶を開けて中を見せてもらうと、透明のとろっとした液体だった。店長さんは座り、奥さんがその液体を頭の上にまんべんなく塗った。
「あ~、温かくて気持ちがいい~」
店長さんが目を瞑って感想を言った。しばらくすると、毛のない部分が濃い色に変わった。横の残った毛も濃いこげ茶色になり、髪全体がちょうど似合う髪型に生えて整った。みんなそれを見て驚いた。奥さんは両手で口を押さえる。
「すごい!」
「生えた!」
「え? 本当?」
メイアが言うと、店長さんは頭を触る。
「鏡、鏡」
壁にかかった鏡のところまで行って見る。
「本当だ!? すごい! 若返ってる! わー、ありがとう!」
店長さんは泣いて喜んでいた。良かった、ほっとした……。それにしてもこの薬すごい!




